『セイント・モード/狂信』(2019)〜聖女を目指した彼女の場合

またもやA24配給作品。ある事故がきっかけでカトリックの狂信的な信者となった娘の事の顛末を描く。タイトルの『セイント・モード』のMaud(Matildaの愛称)には語源として「覆うこと、隠すこと、守ること」がある。…これは事実から目を背けるってことで合ってるかしら?(‘Д’)

Saint-Maud

■ セイント・モード/狂信  Saint Maud – ■
2019年/イギリス/84分
監督:ローズ・グラス
脚本:ローズ・グラス
製作:アンドレア・コーンウェル他
製作総指揮:メアリー・バーク他
撮影:ベン・フォーデスマン
音楽:アダム・ジャノタ・ブゾフスキ

出演:
モーフィッド・クラーク(モード)
ジェニファー・イーリー(アマンダ)
リリー・ナイト(ジョイ)
リリー・フレイザー(キャロル)
ターロック・コンヴェリー(クリスチャン)
ロージー・サンソム(エスター)
マーカス・ハットン(リチャード)
カール・プレコップ(パット)
ノア・ボドナー(ヒラリー)

■解説:
2019年に公開されたイギリスのホラー映画。監督はローズ・グラス、主演はモーフィッド・クラークとジェニファー・イーリーが務めた。なお、本作はグラスの長編映画監督デビュー作でもある。本作は日本国内で劇場公開されなかったが、2021年10月6日にデジタル配信が始
まった

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Contents

あらすじ

日本のワンルームよりまだ狭い小さなアパートの一室で、敬虔なクリスチャンであるモードは神に祈る。

─ 私の使命を早くお知らせください。

元は病院に勤める看護師であったが、救命措置をとっている最中の事故で患者を死なせてしまったモードは、それ以来、熱心なクリスチャンとなり、職場もホスピスに変わった。ホスピスとは終末期患者の看護や精神的な支えとなる医療の一種で、それこそが自分に与えられた天命だと考えた彼女。今日から泊まり込みで勤める先は、元有名なダンサーで振付師だったアマンダの屋敷であった。

Saint-Maud

酒や煙草、パーティが忘れられない49歳のアマンダは末期がんで余命いくばくもない。過去の華やかさを取り戻したいと思う反面、自分の現実を受け止めようとしているアマンダにモードは寄り添い、神に祈り、神のお力で変わることが出来ることをアマンダに語りかけていく。神など信じていなかったアマンダもモードの真摯さに心を開き、「私の救い主さん」と呼ぶまでの仲に。

だが、まだ命に執着するアマンダは、自分の生きている証として肉欲に溺れる時間を必要としているが、モードにはそれは理解できない。それどころかホスピスの邪魔になるとばかりに、アマンダのプライバシーにも口を挟むようになり、アマンダの屋敷を解雇されてしまう。モードにとって自分の天命を成就する仕事となっていたアマンダとの関係。それが突如消え去り、神への信念すら揺らぎだした彼女は自暴自棄となり、酒と男を求めて街をさまよう。そしてその結果、ますます狂信的な行動に身を置くことに ─


モードの信じるもの

Saint-Maud

清潔ではあるものの、狭く監獄のようなアパートの一室で神に祈るモード。「早く私に使命をお知らせください」と祈る言葉には、今の自分に対する神の仕打ちがとても理解できない、不満でいっぱいな様子が見て取れる。自分はこんなもんじゃないと叫び、もっと“自分が自分自身に誇れるような、自信を取り戻せるような何か”を願うモード。彼女には敬虔なクリスチャンというよりも傲慢な我儘娘というイメージが。

病院に勤めていた時の事故は、患者にとって不運な事故であったが、モードにとってはどうだったのか。第一、彼女の名前はモードではない、ケイティだ。どうして名前を偽っているのか?それも語源が“隠す、守る”というようなモードに。
事故が起きた時、あまりの出来事に放心状態で見上げた天井に這っていた一匹の昆虫。ケイティにはそれが「スカラベ」のような聖なるものに見えたのだろうか?その時に彼女が感じたものは、

今回起きたこのことは神の意志によるものであり、自分はそれを手助けしたに過ぎない。私は神に選ばれた。これからも神の意志が私を動かす ─

それからもこのスカラベは彼女の前に現れるようになる。

アマンダの屋敷で、初めてアマンダと心が通ったと感じた時に、明滅する廊下の照明や身を覆う暖かな空気に神の存在を確信したモード。だがそれは単に屋敷の電気系統が古く、感情が高ぶったために体温が上がったに過ぎない。だがモードは神とも通じ合え、そこに存在を感じ、恍惚となる。それは、神を感じることで得られる絶頂感なのだ。敬虔なクリスチャンというよりも、中毒患者だ。

Saint-Maud

中毒患者に必要なものは、その対象となるもののみ。モードの場合は神との対話であり、接触だ。それはほとんど恋愛感情そのもので、独りよがりの一方的な愛情表現の後、返ってくるものが無ければ感じ始める疑心暗鬼、孤独感。アマンダを通して、関係がうまくいっている時に感じた恍惚感はすぐに色あせ、解雇によって茫然自失となる。

その時にとったパブを回って酒を飲み、男をひっかけるモードの行動から見えるものは、彼女が本当に欲しかったもの「恋人」「人との触れ合い」といった若い娘ならごく普通に欲しいと思うものだ。アマンダに「これほど孤独な娘を見たことがない」と言われたモードはプライドが高く、確かに人付き合いが不得手なのだろう。そして、祈ることでいつも答えてくれるだろう神にその代わりを求めた。
─ だが、彼女はいきすぎた

神の声さえ聞こえるようになったモードは、存在しないものが見え、無いモノが聞こえる精神状態に。こうなっては医者の助けが無ければひどくなっていくばかりだ。クリスチャンである自分という固定概念を信じ、本や映画で見たような自らの肉体を痛めつけるキリスト教の苦行によって神に近づこうとするモード。
だが、彼女にひたひたと近づいてきたのは、どう見ても神とは真逆な存在のモノにしか見えない。「神の僕であり、神の天命を司る自分の邪魔をするものは全て排除する。」この考え方こそが神とは真逆なのだ。
─ モードは、悪魔の手に落ちた

モードの最期

ラストでモードに起きたこと、または起こしたこと。最後近くまで幻の中にいた彼女だったが、本当の最期、彼女は叫んでいた。叫んでいたのはケイティだ。ケイティは病院で 起きたことに対処できず、孤独の穴に落ちた。どこまでも落ちていく自分を助けるために見つけたもう一つの大きな穴。それは天国に続くものだったのか、または正反対だったのか。
今ならば分かるだろう。少し遅かったが…

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A24

ザ・ホエール
体重が600ポンド(約270キロ)ある父親が、長年疎遠になっていた10代の娘との絆を取り戻そうとするが ─
アメリカでは2022年12月9日公開。日本での公開予定は2023年。

A24とは

2012年8月20日に設立されたアメリカ合衆国のインディペンデント系エンターテインメント企業。映画やテレビ番組の製作、出資、配給を専門としている。
映画業界出身のダニエル・カッツ、デヴィッド・フェンケル、ジョン・ホッジスが映画配給を専門とするA24フィルムズを共同で立ち上げた。A24フィルムズの活動は2013年の終わりにリリースされた『スプリング・ブレイカーズ』により成長を始めた。同社はその後、『ルーム』、『エクス・マキナ』の米配給権および『ウィッチ』の世界配給権獲得で知名度を上げ、より大きく成長した。

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フィルモグラフィ

2013年

  • チャールズ・スワン三世の頭ン中
  • ジンジャーの朝 〜さよなら、わたしが愛した世界
  • スプリング・ブレイカーズ
  • ブリングリング
  • いま、輝くときに

2014年

2015年

  • ヤング・アダルト・ニューヨーク
  • カットバンク
  • エクス・マキナ
  • ベアリー・リーサル
  • スロウ・ウエスト
  • AMY エイミー
  • 人生はローリングストーン
  • ダーク・プレイス
  • ワイルド・ギャンブル
  • ルーム

2016年

  • 極悪の流儀
  • ウィッチ
  • 手紙は憶えている
  • クリシャ
  • グリーンルーム
  • サスペクツ・ダイアリー すり替えられた記憶
  • ロブスター
  • デ・パルマ
  • スイス・アーミー・マン
  • ロスト・エモーション
  • スイッチ・オフ
  • 追憶の森
  • ムーンライト
  • オアシス: スーパーソニック
  • ザ・モンスター
  • 20センチュリー・ウーマン

2017年

  • アウトサイダーズ
  • フェブラリィ -悪霊館-
  • フリー・ファイヤー
  • ラバーズ・アゲイン
  • 偽りの忠誠 ナチスが愛した女
  • イット・カムズ・アット・ナイト
  • A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー
  • グッド・タイム
  • フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
  • 聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
  • レディ・バード
  • ディザスター・アーティスト
  • ワイルド・ウエスト 復讐のバラード

2018年

  • シドニー・ホールの失踪
  • ラスト・ムービースター
  • 荒野にて
  • バグダッド・スキャンダル
  • 魂のゆくえ
  • パーティで女の子に話しかけるには
  • ヘレディタリー/継承
  • エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ
  • HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ
  • 暁に祈れ
  • ザ・チルドレン・アクト
  • Mid90s ミッドナインティーズ
  • クライマックス
  • ゾウの女王:偉大な母の物語

2019年

  • グロリア 永遠の青春
  • ネイティブ・サン 〜アメリカの息子〜
  • アンダー・ザ・シルバーレイク
  • ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
  • ミッドサマー
  • フェアウェル
  • SKIN/スキン
  • シェア 私に何が起こったか
  • ディック・ロングはなぜ死んだのか?
  • ライトハウス
  • キル・チーム
  • WAVES/ウェイブス
  • アンカット・ダイヤモンド
  • ファースト・カウ
  • ユーフォリア/EUPHORIA
  • ラミー 自分探しの旅
  • セイント・モード/狂信

2021年

2022年

  • X
  • MEN 同じ顔の男たち
  • Marcel the Shell With Shoes On
  • Everything Everywhere All At Once
  • After Yang
  • The Sky Is Everywhere
  • Funny Pages
  • Bodies Bodies Bodies
  • Pearl
  • Stars at Noon
  • God’s Creatures
  • The Inspection
  • Causeway
  • Aftersun
  • The Whale
  • The Eternal Daughter
  • Close

このブログのA24

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『グリーン・ナイト』 (2021)
~首切りファンタジーを観た

またまた公開を楽しみにしていたA24『グリーン・ナイト』。A24初のファンタジー作品という触れ込みだけど、いやいや違うんでしょ?怖いんでしょ?って勘ぐっていたのは…

lamb

彼らの世界は別にある
『LAMB/ラム』 (2021)

久しぶりに劇場で鑑賞して感じたのはA24らしい顛末の作品だということ。もちろんそれは「観る人を選ぶ」という意味で ─
感想後半ラストについての自分語り付き(-ω-)/

X-2022

『X エックス』 (2022)

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セイント・モード/狂信

The-Lighthouse

ライトハウス

Midsommar

ミッドサマー
ディレクターズカット版

Hereditary

ヘレディタリー/継承

ウィッチ

Mr. タスク

アンダー・ザ・スキン
種の捕食

複製された男

スプリング・ブレイカーズ

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