ある一軒の家に暮らす者を苦しめる、時代を超えた3つの物語。暖かみのある布で作られたストップモーション・アニメではあるんだけれど、おとぎ話にはならない物語たちの現実はかなり厳しい。
■ 家をめぐる3つの物語 – The House – ■
2022年/アメリカ・イギリス/97分
監督:エマ・ドゥ・スワーフ、マーク・ジェームズ・ロエルズ、ニキ・リンドロス・バン・バー、パロマ・バエザ
脚本:エンダ・ウォルシュ
音楽:グスターボ・サンタオラヤ
出演(声):
ミア・ゴス
マシュー・グード
クローディー・ブレイクリー
マーク・ヒープ
ジャービス・コッカー
スベン・ボルテル
イボンヌ・ロンバルト
スーザン・ウォーコマ
ヘレナ・ボナム・カーター
ポール・ケイ
ウィル・シャープ
■解説:
貧しい家族、追い詰められた売主、そして悩みを抱える大家。1軒の謎めいた家で繰り広げられる、異なる時代の3つの物語を描いたダークなコメディアニメ。NETFLIX
過去、現在、未来と時代の違う3つの物語が入っているオムニバス作品ではあるけれど、ある一軒の大きな家が時代を超えて舞台となり、その家と住まう人にまつわる物語が進められていく。ダークファンタジーなカテゴリーなので、どれもハッピーエンドとは限らないおとぎ話になってるよ…
ではいつもの通り、簡単なあらすじと感想を
Contents
Ⅰ 内側で聞こえて紡がれるウソ
あらすじ
丘の下の小さな家で貧しくもつつましく暮らしていた夫婦と幼い娘たちの一家。様子を見に訪問してきた金持ちの親戚からさんざん嫌味を言われ、腹立たしい思いを抑えたくて森に入って行った夫レイモンド。彼はその夜、不思議な乗り物でやって来た紳士と出会い、丘の上に建つ立派な屋敷を譲ってもらうことになる。条件は「今の小さな家を手放すこと」だけだったが、上の娘メイベルは何か嫌な予感がした ─
感想
とても可愛らしいフエルト人形のような登場人物たち。けれど彼らに起きる現実は厳しく、なかなか自らの手で運命を切り開いていくことが難しい。時代は19~20世紀前後のヨーロッパという感じで、ギャンブルで全てを失ってしまった父を持つ夫婦の災難を描く。
登場人物たちはとてもよく出来たお人形なのだが、何故か皆、目が小さい。そこに違和感を感じつつも観ていくと、彼らが見るべきものを見ずに、モノやお金に翻弄されていくことが分かってくる。まだ幼い娘たちが現実を正面から見ているのは、幼くお金の価値や苦労を知らないからなのかもしれない。
Ⅱ 敗北の真理にたどり着けない
あらすじ
ある街に建つ邸宅を買い取り、リノベーションを施して儲けを得ようと考えた男がいた。予算の都合からリノベーション作業を自分でやることにしたものの、壁から大量の虫が湧き出てなかなかうまく仕事が進まない。資金を借りた銀行からの催促電話が何度もかかる中、ようやく内覧会にこぎつけたその日、内覧にやってきたある夫婦が料理や宿泊までも強要するようになり、その家に居着いてしまう ─
感想
センスのいい男は古い邸宅をどんどん現代風のモダンな内装に変えていくのだが、厚い壁の中には先住民の虫たちがわんさか住んでいた、という話。
なんとか殺虫剤などで撃退するが、これはブラックファンタジー。敵は虫だけではなかった。
この建物は1作目と同じ外観で、時代が変わって丘の上が街になったんだなって分かる。内装も重厚な面持ちから、この男の手によってモダンな現代風になったが、住み続けている虫は今も昔も同じ。この家の主が不在な時代もずっと代々我が家として暮らしていたんだろう。モダンで真っ白なキッチンになったって関係ない。虫から見た人間(この場合ネズミさん)の欲などどうでもいい。
とは言え、男が受ける仕打ちにはかなり同情するけれど…
Ⅲ もう一度耳を傾けて 太陽を目指して
あらすじ
洪水で水没した街に建つアパートを経営しているローザ。住人はこの場所に見切りをつけ出ていってしまい、残っているのはまともに家賃も払わないイライアスとジェンの二人だけ。だがローザにはこの建物を素敵に修復して魅力あるものにし、どんどん住人を呼び込みたいという夢があった ─
感想
時代が変わり近未来なのかな。街全体は洪水で水没、小高い場所に建っていたこの家だけが残っている状態。周囲には水に沈んだものが微かに見えているけれど、よくよく考えるとかなり不気味な光景だ。そんな中で、この家の修復と帰って来るたくさんの住人を夢見て日々を送っているローザと、妄想と夢とかすみを食べて生きているようなたった二人のアパート住人。
けれど二人の住人も現実を見る時が来たことを知る。だって見てごらん足元を。また水位が上がったよ?分かっていないのはローザだけ。でも住人たちはローザを見捨てはしなかった。彼女の頑固な考え方と価値観を変えることが出来たのだ。この家と共に…
最後に
以上三つの物語。
一つ目の時代は人間で、後は動物になっていることから、もしかしたら二つ目はもはや現代ではないのかもしれない。そしてこの魅力的な大邸宅に固執するあまり命を失うことになってしまった一つ目。決して欲張ったわけではないけれど、決して虫たちの持ち物だったものを奪ったわけではないけれど、不幸な人生を送ることになってしまった二つ目。夢だった修復は出来そうもないけれど、命と家までもなくさないで済むようになった三つ目の物語。そのうえ仲間までいる。
ここにきてようやく、この「家」にとって納得できる持ち主が現れたのだろう。とは言え、やはり先には厳しい現実が…
四つ目の物語があるとしたら、主人公はきっと「虫」に違いない。
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