12月の初めから配信が始まったNetflix作品『終わらない週末』。どの国でもとても評判がよく視聴ランキングが上位であると紹介されていたが、観て納得。日常からいきなり訪れた危機的状況が簡単なものからより複雑なものへと変わっていき、すぐには理解できずに混乱する人々を描き出す。さて、その結末は ─
■ 終わらない週末 ■
– Leave the World Behind –
2023年/アメリカ/141分
監督:サム・エスメイル
脚本:サム・エスメイル
原作:ルマーン・アラム「終わらない週末」
製作:サム・エスメイル他
製作総指揮:トーニャ・デイビス他
撮影:トッド・キャンベル
音楽:マック・クエイル
出演:
- ジュリア・ロバーツ(アマンダ)
- イーサン・ホーク(クレイ)
- マハーシャラ・アリ(G・H)
- マイハラ(ルース)
- ケビン・ベーコン(ダニー)
- ファラ・マッケンジー(ローズ)
- チャーリー・エバンス(アーチー)
■解説:
人気ドラマシリーズ「MR. ROBOT ミスター・ロボット」のクリエイターとして知られるサム・エスメイルが監督・脚本を務め、ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク、ケビン・ベーコンらが豪華共演したサスペンススリラー。映画.com
タイトルに「終わらない~」と付いている場合、あまりいい意味には使われないのが常。本作はどうなんだろうと思いつつ観始める。不穏な空気感が赤と黒と銃で表現され、これがファミリー・コメディではないことが分かるオープニング。それに続き不機嫌で不愛想な主人公アマンダ役のジュリア・ロバーツが大写しに。いつもの大口を開けて笑っている彼女とは打って変わり、眉間に皺を寄せ、いきなり自分の気分と都合だけで週末の別荘を予約する。けれど相変わらず表情は不機嫌なまま。
週末の予定をいきなり告げられることになった夫クレイには、ほとんどの場合頼りない男の表情を持つイーサン・ホーク。今回もそう。
いつもと違う感じといつも通りの組み合わせによる、この完璧な初っ端のシーンの連続に引き込まれた管理人momorexは、いつもの通りの気に入った作品の見方で一気に最後まで観たのだった。
Contents
あらすじ
一家が暮らすニューヨーク、マンハッタンからほど近い郊外に別荘を借りて週末をゆっくり過ごすことにしたクレイとアマンダ夫婦。想像よりもはるかに豪華な別荘に喜び、庭のプールで早速遊ぶ子どもたち。だが到着早々に家のWi-Fiが繋がらなくなり、TVも映らなくなった。近くのビーチに家族で出かけると、ナビシステムの不具合で巨大なタンカーが浜に乗り上げる事故が起き、事情を尋ねると最近頻発しているのだという。
不安な出来事が続く一家の元に夜遅く、ニューヨーク一帯が停電になり仕方なく戻ったというこの別荘のオーナー、G・Hと娘がいきなりやって来る ─
見どころと感想
いつも不機嫌な妻アマンダ。それが忙しい仕事のせいだと理解している優し気な夫クレイ。ティーンエイジャーの兄妹。都会の喧騒に暮らす彼らは、それでもお互いを思いやる気持ちは忘れていない。今回のいきなり週末旅行発案も不愛想で疲れている自分を十分理解しているアマンダの自分への慰めと家族の気分転換が理由だったのだ。とにかく都会から離れ、日常を忘れ、おいしい空気を肺いっぱい吸い込みたい。
そうすれば少しは気分も良くなり明日からまた生きていけるだろう。
夫クレイはそんな妻を少し離れたところからそっと抱擁するかのように見守っている。彼女の決めることはいつだって正しい。自分はそれを助け付いていくだけ。それで家族はうまく回っている。
夫婦の長男アーチーは女の子に興味深々の年頃だが、妹思いの兄であり親に逆らうこともしない。妹ルースは少し夢見がちで、忙しい両親に構ってもらっていないという不満が常にある。目下の興味はTVドラマ「フレンズ」の最終回の結末だ。大事な放送を前に放送が受信できなくなったことに大いに不満がある。
そんな、ある意味普通の都会の家族。守るべき自分たちの大切な巣(今回は借り物ではあるが)に突然知らない人間が宿を求めて訪問する。
この時のアマンダの対応はかなりきついものであるのだが、証拠も見せずにこの豪邸のオーナーだという大男と娘がやって来たのでは仕方が無いといえる。今の時代ではあるものの彼が黒人男性というのも理由の一つになっているのはどうしたって間違いない。たとえ彼らがタキシードとドレスに身を包んでいたとしても、それすらもわざとらしく自分たちを騙そうとしているように見えるのだ。
この時の夫クレイの行動は、2人の子どもたちがいる父親として考えた場合あまりに軽率すぎる。
Wi-Fi、TVが受信できないという不便さに始まり、巨大タンカーがいきなり浜へ乗り上げる事故が起き、見知らぬ訪問者が一つ屋根の下で眠りたいと言ってくるという非日常的な判断と決定事項に直面した夫妻。それも決断はすぐだ。仕事のように持ち帰り、相談する上司はいない。夫婦は話し合い、なんとか対処を始めるのだが、このお話はこれはただの始まりに過ぎず、それもここまではごく小さな出来事でしかなかったということが後々分かってくる。小さな出来事ではあるのだが、夫婦にとって特にアマンダにとっては人生が変わる出会いでもあった。
紳士的に見えはするものの、それは仮の姿で騙されて何か盗られるのでは?命を脅かされるような怖いことが起きるのでは?他にも仲間がいるのでは?第一、ニューヨークの停電は事実なのか?それならわざわざここまで移動しなくても、ホテルに宿泊するのが普通なのでは?
アマンダと同じく観ているこちら側も気が気ではない。けれども放送が一瞬入るTVやラジオからはただの停電ではないとの情報が流れている。だが疑い深いとこれすらも悪い奴らの作り物ではないのかと思うのだ。こうなればとことん人が信用できなくなる。アマンダが最初に言ったように人が嫌いになるのだ。
本作はここまでアマンダと一緒に十分に人を疑い思ったことをずばずば言いつつ、疑心暗鬼になりながらも良心を捨てきれないクレイについていくことになる。けれど事実が少しずつ判明するにつれ、じゃあその原因は一体何!?と次の章に移動する。
もうここまで来たら、この作品から目を離せなくなる。
そして最後には結末という名の今回のすべての出来事の原因がはっきりと明かされることになる。この“原因”は決してフィクション的なものではなく、あくまでノンフィクションでリアル。実際、明日起こってもおかしくないように思えるような内容だった。
そんな時、人はどうするのか?けれど本作では肝心のアマンダたちの最後の行動は示されない。それでもわかる気がするのは彼らが自分たちと全ての未来に希望を持っているからだ。希望があるからこそ疑い深くなり、良心を捨てきれないのだ。希望を持ちたいからこそ良心の呵責に苦しみ忘れられずにいることになるのだ。
彼らは自分をよく分かっている。
だからこそ描かれない結末に、こちらは希望が持てるのだ。
ということで、ラストまで一気に観終わって、久しぶりに歯応えのある映画を観たなーっていう感想を持った。とはいえ、この年末年始に選んだ作品はどれも見ごたえのある楽しいものが多かった。ようやく世界は感染症を一歩乗り越えたように感じる。
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