こんなところにレフン監督作品がっ。カウボーイもどきの愉快な男がデンマークはコペンハーゲンで大暴れ?みたいなお話かと思いきや、全く違います。これはレフン作品。雰囲気は映画『オンリー・ゴッド』。主人公は少年のような女性。内容はいつもの“レフン監督”で、それが6話続いていくよ。
■ コペンハーゲン・カウボーイ – Copenhagen Cowboy – ■
2023年/デンマーク/全6話
監督・脚本・製作:
ニコラス・ウィンディング・レフン
配信:Netflix
出演:
- エンゲラ・ブンダロヴィック(ミウ)
- アンドレアス・リッケ・ヨルゲンセン
- ジェイソン・ヘンディル=フォルセル
- リー・イー・チャン
- ローラ・ギュルデンルーヴ・コルフィクセン
- ヴァレンティーナ・デヤノビッチ
- マリア・エルウォルター
- トーマス・アルグレン
- ズラッコ・ブリッチ
- ドラガナ・ミルティノビッチ
- ラマダン・フセイニ
各話タイトル:
- 幸運を運ぶミウ(56分)
- 私は復讐者(52分)
- ドラゴン・パレス(53分)
- チャンより愛をこめて(54分)
- コペンハーゲン(47分)
- 静寂を切り裂く者(53分)
■解説:
謎めいた特殊能力を持つがゆえに、幸運をもたらす存在として取引される人生を送ってきた女性。やがて、自分を不当に扱った者たちへの復讐(ふくしゅう)の道を歩み始める ─Netflix
ジャージ姿の少年(?)が車でおばさま方の集会に連れてこられる。どうやらこの子は特殊な能力を持っているようで敬われ、ありがたがられ、帰りにはこの子の髪を少しずつ切り分けてお土産に渡す始末。その頃にはこの子は少年じゃなくて女子で聖なる存在、まるでダライ・ラマのように祭り上げられ、何でも希望を叶えてくれる存在みたいな感じであることが分かってくる。
そんなありがたい存在がなんでお金集めを兼ねたおばさま集会、それも娼館を営んでいるおばさま代表に連れてこられたのかは分からない。なんでもこの女子ミウはデンマークに不法滞在しているから、そこを逆手に取られては持っているらしい特殊能力をうまく使わされているようだが、もうこの辺で「特殊能力を持つありがたい存在」だけど「不法移民」で「娼館の女主人の妊娠を手伝わされている」といった初っ端の流れに頭はほとんど(‘Д’) こんな感じに。
でもここでリタイヤしてはもったいないのがニコラス・ウィンディング・レフン監督作品(私momorexにとってはデヴィッド・リンチ監督・レフン監督は同じ括りになっている)。
思えば過去作の『オンリー・ゴッド』もそうだった。最初の10分でこのまま食い下がり観続けていけるかがリンチ・レフン作品の「監督の歩き方」だ。今回、私は成功した。(‘Д’)この顔で何とか第1話を観終わり第2話が終わった頃には続きが気になり観続けることになったからだ。
とは言え、あなたがどうなるかは分かんないけど ─
Contents
あらすじ
巷で噂の特殊能力を持つミウ。ある時はどうしても自分の子どもが欲しい娼館の女主人に大金と引き換えに妊娠を叶えてくれと頼まれる。ある時はギャングのボスにどうしても取れない片頭痛を治してくれと依頼される。どの希望も叶える力のあるミウだが、依頼人のあまりの理不尽な要求と態度に制裁を行うことも忘れない。
そんなある日、たまたま立ち寄った大富豪の屋敷で、仲良くなった娼館の娘の幽霊を目撃する ─
見どころと感想
このお話には6話を通して、とんでもない悪い奴が順に登場する。
それは娼館の女主人だったり、ギャングのボスだったり、金持ち一家だったり、ありがちではあるのだけれど、じゃあこれらの悪人を誰が退治するのか?そこが本作の見どころであり特徴である女子ミウ。彼女には魔法使いのような超能力者のような特殊能力がある。最初はただの勘違いじゃないの(-.-)とも思っていたのだが、どうやらそれは事実のようだ(でも一部マインドコントロール的なものもあるのでは(-“-)?という疑いは晴れないが)。
そしてこれらのヒーロー的な物語もアニメなんかではよくある系とも言える。だが、そこは監督がレフン氏なので仕上がりが普通とはかなり違っている。
まず最初にお断りしなくてはならないのが「大人向け」作品であること。そんなにアレなシーンは無いのであるが、バイオレンス的な場面も含めて全体的に漂うムードが「大人向け」。次にストーリーは単純なのに話の運びや善悪含めての登場人物の紹介映像、合間合間に挟まる“これはいったい…(-“-)?”という理解に苦しむシーン等々、意味があるのか無いのか(おそらくあるのだろうが)そんな駒運びに翻弄されることを覚悟すること。
この辺りが私がデヴィッド・リンチ監督と一括りにしている理由であり、なんかよく分からん気もするけど何故か一度は観てみたくなるレフン監督作品なのであります。そしてリンチ監督に赤いヴェルヴェットのカーテンがあるように、本作のレフン監督にもいつものブルーとレッド、ショッキングピンク、そして混じり合う紫のネオンの世界が広がってる。ミウの顔が青く照らされたり赤く燃え上がったり、そのネオンが登場人物の心情を表現しているのを助けているようにも見える。
主な登場人物
ジャージ姿のミウ
上にもいっぱい書いた通り特殊能力を持っているらしい不法移民。いつも青いジャージを着ている。
流れ流れて生きているが、その時々に世話になったり自分を利用した人々のことは忘れない。「恩には感謝を、理不尽には制裁を」が彼女のモットーのようだ。
と言っても、杖の一振りで何でもできるすごい魔法使いというわけではないから、自らの身体を張っての感謝、制裁になる。そのどちらも相手に合わせての言動になるようで、格闘家には格闘で挑むことができるし、人助けのためにクスリの売人をやることも出来る。
スクロールできます
マダム・フルダ
娼館から逃げてきたミウを匿って寝る場所と食事を与えてくれた。借金のかたに幼い一人娘をギャングのボス、チャンさんに奪われている。
チャンさん
ギャングのボスで格闘家。頭痛持ちで困っているところをミウに助けられていることから、彼女に偏った愛情を見せ始める。
ニクラス
金持ちの息子で、その態度は横柄、行動は残虐であり、人の命をなんとも思ってはおらず簡単に殺めてしまう。
ニクラスの姉
ニクラスの姉。ずっと棺に眠っていたが、怪我を負わされたニクラスが復讐のために姉を呼び覚ます。彼女にはいったい何の力が?
どの登場人物も非常にアクの強い、一度見たら忘れられない個性のある人物が多い。その中でもチャンさんとニクラスは別格。
チャンさんは『オンリー・ゴッド』の警官隊ボス(名前も同じチャン)を思い出す。武闘家で自分の信念のみが正義であり、それが生き方の全て。警官隊ボスは悪への正義の鉄槌を振るっていたが、今回それはミウの仕事。ニクラスはその面構えが独特であまり見ないタイプで性格の歪んだバービーのボーイフレンドみたいな感じ。やる事も考え方も見た目そのままで裏切らない。
その個性と一緒に大物、小物含めミウと関わる人物は、ミウにとっては「敵か、味方か、その他大勢か」の3通り。それに合わせてミウはきっちり落とし前を付けていく。よく考えてみれば、人にとって他人は「敵か味方かその他か」に分けられると言える。そんな関わった人に対して、自分の立ち位置をはっきりさせて、きちんと行動を起こすのがミウの生き方。それがきちんと出来るのは持ち前の計画力と行動力、格闘術があるからに他ならないけれど。
そして忘れてはならないのが、ここがコペンハーゲンであるということ。まぁ行ったことないからあまりよく知らないんだけれど、レフン監督によると街はギャングと一部の金持ちに牛耳られ、暴力と退廃に彩られている。そんな中で生きてくには敵を敵と知り、うまくかわしながら流れていくしかない。夢も希望も無い街コペンハーゲン。そんなところに現れた乙女ヒーロー、ミウ。大きな声も出さないし、変身もしないけど、決めたことはやり遂げる芯の強さがある。
この流れは勧善懲悪のヒーロー物語。そして誰かが言っていた。
あの力を持っている女子は大勢いるらしいよ
さいごに
この作品には立派な豚さんがよく登場する。
例にもれずギャングに殺された人物の処理だったり、金持ちのペットだったり。その金持ちは豚さんにひどい目に合わされた。さてこの豚さんたちは何を表現しているのだろうか。時々ペットとして飼われることもあるけれど基本的には人に食べられるだけの存在でしかない?けれどやる時はやる?馬鹿にしてたら足元すくわれる?
ラストには赤いジャージが登場したし、豚さんの意味も含めてシーズン2のアナウンスを待とうかな(‘ω’)ノ
監督ニコラス・ウィンディング・レフン
デンマーク出身の映画監督、脚本家、映画プロデューサー。中間色が見えづらい色覚障害を持っており、色彩コントラストの強い独特な画面構成が特徴。
Wikipedia
24歳の彼が脚本・監督を務めたバイオレンス映画『プッシャー』(1996年)が公開され、批評面でも興行面でも大成功を収めた。活動の場を海外に広げ、ハリウッドでの初監督映画『ドライヴ』(ライアン・ゴズリング主演)が2011年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、監督賞を受賞。