『ハイテンション(2003)』でフランス産ホラーにどぎもを抜かれ、『屋敷女(2007)』でそのえげつなさに魅了された管理人が次に観たのが本作『マーターズ』だった(今回は2回目)。3作品に共通するのは、これでもかと言うほどのスプラッター描写だが、ただのスプラッターホラーに止まらないオチと後味の悪さも(一部の人に)オススメできる点である。ある・・・
■マーターズ - Martyrs –■
2008年/フランス・カナダ/100分
監督:パスカル・ロジェ
脚本:パスカル・ロジェ
製作:リシャール・グランピエール 他
製作総指揮:フレデリック・ドニギアン 他
撮影:ステファーヌ・マルタン 他
音楽:アレックス・コルテス 他
出演:
モルジャーナ・アラウィ(アンナ)
ミレーヌ・ジャンパノイ(リュシー)
カトリーヌ・ベジャン (マドモアゼル)
ロバート・トゥーパン (父親)
パトリシア・テューレーン(母親)
ジュリエット・ゴスラン(マリー)
ザヴィエ・ドーラン (アントワーヌ)
■解説:
(allcinema)
フランスの新鋭パスカル・ロジェ監督が贈る戦慄のバイオレンス・ホラー。少女時代に激しい拷問を受けた若い女性による壮絶な復讐劇を端緒に、次第に明らかとなる拷問の真相が、二転三転するストーリー展開の中、残酷かつ痛々しいスプラッター描写満載で描かれてゆく。主演は新人モルジャーナ・アラウィと「中国の植物学者の娘たち」のミレーヌ・ジャンパノイ。
Contents
あらすじ
子供の頃に見知らぬ者に長期監禁され虐待を受けた過去のあるリュシー。その後施設に引き取られ心の支えになる友達アンナも出来るが、なかなかトラウマを克服できずにいた。そして15年度、たまたま新聞記事で監禁犯見つけ、居所を突き止めたリュシー。猟銃を持って犯人の家に乗り込み、その場にいた一家全員を惨殺するが-
前に観た時、家の女子に「コレ面白いで」と勧めたら、、「こんなん、ふつう面白いってゆう???」と怒られた可愛そうな管理人momorexさん(いまだに責められる)。
『ハイテンション』を定期的に観たくなる人柄だから仕方ない..。ということで、また借りてきました『マーターズ』。好きだ、好きだ、と言いながら「マーダーズ(殺人)」だと勘違いしていたのは置いといて、『マーターズ』とは「殉教者」のこと。作品内で語られますが「殉教者」とは「証人」という意味もあり、“信仰の真理を表すために、死ぬことさえ惜しまないで証しした人”とのこと。結局、なんのこと??となった場合は、本作を観れば分かる、と。
本作はスプラッター・ホラーでありながら、↑こんな事も絡められ、なおかつえげつない物語となっております。観終わった時にいつも思い出すのがニコラス・ケイジ主演で管理人お気に入りの『8mm(2005)』。それは何故か?今から語っていきましょう。
はじまり
リュシー
幼い頃に誘拐、監禁されて長い間虐待を受けていた少女。手足は鎖に繋がれて排泄も椅子に座ったまま。レイプ被害は無かったものの日常的に暴行を受けていた。しかしある時、監禁者の隙をついて逃げ出し事件が発覚。世間は騒然となったが結局犯人不明のまま、彼女は養護施設へ。
長い間の監禁生活で大きなトラウマを抱え人を信用できなくなってしまっていたリュシー。そんな彼女の心を少しずつ解きほぐしていったのが同じ年頃のアンナだった。アンナの力で少しずつ回復していったかのように見えるリュシーだったが、彼女にしか見えない怪物に怯え、なかなかトラウマを克服仕切れずに大人に。監禁発覚から15年が経っていた。
ある家族の風景。
どこにでもいる両親と兄妹の4人家族が、日曜の朝、朝食を摂っていた。そこに猟銃を構えたリュシーが突然現れる。「どうして私をあんな目に!」と叫びながら、次々と撃っていく彼女。この家の両親2人はリュシーを監禁していた犯人だったのだ。
兄妹を含む一家を惨殺した後、一緒に暮らしているアンナに連絡。リュシーを大事に思っているアンナは急いでこの家に到着し、あまりの惨劇に吐き気を催しながらも、遺体を隠すべく行動する。
「この人たちが犯人だとリュシーは言うけど、本当・・か?」と疑う心がもたげるアンナ。この一家はどうみても、ごく普通の家族にしか見えなかった。
最初の逃亡シーンはかなり切羽詰まっており(女の子が上手)、なかなかびっくりするが、その後に続くリュシーの一家惨殺は血も涙も無いひどいもの。惨殺されるのはアンナが感じたようにごく普通の家族だ。他人には見えない化け物に苦しめられ、自傷行為を繰り返し、錯乱しているリュシーはただの異常者ではないのか?とアンナでなくとも思うはず。
ちょっとアジア系に見えなくもないリュシー(ミレーヌ・ジャンパノイ)の全てを終わらせた後の目。グレーがかった死んだ魚のような目が、少女の頃に受けた酷い仕打ちを物語る。が、その頃同じく幼かったアンナには、リュシーに起きたことを全て理解できていない。「悪い人に誘拐されてなかなか逃げられなかった」くらいの認識だ。もちろん詳細を事細かく教える大人もいなかったはずなので仕方ないが。
それでもアンナはリュシーを愛してきた。今この時もリュシーのために遺体を埋める準備をしている。それをぼーっと見ているリュシー。彼女は犯人を殺し復讐した後も救われる事はなかったのだ-
普通はここで終わるよね。恐ろしい目にあったリュシーが復讐し、その後アンナと生きていく。警察に捕まろうが捕まるまいが、リュシーの一部は再生されてなんとか生きていける、と。
しかし本作は違った。実際、ここまでは単なる前触れでここからが本編になるのだ。
【アンナ】からはネタバレが。未見の方はご注意を
オチを知ってから観る場合、面白さは1/30くらいになってしまいます
経過
アンナ
彼女の生い立ちはあまり語られない。母親の育児放棄で養護施設に暮らしている女の子。とても優しい心の持ち主で、誰も近付くことが出来なかったリュシーにそっと寄り添い、心を解きほぐしていく。施設を出た後も2人は一緒に暮らした。リュシーのトラウマは克服されたと思っていたが、ある日、犯人を見つけたと部屋を飛び出していくリュシー。銃を手に入れて。
そして、ほどなくリュシーから連絡が。「全てを終えたから来てくれ」と。
そこには、想像も出来ない地獄が広がっていた。血の海で倒れる人々。放心状態のリュシー。
吐き気をこらえながら遺体を隠し、リュシーと逃げることを考えるアンナ。しかしそうしている間にもリュシーの幻覚はどんどん酷くなり、ついには自分で首にナイフを突き立てた。
死んでしまったリュシー。彼女の亡骸を布で包み途方に暮れいていると、この家にあるキャビネットの奥に何かがあるのを見つける。それは地下へと続く部屋、更に降りていくハシゴだった。そして実験室のような地下で見つけたものとは、鎖に繋がれ、頭や腰にまで金属を巻かれた女性だった。部屋に連れて上がり介抱するアンナ。リュシーの言っていたことは本当だった。目的は分からないが監禁して虐待する犯人はこの家の主だったのだ。
そこへ、いきなり銃を持った男と女が突入してくる!
巻き込まれるはずのなかったアンナがとうとう監禁事件に巻き込まれてしまう。
15年前のリュシーのように、穴の開いた椅子に座らされ鎖に繋がれる。何日もそのまま捨て置かれ、時たま餌のように食べ物を食べさせられる。アンナは捕まった。リュシーの恐怖に-。
普通は、普通はここで終わるよね、せめてここで。いつ終わるとも知れぬアンナの叫び声とともに(『ソウ』みたいに)。しかし、これがホントの恐怖の幕開けだった。本当の本編はここから始まる。
マドモアゼル
この実験を仕切るマドモアゼル。
見るからに金持ち。ばっちり化粧して宝石じゃらじゃら(イメージ)。
こんな彼女の実験の目的とは-
1回聞いただけでは理解できなかったですよ、ホントに。
でも頑張って要約してみると、「死ぬ間際の人間にだけ見ることが出来るという天国について知りたい」。これです。一言で言うとコレです。
こんなことなら何も監禁しなくても誰かを捕まえてきて殺すことをすればいいのでは、という話になりますが、違うんです。これにはたくさんの条件があって以下に箇条書きしてみます。
- 監禁して自由を奪う
- 暴行して尊厳を奪う→聞こえないものが聞こえ始める
- 人が人で無くなっていくのを待つ→見えないものが見え始める
- 服や髪はおろか、皮膚までも剥がしてむき出しにする
- 今際の際に見えると言われるあちらの世界の話を聞く→殉教者となる
- 殉教者死亡
なんだ、これ。そんなこと聞いてどうするの?
監禁する完璧な場所を用意して、監禁者を雇い、完全に把握した上で殉教者になる者を拉致してくる。どうしてここまで面倒なことを、こんな事のために?
いくつもの実験の結果、女性が殉教者になる確率が高いということが分かり、何人もの女性を監禁(リュシーが幻覚として見ていた怪物も同時期に監禁されていた被害者)。そしてやっと成功したのがアンナだった。
これが分かるやマドモアゼルは仲間に連絡を入れる。この連絡を受けて次々やって来る金持ちの老人たち。ベンツに、BMWに、その他の高級車で続々と乗り付けてくる老人たち・・。
ここで吐き気がする自分。
Fin 〜エンディング
そうか、そうなのだ。この金持ちたちは死ぬのが怖い。今までその財力にものを言わせてやって来たように、死んだ後のことも予め知っていたかったのだ。そして安心して次の世へ行きたかったのだ。たったそれだけだったのだ。たったそれだけのために多くの少女や女性、おそらく男性や男の子が犠牲になってきたのだ。
そして多くの犠牲の果てに、ようやく実験は成功した。言葉通りに全てを奪われ、禅の心のように現世から解脱したアンナが死の間際に見たもの。
マドモアゼルはこれをアンナから聞いた。
そして化粧を全て落とし、装飾品を外して、安心して自ら命を絶った。その素敵な世界へ。
なんてこった… 自分だけ聞いてとっとと死にましたよ。他のスポンサーには何も伝えずに。この時、管理人は他の老人たちも安心して次々と後を追ったな、と思ったけれど、今にして思えば、結局また実験を再開したのではないかと思えてきた。
アンナはなんと言ったのか。
自分は「美しい天国」だと昨日観た時には思ったが、もしかしたら真逆だったかもしれない。マドモアゼルは落胆して自殺したのかも。こればかりは“殉教”しなくちゃ分かりませんね。自分はイヤだけど
このお金にものを言わせて恐ろしいことを企む老人。これが最初に書いた『8mm』と同じなんですよね。『8mm』では家出少女を使って「スナッフビデオ」を作り、会員制クラブで楽しむと言う、これまた吐き気を催すことが繰り広げられていた。一人の少女を救えなかったニコラス・ケイジが病んでしまうという後味の悪さもあって、本作とだぶるものがある。でも『8mm』も好きな映画。また観ようかなー、録画してあるんだー。
『トールマン』も本作パスカル・ロジェ監督だったんだっ。なかなか借りられないんですよねー、早く観たいなー。
ニコラス・ケイジ『8mm』(1999) - 8mm –
本作『8mm』は初めて観た時に衝撃を受けた作品で、「スナッフ・フィルム」なる物の存在を初めて知った作品でもある。公平で清く正しく生きてきた私立探偵ニコラス・ケイ…
『トールマン』(2012) - The Tall Man –
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『マーターズ』(2015/アメリカ) - Martyrs (リメイク版)
本家フランス版の感想を書いた時には、簡単に人にはオススメできない、と冒頭に注釈を入れたものだが、こちらアメリカはハリウッド様リメイク版はどうかというと、まぁ、スプラッターの練習がてら観てみたら?てな感じ。
コメント
コメント一覧 (7件)
『マーターズ』最終考察、その2。
続きです。
話は飛びますが、アンナは死の間際、マドモアゼルに何と呟いたのでしょうか?そしてマドモアゼルはなぜ自ら命を絶ったのか?
これに関してもネットでは諸説あるようですが、自分の考えはとてもシンプルです。
まず間違いなく言えるのは、アンナはマド…
嫌な話ですが、もしかしたら似たような事はホントにあるかもしれない・・と思わせるところが、他の監禁拷問ものとは一線を画す作品なのかもしれません。理由も理由だし、やることがすさまじい・・・が、私、好きです(^^)
『ホステル』はショー仕立てになっていますものね。オチも付いて確かに爽快感があるのかもしれません。
それより、これハリウッドリメイクの計画があるんですか!?
話が公になったのは2010年みたいですが、映画の世界では企画から5年、10年なんてよくある話ですものね。一応楽しみですー。でも、ちょっとコワイですが。
マーターズ
2010年12月27日(月) レンタルDVD マーターズ [DVD]出版社/メーカー: キングレコードメディア: DVD マーダーズでなくマーターズ。意味不明な言葉だが、殉教者ということだそうだ。 冒頭、傷だらけで脱出する少女リュシー。 保護されるが、トラウマで幻覚に襲われる。傷だらけの女が襲ってくるのだ。 大きくなった彼女は、監禁虐待した家族を発見し、皆殺し。それでも幻覚に襲わ…
これは、死にました。「ハイ・テンション」も好きですが。
同じ監禁拷問映画系では、爽快感のある「ホステル」を押します。
マーターズ
はい、なにやら凄いらしいと聞いていたフレンチホラーですね。でもただの猟奇的スプラッターなのかと思っていればそうではない。
少女期に拷問虐待を受けた女性リュシーが施設でゆいいつ心を許せたのがアンナ。15年後のとある日曜の朝、普通の平穏な家庭を襲う女性…これがリュシーなわけですが、「なぜあんなことを?なぜ私に?」結局彼女は、彼女にしかみえない妄想世界のクリーチャーのようなものに襲われ、自ら喉を…
コメントありがとうございます。
ホント酷い話でした。
晴雨堂ミカエルさんは「てめえら人間じゃねぇ!タタッ斬ってやる!」でしたか[絵文字:i-179]
私も他人の犠牲をお金で買って、心の平安とともに安らかに死んでいく人々が許せない気持ちになりましたねー。
それにしても酷い話を作り出すものです。
『トールマン』も楽しみにしています!
一人の少女が壊されていく過程をみる作品でしたね。
ラスト、Cカップくらいのヒロインが皮剥ぎで胸ペッタンコになっているのがリアル。
仮に命が助かっても、もはや廃人。
観終わったあと、私は萬屋錦之助の破れ傘刀舟が「てめえら人間じゃねぇ!タタッ斬ってやる!」と怒鳴って、あのセレブたちを皆殺しにする妄想を抱いていた。