よくある頑張る女子の一人戦いアクションものかと思いきや、それだけに留まらない主人公の複雑な心境や、なぜいまだに孤立しているのかという彼女自身の問題、人類の未知の敵の動きや心境までもが、なんとほとんどセリフなしで進められていく本作はSFスリラー。それだけに最初から最後まで目が離せなくなる決して侮れないお勧めな一品(‘ω’)
■ 誰も助けてくれない – No One Will Save You – ■
2023年/アメリカ/93分
監督:ブライアン・ダフィールド
脚本:ブライアン・ダフィールド
製作:ティム・ホワイト他
製作総指揮:ケイトリン・デバー他
撮影:アーロン・モートン
音楽:ジョセフ・トラパニーズ他
出演:
ケイトリン・デバー(ブリン・アダムズ)
Contents
あらすじ
小さな田舎町の外れにある森の中の一軒家で一人暮らすブリン。町の人との交流はなく孤独な彼女だったが人形や服、小さな雑貨などを創るのが得意で日々充実した毎日を送っている。そんなある夜、大きな物音で目覚めた彼女は玄関ドアが大きく開き、見知らぬ侵入者が家の中にいるのを発見する ─
見どころと感想
時代は携帯電話がまだ存在しない少し前。舞台はアメリカの片田舎。登場人物は大きな森を背に建つ一軒家で一人暮らしの若い女性。彼女には何か良くない過去があり、町の人々に嫌われている。けれど持ち前の明るい性格で日々、小物や自分のドレスなどを創って楽しく毎日を暮らしている。
こんな感じで始まる本作『誰も助けてくれない』。
冒頭早々に家に入り込む怪しい人影。町の人に嫌われているからコレから誰も助けてくれないのか~って思いながら観ていくと、その正体は「最後まで見せません」みたいなことはなく、すぐにどんどんカメラに捉えられていく。これまた大好きなSFスリラー『サイン』 (2002)よりも早い。
『サイン』 (2002) – Signs –
M・ナイト・シャマラン監督作品の中で一番のお気に入り『サイン』がとうとうこのブログに…。この作品はスリラー味たっぷりのSFホラーなんだけど、ラストは何度観ても…
でアレでしょ?弱々しい感じがする女性主人公が一人で戦って、満身創痍になりながらも勝つんでしょ(‘Д’)?みたいに斜に構えながら観ていくと、そうではあるけどそうじゃない。誰も助けてくれないことを思い知らされた彼女は少し落ち込んだものの切り替えが早い。決して縫物だけしている女性じゃなくて走るのも早いし体力も思ったよりある。
そして何よりカッとなった一瞬の武器を持った手の動きに無駄がない。一撃だ。
─ 彼女は戦士だった
ま、その一人目に対する戦士加減が後々自分をどんどん窮地に追い込んでいくんだけどね。一言いっておくと一人目は今回、夜中に現れたアレじゃないよ(‘ω’)
次々現れる未知の敵、フラッシュバックする過去の出来事。それを一つずつ解決していく主人公には、ほとんどセリフが無い。今回の敵も未知の存在だから言葉を話さない。町の人々も彼女を忌み嫌っているから話しかけない。未知の敵に対するアクション映画だというのに“セリフが無い”。
けれどカメラには、SF好きなら一度は観ている過去の金字塔作品『ポルダーガイスト』『エイリアン』『宇宙戦争』『サイン』などなどが走馬灯のように次々と映し出されていくから目の前で何が起きているのか、起きようとしているのかはこちらには手に取るようにわかる。それらを背景に泥んこにまみれながら奮闘していく我らが主人公ブリン。当然ながら応援しているのだけれど、どこか応援しきれない“何か”が彼女にはまとわりついている。どこか違和感があるのだ。
- 過去の何かのせいで町の人々に嫌われているのに、なぜ今もなお実家に一人住み続けているのか?
- それどころか、なぜ自ら町の人々に笑いかけ何も無かった振りをしようとするのか?
本作はとても分かりやすいSFの体を取りながら、実はとても分かりにくい彼女の深層心理、もっと言えば身勝手で自己中心的ではあるけれど最後まで諦めない彼女の生き抜く力=“生命力”を物語の筋としている。だからこそ本作のタイトルは「未知との遭遇」でも「宇宙からの侵略」でも「人類の逆襲」でもなく、人類的に地球的に非常に危機的な状況であるにも関わらず『誰も助けてくれない』という極めて個人的なタイトルが付けられているのだ。
それだけではない。彼女の特異な生命力は人類未知の敵をも圧倒する。
まるで、これまた大好きなA24配給作品にあるような意味不明なラストで語られるのは、未知の敵がブリンの精神性と戦いぶりに驚嘆し、彼女を自身の夢の世界に誘ったまま決して戦いの場に出てこないようにしたのか、単純に彼女がずっと夢見ていた環境を整え、そこで生きていくようにさせてあげたのか。
または全てが彼女の現実逃避なのか ─
やだ、また自分の大好きな「全ては夢だった」オチにもっていこうとしているわ~。ラスト近くで一度そういう方向に持っていってからのラストだからなー。どうかな~、どんでん返しのどんでん返しで夢なのか、現実なのか。
単純な話で始まったはずのこの物語は過去ブリンが起こしたことが判明し、未知であるはずの人類の敵が案外分かりやすく人と変わらないということが判明。だというのにラストは彼女同様、複雑で分かりにくい終わりを迎える。
けれど一つだけはっきりと分かっていることがある。
─ ブリンはとても幸せ