海辺の小さな町のごく普通の人たち。彼らの小さな物語たちを寄せ集め、垣間見せてくれたのは竹中直人、山田孝之、齊藤工の3人の監督。聞き慣れないタイトル「ゾッキ」の語源は“寄せ集め”。
■ ゾッキ ■
2020年/日本/113分
監督:竹中直人、山田孝之、齊藤 工
脚本:倉持 裕
原作:大橋裕之「ゾッキA」「ゾッキB」
製作:伊藤主税 他
撮影:神田 創
音楽:Chara
主題歌:Chara feat. HIMI
「私を離さないで」
出演:
吉岡里帆
鈴木福
満島真之介
柳ゆり菜
南沙良
安藤政信
ピエール瀧
森優作
九条ジョー(コウテイ)
木竜麻生
倖田來未
竹原ピストル
潤浩
松井玲奈
渡辺佑太朗
石坂浩二(特別出演)
松田龍平
國村隼
■解説:
俳優の竹中直人、山田孝之、齊藤工が3人で共同監督を務め、漫画家・大橋裕之の初期作品集「ゾッキA」「ゾッキB」を実写映画化したヒューマンコメディ。舞台演出家・劇作家の倉持裕が脚本を手がけ、約30本の短編が収録された原作コミックから複数のエピソードを織り交ぜて構成。原作者・大橋の生まれ故郷である愛知県蒲郡市でロケを敢行し、ある特別な秘密を抱える人々が織りなす日常と、彼らに訪れる少し不思議な奇跡を描く。映画.com
3人の監督、『ゾッキ』という何か怪しげなタイトルから、きっと一筋縄ではいかない、理解しがたい世界が待っているに違いないと思いながら観始めたのだが、、、なんと(‘ω’) ハートウォーミングなお話がいくつもいくつも重なり合って、「どう?たまにはこういうのもいいでしょ?」と、こちらに語りかけてくるじゃありませんか。
Contents
GO WEST 藤村さん
そのいくつものお話の初っ端は松田龍平演じる藤村さん。坂本町にあるボロい、違った(-.-)古いアパートの一階に住む中年一歩手前の藤村さんは、おそらく今までの人生において何も成せていないのでしょう。時々むしょうに、あての無い旅に出たくなる。そして今日も財布と寝袋を持って自転車で西へ出発。GO WESTだ。
旅の恥はかき捨てというけれど、藤村さんは旅に出ると、いつもと違う自分になって、いつもと違うことがしたくなる。それは例えば道端に落ちているエロ本を拾ってみることだったり、前を歩くいかした女性のお尻を触ってみようとすることだったり(これは途中で理性が勝ってギリとどまったが…)。
旅はかなり進んで、知らない漁師さんにごちそうになったり、畑のミカンをもらったりと、人の温かさに触れて自分の心もぬくもってきた。
とはいえ、隣町まで自転車で行ったにすぎなかった藤村さんだったが ─
その藤村さんが途中で寄ったコンビニで、女性のパンティを買おうと悩んでいる男子高校生を見かける。
嘘の姉ちゃんとパンティのはなし
さっき、コンビニで藤村さんが見かけた高校生は牧田くん。なぜ牧田くんが女性のパンティを前にして悩んでいたのかには訳がある。話が長くなるので端折るが、唯一の友人伴くんが、どうしても牧田くんの姉ちゃんのパンティを譲ってくれときかないからだ。伴くんはまだ会ったこともない牧田くんの姉ちゃんにゾッコンなのだが、実は姉ちゃんは実在しない。他の友達と適当なことをしゃべっているのを聞きつけて、伴くんは話題の姉ちゃんに勝手に一人で恋してしまったのだった。
どうしても本当のことを言い出せなくて、牧田くんはとうとうコンビニでパンティを買う羽目になったのだが、結局は買えずに逃げ帰った奥手な牧田くん。それでも頑張ってなんとかゲーセンで手に入れ伴くんに。
幸せの絶頂の伴くんは、次には姉ちゃんに会わせろと言ってくる。万事休すの牧田くんはとうとう架空の姉ちゃんを「実は交通事故で死んだんだ」という事にして、なんとか事を収めた。だが、この秘密が大きく独り歩きし、その数年後に思いもかけない展開となって返って来た ─
牧田くん。よく最後まで真実を言わずにこらえたね。えらい(‘ω’)
マサルと学校の怪談
マサルの父ちゃんは浮気性で、今日も女と一緒にいるところを女の亭主に見つかってこっぴどい目に合わされた。そこで父ちゃんは身を守るためにも鍛錬が必要だということで、夜間、卒業した高校にマサルと一緒に忍び込み、部活で使っていたサンドバッグや、そこにあったアダルトビデオなんかを盗み出す。クラブ室の前で待たせていたマサルが幽霊を見たとか言っているが、とにかく今は逃げるが勝ち。リヤカーを見つけて荷物を積んで歩き出そうとしたその時…
校舎の3階の窓から覗き込むようにこちらを見ている白い影。その影には髪も着ている服もなく、まるでマネキンのようだ。父ちゃんとマサルは恐怖のあまり3階を見上げたまま身体を硬直させている。と、その影は窓から飛び降りた。そしてまるで蜘蛛のように四つ足で着地すると、迷わずこちらへ近づいてくる。いったいこのマネキンは…!?
父ちゃんは翌週、女と家を出た。マサルはマネキンの夜以降、何があっても簡単には慌てない大人になった。父ちゃんが急に戻ってきても、驚きはしなかった。
レンタルビデオ屋店員の純情
藤村さんの部屋の隣にはレンタルビデオ屋でバイトする伊藤くんが住んでいる。藤村さんの出す大きな音にしょっちゅう悩まされているが、さっき会った時、「旅に出るから、もう迷惑はかけないよ」と言っていた。ま、きっとすぐに戻るだろうけど。
バイトは昼間と夜の2交代。顔も知らない店員同士が小さなメモのやり取りで挨拶を交わす。そんなある日、アダルトビデオの一番のお気に入りの女優らしき女性が、赤ちゃんを連れて店を訪れた。にっこり笑いかける彼女に天にも昇る気持ちの伊藤くん。けれど、それだけ。その日も普通に暮れていくのだった。
感想
こんな感じで小さな町で生活するたくさんの登場人物が、日々考えていること、起きること、起こすことの中で、何を話し、何を行動し、どう相手と関わるか、を悩み選択する様子が描かれていく。時たま間違ってしまうこともあるけれど、それをも含めたものこそが人生なのだ。
オープニングに石坂浩二扮するお祖父さんが「秘密を持つことこそ大事なことだ」と話すのだが、この意味はラストまで見るとよく分かるようになっている。人は「本当のこと」「真実」「正直」を大事にする。社会において、これらは必要なものだけれど、個人的な関係の中では、時に「秘密」=「嘘」も大事な時がある。
確かに本当のことをしゃべってしまった方が罪悪感を持たなくてすむし、楽な時もある。けれども、それでもあえて相手のために「真実」を隠し、うまくやり過ごすことが【正解】な場合もあるのだ。
今回のお話では牧田くんと伴くんの場合が全くその通りで分かりやすい。伴くんは牧田くんのお蔭で恋をし、死にたいという気持ちを忘れ、最後には可愛いお嫁さんまでもらうことができた。あの時、「実は姉ちゃんは存在しない」なんてことを牧田くんが言っていたら自殺騒ぎになっていたかもしれない。あの勢いならきっとそうなっていただろう。「嘘をつくなら最後まで」突き通す。牧田くん、あっぱれ。
それと、学校の怪談で出てきた幽霊は本田さんの生霊がそのまま学校に残ったのか?とも思ったけれど、あれは当時、まだ小学生だったマサルくんに起きた父ちゃん絡みの色々な記憶が学校の幽霊という形で刻み込まれたのだろうか?よりインパクトのあるもので、現実を覆い隠す的な感じなのかな。
最初にも書いたように【ゾッキ】には寄せ集めという意味があるけれど、ばらばらな物をただ寄せ集めただけではない。日々起きる小さな出来事に真実や嘘をまとめて人との関りが生まれ、人生が積み重ねられ育っていくんだなって感じたな。
たまにはホラー以外も観なくちゃね…(‘ω’)
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