普通に吸血鬼ものだと思って観てみたら、主人公ぶっ飛びで、どうジャンル分けしていいのか分からなくなった作品『バンパイア・キッス』。1981年に映画デビューしたニコラス・ケイジの『ワイルド・アット・ハート』への架け橋的作品でもある。
■ バンパイア・キッス - Vampire’s Kiss – ■
1989年/アメリカ/103分
監督:ロバート・ビアマン
脚本:ジョー・ミニオン
製作:バリー・シルズ他
撮影:ステファン・チャプスキー
音楽:コリン・タウンズ
出演:
ニコラス・ケイジ(ピーター・ロウ)
ジェニファー・ビールス(レイチェル)
マリア・コンチータ・アロンゾ(アルバ)
エリザベス・アシュレイ(精神科医)
ケイシー・レモンズ
ボブ・ルジャン
ジェシカ・ランディ
デヴィッド・ハイド・ピアース
デビー・ロション
■解説:
自分がバンパイアになったと思い込んでしまい、破滅していく一人のサラリーマンを描いたカルト的人気を誇る異色作。現在、幅広いジャンルで活躍する個性派俳優ニコラス・ケイジが『赤ちゃん泥棒』、『月の輝く夜に』に続いて出演し、その特異なキャラクターが当時大きな話題を呼んだ。amazon
■あらすじ:
ニューヨークのエリートサラリーマンであるピーターはある夜、バーでレイチェルと知り合い一緒に自分のアパートへ。だが彼女はいきなり吸血鬼へと豹変、ピーターの首筋に牙をたてた。それからというもの、レイチェルが訪れるたびピーターの体調はどんどん悪くなり、狂気の世界へとはまり込んでいく ─
ニューヨークの大手出版代理店に勤めるピーターは、若くして出世街道に乗った公私ともに勝ち組のエリート。だが、そんな人間にありがちの意地の悪い傲慢さと自己中心的な考え方も持ち合わせている。れっきとした恋人がいながら、バーやディスコで目に付いた美人に声をかけ、自分のアパートに連れ帰る。恋人には適当な言い訳と表向きの誠実さでうまくあしらい、職場では部下には横柄で上司には媚びへつらう、世渡り上手なサラリーマン。それがピーター・ロウだった。
そんなある日。自分のアパートの少し開いていた窓から蝙蝠が入り込んでいたのを見つける。うまく追い出したと思っていた数日後、バーで知り合った美女レイチェルをいつものように自分の部屋へ。けれど、ベッドに入るやレイチェルは吸血鬼へと変身、ピーターの首に嚙みついた。血を吸われ朦朧となったピーターは、これ以後、レイチェルが部屋を訪れ吸血するのを拒むこともできず、餌食となっていくのだった。
同時に以前から仕事が遅く使えないと思っている秘書の一人アルバにますます辛く当たるようになる。古い契約書をなかなか見つけられない彼女を追い詰め、とうとうレイプまがいのことまで。だが、この時、レイチェルに蝕まれたピーターは、普通の精神状態ではなかった。自分は吸血鬼になってしまったと思い込み、家中の鏡をたたき割り、偽物の牙をつけ、ハトの血を吸い、昼間はソファの下に潜り込んで眠る。こうなってしまっては、もはや、いつもかかっている精神分析医は役にたたない。
そして夜半、ディスコに行ったピーターは、とうとう一人でいた女性の首筋に歯をたて命を奪ってしまう ─
ピーターを取り巻く女性は多い。
恋人、精神科医、吸血鬼レイチェル、秘書アルバ、その他大勢の夜の美女。彼女たちに修飾語を付けるとすれば、
- 結婚相手として申し分のない恋人
- 対等に話せ、かつ、時には本音を言える精神科医
- ピーターを完璧にコントロールするレイチェル
- ピーターがコントロールし、上から命令できるアルバ
- その場限りの見て楽しむ夜の美女たち
となる。
これだけでも5種類のピーターがいる。彼には彼女たち全てが必要だった。彼は彼女たちに助けてもらっているとも言える。だが、彼はどうだ?何か一つでも誠実に対応できていたか?
出来ていたのは一人だけ。レイチェルだ。だが、誠実だったのではない。嘘をついていないだけだ。
自分の恋人でさえ朝まで一緒にいたら疲れると精神科医に話したピーター。用事が終わればさっさと帰ってくれたらホッとすると。だというのに、来る夜も来る夜も女を探しにバーやディスコへ繰り出す彼は、いったい何を探しているのか。
それは、弱い自分をさらけ出せる相手、本当の自分を見せられる相手、絶対的に自分を支配してくれる相手だった。それがレイチェルとなって現れた。
だがそれは現実ではない。きっとレイチェルは馴染のディスコで見かけた美人だったんだろうと思われる。パートナーと一緒で声を掛けられなくて記憶に残った美人。その美人と先日の蝙蝠が合わさる。自分のテリトリーである部屋に呼べなかった美人と、勝手に侵入していた蝙蝠。手に入れられなかった美人と追い出した蝙蝠。これらが合わさり、嫌でも拒否できない、そのうち求めてやまなくなる吸血鬼美女へ。
もちろん、この頃にはピーターの精神的不安定さはかなり深刻になっている。映画『ノスフェラトゥ』のように歩き、鏡に映っている自分は見えず(こちらには見えている)、十字架を見れば苦しみ、太陽光を拒み(ふりだけ)、昼間はソファをひっくり返した下で眠る。それまではいらいらを秘書虐めで発散していたが、それも出来なくなってきており、ある時、銃で身を守ろうとした秘書アルバに「撃ってくれ、救ってくれ」と叫ぶピーター。サディズムとマゾヒズムが混合され、物語はピーターの最期へと突き進んでいく。
そしてようやくラストになってピーターの真実の声がこちらに届くのだ。
「私を愛して」
この複雑で狂気な男を、負けないくらいの怪演で演じきったニコラス・ケイジ。このピーターは後の『ワイルド・アット・ハート』のセーラーに続いていく。彼の出演作は非常に多いが、アクション大作のニコラス・ケイジなんか観たくない私のお勧めは
- ワイルド・アット・ハート(1990)
- リービング・ラスベガス(1995)
- 8mm(1999)
- ロード・オブ・ウォー(2005)
かな。『ナショナル・トレジャー』あたりでは、とうとうお子様向け作品にも出るようになったんだーって思いながらも出演作品は一通り観てたけど、『キック・アス』ぐらいからはあまり観なくなってしまった。今となれば、あの狂気な男が懐かしい。もう見ることはできないのだろうか…
そしてもう一つ。世界的な好景気で浮かれていたピーターの時代に、同じようにニューヨークのエリートサラリーマンが恐ろしいもう一つの顔を隠しきれなくなっていた。それが『アメリカン・サイコ』(2001)。この作品も強烈な内容でかなりのインパクトを(私に)残した。強烈過ぎて2回目はまだ観れてない…。
観ました…↓
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