今まで観てきた映画の中には何度も定期的に観たくなる作品がある。理由は好みの物語、世界観、俳優などなど様々であるのだが、本作『クロウ/飛翔伝説 』もその中の一作。リブートがようやく始まるなどの話もあるようだけど、『クロウ』はブランドン・リーありき。だから私には他は関係ない。
■ クロウ/飛翔伝説 – The Crow – ■
1994年/アメリカ/102分
監督:アレックス・プロヤス
脚本:デヴィッド・J・スコウ他
原作:ジェームズ・オバー「ザ・クロウ」
製作:エドワード・R・プレスマン他
製作総指揮:ロバート・L・ローゼン他
撮影:ダリウス・ウォルスキー
音楽:グレーム・レヴェル
主題歌:ストーン・テンプル・パイロッツ「Big Empty」
出演:
ブランドン・リー(エリック・ドレイヴン)
ロシェル・デイヴィス(サラ)
アーニー・ハドソン(アルブレット巡査部長)
マイケル・ウィンコット(トップ・ダラー)
バイ・リン(マイカ)
ソフィア・シャイナス(シェリー)
デヴィッド・パトリック・ケリー(Tバード)
エンジェル・デヴィッド(スカンク)
ローレンス・メイソン(ティンティン)
マイケル・マッシー(ファンボーイ)
■解説:
墓場から蘇った不死身のヒーローの哀しみに満ちた復讐を通して、愛の不滅をうたうダーク・ファンタジー。主演のブルース・リーの遺児ブランドン・リーが、撮影中の発砲事故により28歳で死亡し、本作が遺作となった。彼の出演場面はほとんど撮り終えていたが、残された場面はコンピュータのデジタル合成(ドリーム・クエスト・イメージズ担当)により完成された。映画.com
Contents
あらすじ
近未来の荒れ果てた都市。10月30日、ハロウィンの前日は“悪魔の夜”と言われ、町中でならず者たちによる火の手が上がる。そんな夜、挙式を明日に控え幸せの絶頂にいたカップルの住む部屋に突然ならず者たちが入り込む。男性エリックは銃で撃たれたうえに6階の窓からたたき落とされ、女性シェリーは暴行されて死亡という悲劇が起きた。この悲劇に心を痛めたのは二人と仲の良かった少女サラと捜査する警官アルブレットだけだった。
その1年後。カラスがつつく一つの墓。夜の番人カラスの力により墓の主エリックが蘇る。彼はふらふらと導かれるように焼けて廃墟になった二人のアパートの部屋へと向かう。そこで全ての記憶を思い出したエリックは、シェリーを亡くした痛みと共に自分たちを殺した者たちへの復讐を誓うのだった ─
悲哀と共に感想を
このタイトルを見ると何故か哀しい気分に襲われるのは私だけだろうか…。
挙式前日にならず者たちに襲われ殺された二人。ならず者たちの後ろには街を牛耳る輩の存在。夜の番人“カラス”によって蘇った男の復讐劇。道化の化粧を施し、復讐しても復讐しても満たされぬ思い。バックに流れるのはアンダーグラウンドなオルタナティブ・ロック…
こう書いてみると、自分の好きなものがずらりと並んでる(‘ω’) というか、この映画を観て好きになったものもあるかもしれない。『マッドマックス』的な物語に、カラス、道化の化粧、オルタナティブなどなど、特にその姿を見つけた女子がキャーキャー騒ぐ中、何故か愛を感じる“カラス”の存在。今まで気が付かなかったけど、この映画の影響でカラスは忌み嫌われるだけの存在じゃない、カラスはブランドン・リーの化身だとして見ていたのかもしれない(-.-)
物語はカラスの魔力で墓場から蘇った男が、自分とフィアンセを殺した男たちに復讐するお話。彼は決して“ダーク・ヒーロー”じゃないと私は思ってる。エリックの行動は自分の愛する女性を奪われたことに対する怒りからであり、その結果、町のならず者たちがいなくなったのは、たまたまの喜ばしい出来事に過ぎない。彼の思いは自分とフィアンセ、面倒を見ていた少女に対してだけであり、だからこそ怒りを持続させ最後までやり遂げることができたと言える。
だから、この後の後日談や続編なんかいらないの(-“-)
やり遂げたエリックは迎えに来たシェリーと共に安らかに眠ったんだから、この後の話は無用。カラスの魔力の設定を他の人にも使いたいっていうのもあるかもしれないけれど、カラスの化身として蘇り、怒りをあらわに(ならず者とはいえ)大勢の男たち(と一人の女)を殺しまわってなおこれほど美しいのはブランドン・リーだけ。
今回、久しぶりに再見してやっぱりその感想は変わらない。
レンタルしたDVDの特典映像で原作者ジェームズ・オバーのインタビューが40分以上入っていた。原作者によると「ザ・クロウ」はご自身の実体験を元に癒えない悲しみを吐き出すようにして9年をかけて描いたコミックだということ。もちろん復讐部分は実体験じゃない。けれど苦労の末、出会った愛する人を殺されて、一瞬にして目の前からいなくなってしまった事実。コミックの中に描く彼女は本人がモデルだそうで、描くほどに胸がえぐられるようだったと語っておられた。
だから映画化にはハリウッド的お祭り騒ぎなものは断じてお断りで(マイケル・ジャクソンを主演にミュージカル案を持ってきたプロデューサーがいたらしい)、原作にほぼ忠実に造ってくれた原作ファンの監督とブランドン・リーに感謝しているとも仰っておられた。
だからなのかな..。事実に勝るものはない。原作者の胸をえぐられる思いが伝わるからこそ、本作はとても貴重な作品なのだ。蘇ったエリックの眼差しが捉えるモノクロの世界としなやかな動き、時々はさまる古い戯曲のようなセリフ回しと音楽が、暴力的な場面であっても絵画のようにこちらに訴えかけてくる。本作のテーマは「愛は死を超越する」。
作中エリックの「殺れば殺られる」という台詞は「目には目を歯には歯を」の言い換えだが、これは「やられたらやり返せ」というような過激なものというより、「人を呪わば穴二つ」という諺通りのもので、自身の言動にはそれ相応の責任を持つようにという意味だ。
原作者ジェームズ・オバーはこうも語っていた。
“何もかも放り投げてしまいたいと思ったこともあったけれど、しなくてよかった。だから今がある”
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