観たのは、伝説のスパイダーウォークや神父通しの会話、ラストの警部と神父の親交などが追加された「エクソシスト ディレクターズ・カット版」。逃げるように引っ越していくマクニール家の車の後に追加された映画好きの警部とダイアー神父の会話は、悪魔祓いを見終わった疲れた心を少し癒してくれる。
■ エクソシスト ディレクターズ・カット版
- The Exorcist: The Version You’ve Never Seen – ■
1973年/アメリカ/131分
監督:ウィリアム・フリードキン
脚本:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
原作:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
製作:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
製作総指揮:ノエル・マーシャル
撮影:オーウェン・ロイズマン
音楽:マイク・オールドフィールド他
出演:
リンダ・ブレア(リーガン・マクニール)
エレン・バースティン(クリス・マクニール)
ジェイソン・ミラー(デミアン・カラス神父)
マックス・フォン・シドー(ランカスター・メリン神父)
リー・J・コッブ(キンダーマン警部)
ウィリアム・オマリー(ダイアー神父)
キティ・ウィン(シャロン)
ジャック・マッゴーラン(バーク)
バシリキ・マリアロス(メアリー・カラス)
マーセデス・マッケンブリッジ(悪魔の声)
■解説:
世界中にオカルトブームを巻き起こした戦慄のホラー映画の金字塔「エクソシスト」(73)に15分間の未公開シーンを追加したディレクターズ・カット版。
■あらすじ:
女優のクリスは、一人娘リーガンの12歳の誕生日を祝おうと友人達を招待した。夜更けまでパーティーが盛り上がっていると、突然、寝室から降りてきたリーガンが、客に汚い言葉を吐き、しかも、立ったまま放尿した。そしてその夜、リーガンの部屋から、突然大きな悲鳴が聞こえてきた。駆けつけたクリスが見たものは、激しく揺れるベッドと、その上で泣き叫ぶ娘の姿だった ─映画.com
何度観たか分からない『エクソシスト』。
最初の頃は浮かぶ身体、回る首、ようやくディレクターズ・カットで見ることが出来たスパイダー・ウォークだのに目が行っていたが、今となれば、今回のことでリーガンを救うためにマクニール家に手を貸してくれたバークやシャロン、神父や警部の存在が際立ってくる。
特にエクソシストとして登場するメリン神父とカラス神父は、何年たっても何故か名前とその雰囲気を覚えているほどに、強烈に印象が残った。大袈裟に言えば、私の中で”神父”と言えば、この二人を想像するくらいに。そして悪魔の話をまともに聞いちゃダメだってことも、この作品で覚えた。
この一連の騒動は、メリン神父がイラク北部の遺跡発掘現場でパズズの像を見つけたことから始まる。この時、封印されていた何かが解き放たれたのか?この時に初めて?それは分からない。だがメリン神父は悪魔の像や喧嘩する黒犬などを見て、確かに不吉な予感を感じたのだ。
Contents
悪霊 パズズ
パズズ (Pazuzu) は、アッカドに伝わる風と熱風の悪霊であり、魔神の名である。
Wikipedia
ライオンの頭と腕、ワシの脚、背中に4枚の鳥の翼とサソリの尾、さらにはヘビの男根を隠し持つという。風とともに熱病をもたらすことから、アッカド人に恐れられていた。しかし、悪霊の王であることから、その彫像が悪霊を統御する護符として用いられることもあった。蝗害を具神化した存在とも考えられている。
ワシントン州、ジョージタウン。
女優のクリスは出演映画の撮影のために家を借り、12歳の一人娘リーガンと仮暮らしをしている。二人はとても仲のいい母娘だ。今日はリーガンの誕生日であったが、別に住む夫から娘へお祝いの連絡すら無い。いらだつクリスはつい大きな声を出してしまい、それを壁の向こうで聞いているリーガン。いつもは大丈夫なのに、心のどこかが痛い…。
映画という虚構の世界と小さな心の隙間。
そしてそれはある日突然、小さな音となって始まる。
走り回る天井裏のネズミのような音、娘のちょっとした反抗とおかしな言動。クリスはどこか悪いのかと心配して娘を診察してもらう。診察した医者は前思春期によくある一過性の興奮性言動だという。それは日頃の抑うつへの反動だとも言う。だがクリスは納得いかない。そうこうするうち、リーガンの嘘は卑猥な言葉となり、自宅で開いたパーティで客の前でわざとお漏らしをするという行動に出る。だがクリスは見たのだ。助けてと叫ぶ娘を乗せたまま、ベッドが大揺れしているのを。
医者は、脳神経の問題だ、一種の夢遊病だ、精神科だと検査を重ねたあげく、最後にはリーガンは何かに取り付かれたと思い込んでいるようだから暗示を解くためにも悪魔祓いをしてもらったら?と言い出す始末。だが、クリスはそこに、この異常な事態を収めてくれる一筋の最後の光を見出す ─
愛する娘のために出来うる限りのことをして困り果て疲れ切ってしまった母親が、最後にすがったのが神父の行う悪魔祓い。皮肉なことにクリスもリーガンも特に信仰にあつくはない。神にすがったわけでは無いのだ。この娘に取り付く何かを祓って、いつもの娘に戻してほしいだけ。
それに応えたのが、自身も自分の信仰に疑問を持ち、最近亡くした母に自責の念が堪えず苦しんでいるカラス神父とエクソシストとして経験のあるメリン神父だった。
この頃には、リーガンの状態はますます悪くなっており、話す言葉や声はおろか人相まで変わってしまって、もはや12歳の少女とは思えないほどになっていた。二人の神父が悪魔祓いを始めるや否や、ベッドは揺れ動き、身体は宙に浮く。とても現実とは思えないほどで、経験の無いカラス神父は動揺を隠せない。
エクソシスム
エクソシスム(エクソシズム)とは、ギリシア語で「厳命によって追い出すこと」を意味する。
Wikipedia
聖書にイエス・キリストが悪霊を追い出した記事があり、キリスト教においてはエクソシズムが今日でも行われている。
歴史上の事件
1630年のフランス王国中西部で「ルーダンの悪魔憑き」と呼ばれる事件が女子修道院で発生し、修道女がエクソシズムを受けた結果、悪魔としてイエズス会士のグランディエ教区司祭を名指ししたため、彼は火刑に処された。
現代の事件
・ルーマニアでは、2005年にルーマニア正教会の神父がエクソシズムのために尼僧をはりつけにするという殺人事件があった。
・西ドイツのアンネリーゼ・ミシェルの事件では、エクソシズムのために科学的医療行為を止めさせた結果、アンネリーゼが死亡したとして、両親と神父が過失致死罪で有罪判決を受けた。この事件を元にした映画が『エミリー・ローズ』である。
・2010年、アフリカ、コンゴの首都キンシャサでは、キリスト教原理主義をうたっていると伝えられる新興宗教団体による子供たちへのエクソシズムと称する行為が問題となっている。
本作『エクソシスト』では、リーガンは確かに悪魔につかれ、二人の神父によって悪魔祓いが行われ成功したという流れになっているが、上にある「アンネリーゼ・ミシェル事件」では、信仰と科学が裁判という場所でぶつかることになり、その結果、科学が勝利している。この事件がベースの映画『エミリー・ローズ』は主演女優ジェニファー・カーペンターの怪演に目が行きがちで悪魔付き以外の何ものでもないように思いがちだが、作品そのものは悪魔か病気か、どちらとも取れる作りに最後はなっている。
『エミリー・ローズ』(2005) - The Exorcism of Emily Rose –
神-。悪魔-。
その目に見えないが故に人々の信仰と恐怖の対象となっているもの。
神の僕である神父と悪魔の戦いの結果が法廷で裁かれるという、夢と現実を一緒にしたような、ある種、不思議なこの現象は実話に基づいている。
時たま、海外の悪魔祓いの様子をテレビのスペシャル番組なんかで見ることがあるけど、あれはどうだろうなー(-“-) ちょっと演技がかっていてそれにしか見えない感じがするけど。
「アンネリーゼ・ミシェル事件」 のように何かの病気のせいで脳や神経が侵されてっていうのはあるだろうし、本作であったように思春期近くの、特に少女は何か特別な力を出すこと(例えば、触らずに物を動かせる超能力のような力)というのも実際あるらしい。結局は苦しんでいる娘を助けるという事が大事なんであって、親にとってはその方法はなんでもいいとも言える。
『エミリー・ローズ』の一家が敬虔なクリスチャンであったのに比べ、本作のマクニール家はそうではないところも面白い。結果、エクソシストとして少女を救ったメリン神父とカラス神父。だが、二人はどうなった?メリン神父は持病の心臓が持たずに悪魔祓いの最中に絶命。この時の悪魔パズズの子どものような無垢な笑い方が非常に癇に障る。それはもちろんカラス神父も同じだ。
それまでは死んだ母になりすますパズズに翻弄されたが、この怒りから出た、それまでにない祓いの方法「自分に乗り移ってみろ!」。いきなり言われたパズズも慌てたのか?カラスに確かに移った。そしてカラス神父の意思で大階段にジャンプするのだ。
もちろん母親クリスは感謝したに違いない。あんなことが起きた家になど、もういられないのも分かるが、逃げるように引っ越していく後ろ姿に、一人娘の親としてだけの自己中心的な何かが見える。こんなことを言うのは酷な気もするけど…。
良い神父であったのに志半ばで逝ったメリン神父。メリン神父はエクソシストとして言っていた。
悪霊と会話してはだめだ。悪霊は嘘つきで少しの真実に嘘を混ぜ、こちらを翻弄してくる。耳を傾けてはだめだ。
カラス神父の悪霊パズズへの言葉「自分に乗り移れ」は、パズズをだまし、死んでいく自分の身体に封じ込めることで滅ぼすという、真実に嘘を混ぜた最期の言葉となった。それまで家族にそういった丸い会話をしてこれなかったカラス神父。丸い会話とは嘘を混ぜた言葉というのではなく、優しい作り事を少し混ぜた会話だ。それで関係がうまくいくこともある。悪霊でさえ騙せたのだ。
けれど、本当に悪霊はカラス神父と共に滅んだのだろうか?
私の知っている悪霊は、姿を見せずに地の底すれすれに浮遊して移動しながら、次の憑依先を探していたけれど ─
2本の正当なる続編
ぜひ見比べてみて
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