「人体自然発火現象」を題材にしたトビー・フーパー監督によるホラー。それもただのホラーではなく、1950年代の核実験を掛け合わせつつ、日本の初代『ゴジラ』へのオマージュさえも盛り込んだという現代社会に問うた作品となっている。
■ スポンティニアス・コンバッション/人体自然発火
– Spontaneous Combustion – ■
1990年/アメリカ/97分
監督:トビー・フーパー
原案:トビー・フーパー
脚本:トビー・フーパー他
製作:ジム・ロジャース
製作総指揮:ヘンリー・バシュキン他
撮影:レヴィー・アイザックス
音楽:グレーム・レヴェル
出演:
ブラッド・ドゥーリフ(サム)
シンシア・ベインイ(リサ)
ジョン・サイファー(マーシュ博士)
メリンダ・ディロン(ニーナ)
ウィリアム・プリンス(ルー・オランダー)
デイ・ヤング(レイチェル)
デイル・ダイ(将軍)
ステイシー・エドワーズ(ペギー・ベル)
ブライアン・ブレマー(ブライアン・ベル)
ジョン・ランディス(ラジオ局の職員)
■解説:
人体自然発火現象(スポンティニアス・コンバッション)を題材にしたSFホラー映画。トビー・フーパー監督。本多猪四郎監督によるゴジラシリーズを始めとする東宝特撮怪獣映画の大ファンであるフーパーによる本作は、フーパーなりの本多猪四郎作品の初代『ゴジラ』に対するオマージュである。Wikipedia
Contents
■あらすじ:
1955年、ネバダ砂漠。ある1組の若い夫婦が人類の未来のために実験台になろうとしていた。それは、水爆実験が行われる砂漠の地下深くのシェルターで、抗放射線ワクチンを投与した身体で一定の期間生活するというもの。実験終了後、厚い壁に守られたシェルターから出てきた二人はとても健康で、この実験は成功した。シェルターさえあれば、核による攻撃にも耐えられると示したのだ。その後二人はテレビやラジオに引っ張りだこ、アメリカの英雄となった。
が、それはすぐに間違いだと分かることになる。
シェルター内で身ごもり、二人に男の赤ちゃんが生まれた矢先、二人ともが同時に身体から火を噴出し焼け死んでしまったのだ。実験に関わった科学者たちは、先の実験とワクチンに何らかの因果関係があるとしたが、政府と軍によりこの事実は伏せられ、生き残った赤子も名前を変えられてしまった。
そして34年後。高校教師のサムはある日突然、自分の指先から火が噴出し驚く。慌てて恋人のリサと病院に向かうが、そこには34年前にあの実験に関わった科学者が待ち受けていた ─
そのサムがあのネバダで実験台となり非業の死を遂げた夫婦の子どもであるんだけども、母親のお腹で浴びたであろう核とワクチンの雨。サムを引き取り育てたのは、実験の責任者のトップであり、体温が常に高めのサムに薬だと言ってずっと何やら良く無いモノを与えていた。科学者にとってはこの世に二つとない実験材料だったということになる。
「人体自然発火」による死と片づけられたサムの両親。だがサムの力はそんなものではなかった。指先や腕から炎が噴出したことに始まった彼の能力は、雷のごとく部屋にあるもの、部屋にいる人、電話相手にまでその炎で焼き尽くすまでになる。これこそが科学者や軍の欲していた力だ。だが、超自然的能力というものはコントロールできてこそ。コントロールできない者の末路は想像に難くない…
ネバダ砂漠の核実験場については、色々な映画で取り上げられているから、見たことがある人もいると思う。砂漠にポツンポツンと建つ一般的な家。中には夫婦や子どもたちをかたどったマネキンがあたかも生活をしているかのように置いてある。そこに突然核の爆風が轟くのだ。ゴーグルをかけて遠くから微笑ながらそれを見物している兵士や一般市民。普通の家や人がどうなるのかを実験している映像なのかもしれない。だが、その後の経過と結果を知っている身となれば、とてもじゃないが落ち着いて見ていられない。
ネバダ核実験場
ネバダ核実験場(Nevada Test Site)は、アメリカ合衆国エネルギー省が管理している核実験場。アメリカ合衆国ネバダ州のネバダ砂漠にあり、ラスベガスの北西約105kmの地点である。2010年8月に正式名称は Nevada National Security Site (ネバダ国家安全保障施設)に変更されている。かつては大気圏内核実験、地下核実験が行われていたが、現在は臨界前核実験が行われている。
1951年から1992年にかけて、928回の核実験が行われたことが公表されている。うち、828回は地下核実験である。アメリカが行った核実験のほとんどは当地で行われており、ここ以外の核実験は126回で主に太平洋核実験場、マーシャル諸島で実施された。大気圏内核実験は、部分的核実験禁止条約以前の1962年まで行われていた。地下核実験も包括的核実験禁止条約以前の1992年まで行われていた。
Wikipedia
核実験や核兵器などにまつわる物語や映画は多いと思う。最初に書いた『ゴジラ』の生まれもそうだ。
核にまつわる作品(抜粋)
- ゴジラ(古代の生物が海洋投棄された核廃棄物を食べたことによって進化した)
- 戦慄!プルトニウム人間(1957)
- 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(1964)
- サランドラ(1977)
- 太陽を盗んだ男(1979)
- 北斗の拳(1983~1988連載)
- 風の谷のナウシカ(1984)
- エンド・オブ・ザ・ワールド(2000)
- ディヴァイド(2011)
などなど。
フーパー監督の『ゴジラ』へのオマージュも含められた本作は、ただ核実験反対というテーマだけではストレートすぎる、そこに足されてホラー味がぐっと上がったのが「人体自然発火現象」だ。これでこの作品はホラー作品となって、ただの難しい社会的なものではなくなり、観る人も増えただろう。
人体自然発火現象(SHC)
一時、「あなたの知らない世界」的なテレビ番組やネット情報でよく見かけたものだけど、最近はあまり見ないな..。これはその名の通り、いきなり原因もなく人に起きる発火現象のことだ。仮説は色々唱えられているが、いまだに原因ははっきりしない。
「人体自然発火現象」という呼称は基本的に、人体が燃えてしまった状態で発見された事例に対してさまざまな判断が加えられて用いられている。「燃えてしまった人の周囲には火気がなかった」などの理由により「人間が自然に発火した」と判断した人が、その事例にこの呼称を用いている。
メアリー・リーサーの事例(1951)
Wikipedia
スリッパを履いたままの足などを残して、焼け死んでいた。
アルフレッド・アシュトンの事例(1988)
下半身のみをくっきりと残して焼け、発見時には既に死亡していた。室内は高温だったが、周辺には火気らしきものはなかった。
マイケル・フェアティの事例(2010)
自宅の居間で焼死体で発見された。発見時には既に死亡していた。周囲に燃えた跡のようなものは無く、検死官は彼の死因を人体発火現象と判定した。
本作は「人体自然発火現象」とタイトルが付けられてはいるが、サムの様子を見るに『ゴジラ』の咆哮の方が近いと思われる。怒りに任せた咆哮であり、それは個人的なものから、そのまま社会に向けられていく。
両親が非業の死を遂げたのも不幸であったけれど、その後も全く自由に生きていない、周囲の人間は実験関係者だけ。結婚し離婚した奥さんも関係者、奥さんの現恋人も関係者、サムの現恋人リサも実は関係者、行った先の病院の医師まで関係者…。
サムの不幸は人生を全て実験で埋め尽くされたことだろう。関係者にとっては、実験対象でしかなかったからだろうが ─
『シン・ゴジラ』 (2016) - Shin Godzilla
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トビー・フーパー監督作・関連作
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『遺体安置室 -死霊のめざめ-』(2005) - Mortuary –
ゾンビ・・なのかな? 長年空き家だったカビ臭い元葬儀屋に越してきた一家が恐ろしい目に遭うという話。最後にラスボスの登場もあるんだけど怖くない。それより怖いの… -
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