代表作の一つ『パルプ・フィクション(1994)』へと続くタランティーノ監督のデビュー作『レザボア・ドッグス』。
拳を繰り出す方が早いような男達が延々とくだらないおしゃべりを続け、くだらない事で小学生のような口喧嘩を始めてはたしなめられる。そしてその後唐突にバイオレンスに突入するという、監督独特の(男の)世界が繰り広げられる。
このレビューは是非この曲「リトル・グリーン・バッグ」を流しながらお読みください。
■レザボア・ドッグス - Reservoir Dogs -■ 1992年/アメリカ/100分
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
製作:ローレンス・ベンダー
製作総指揮:リチャード・N・グラッドスタイン他
撮影:アンジェイ・セクラ
音楽:カリン・ラクトマン
主題歌:ジョージ・ベイカー「リトル・グリーン・バッグ」
出演:
ハーヴェイ・カイテル(ホワイト/ラリー・ディミック)
ティム・ロス(オレンジ/フレディ・ニューエンダイク)
マイケル・マドセン(ブロンド/ヴィック・ベガ)
スティーヴ・ブシェミ(ピンク)
エディ・バンカー(ブルー)
クエンティン・タランティーノ(ブラウン)
クリス・ペン(ナイスガイ・エディ・キャボット)
ローレンス・ティアニー(ジョー・キャボット)
カーク・バルツ(マーヴィン・ナッシュ)
■解説:
宝石店襲撃に失敗した強盗たちの確執をタイトに描いた傑作バイオレンス・アクション。描きこまれたキャラクター、縦横無尽に時間軸を越えた構成、緩急自在の演出とどれもが素晴らしく、脚本・監督(おまけに出演も)の異才タランティーノの名を一躍世に知らしめた。トップ・シーンからエンディングまで、トップノッチで突っ走る。 (allcinema)
■あらすじ:
キャボット親子の元に集められたその道のプロの男達6人。お互い本名も素性も知らないままに銀行強盗を決行するが、情報は警察に筒抜けになっており死傷者が出る。果たして誰が警察のイヌなのか?-
Reservoir Dogs:「掃き溜めの犬たち」の意
黒いスーツを身にまとい、小さなレストランのテーブルで雑談する男達。朝日のよく当たる席で男達がおしゃべりしている内容はというと、マドンナのデビュー曲「ライク・ア・ヴァージン」の奇想天外な解釈(Mr.ブラウン)だったり、ウェイトレスに渡すチップについての講釈(Mr.ピンク)だったり、、。
『パルプ・フィクション』の冒頭を彷彿とさせるこのレストランでのくだらない会話には、もちろん意味など無い。これらは登場人物の紹介にあたる。
後にマドンナからタランティーノにクレームが入ったという独特の解釈をたれたMr.ブラウンは、頭の中がちょっとどちらかに偏っている、あまり近づきたくないイメージだし、理由の無い無駄な金は1セントたりとも出したくないというMr.ピンクは現実的で利己的、ようするにKYな感じ。そして彼らの話をうまく聞いては会話を流していくMr.ホワイトは人間関係を大事にするリーダー的なタイプに見える。
(オレンジ、ブロンド、ブルー3人はあまり話さないので、ここではあまりその人となりが分かりづらいが。)
このくだらないおしゃべりや痴話喧嘩は、移動する車の中やボスであるジョーが「色」の渾名を決めるときにさえ続けられ、本作はバイオレンスに分類される作品でありながら「会話」で成り立っていることが分かる。
レストランで軽口をたたき合った後、まるで幼稚園の入学式の行列のようになって向かった先には停めてある数台の車。この車に分乗して向かうのは宝石屋。彼らは久しぶりに集まった昔からの仲間でもなんでもない。彼らは犯罪者。
そして、ここからいきなりバイオレンスになる。
腹を撃たれのたうつオレンジを集合場所に運ぶホワイト。ここでも会話は大事だ。重傷のオレンジの気を失わせまいとずっとしゃべり続けるホワイト。宝石を盗み出せたものの死傷者が出て、強盗は半ば失敗に終わった。集合場所に命からがらたどり着いたピンクの話によると、「警官が宝石店の中にたくさん待機していた。警察のイヌ=裏切り者が仲間に紛れ込んでいる!」
「盗るもの盗ってさっさとズラかればよかったものを、あの殺戮マシーン“ブロンド”が派手に銃を撃ち始めたものだから、ひどい銃撃戦になってしまったんだ!」
叫ぶピンク。オレンジは血の海に横たわっている。瀕死のオレンジを介抱しながら事態を飲み込もうとするホワイト。集合場所になかなか姿を見せないボス親子。そこへやって来たのが警官を一人人質にして連れてきた殺戮マシーン“ブロンド”。誰が裏切り者なのかをこいつから聞き出そうと言う。賛成するピンクとホワイト。
いったい、誰が警察のイヌなんだ?
誰のせいで俺たちはこんな目にあったんだ..
お互い命を預けての強盗計画のはずなのに、あっという間に仲間割れして収集がつかなくなっていく「掃き溜めの犬たち」。冒頭ののんびりした、くだらないおしゃべりの空気は一変、互いの本名も素性も知らない者同士が互いに疑い、銃を向け合う。
本作は時間軸も行ったり来たりするので、そんな緊迫した中に、強盗前ののんびりした余裕のある彼らの様子が挟まる。軽口をたたく人のいい男のように見えるホワイトさえも、銃を構えるその姿は堂に入り、ピタッとあった銃口には狂いが無い。そう、彼らは犯罪者と警察のイヌ。「Reservoir Dogs」だ。
そして最後は犯罪者らしく、おしゃべりではなく「銃」で会話しThe End-。
犯罪者の自滅を描く本作だが、登場人物達はいちいちかっこいい
ハーヴェイ・カイテルは後の『パルプ・フィクション』の掃除屋を思わせる冷静さだし、スティーヴ・ブシェミもまだ若い。マイケル・マドセンの大きな身体を揺らせて踊るシーンは不気味なコワカワ(怖くて可愛い)で、ジョーの息子エディ(クリス・ペン)は駄目な2代目かと思いきや、洞察力に優れた出来るヤツ。
そしてティム・ロス。
『殺し屋たちの挽歌(1984)』でチンピラを演じた彼だが、本作では準主役のMr.オレンジを務めその名を世間に知らしめた。
オレンジのかっこいいシーンが一つあるんだけど、何度観ても何回観てもシビレる(死語
とはいえ、やはり彼らは犯罪者。タランティーノはきっちり最後には落とし前をつけてます。
『殺し屋たちの挽歌』(1984) - The Hit –
我が身を守るため仲間を裏切った男と殺し屋の話といえば、暗~いギャング映画を想像しがちだが、本作は違う。スペインの明るい太陽の下、生成のスーツを着たサングラスの殺し屋(ジョン・ハート)と、名作「傷だらけの天使(1974~75)」のアキラのような弟分(ティム・ロス)が、死を達観して悟りを開いた態度のでかい裏切り者(テレンス・スタンプ)を引っ立ててパリを目指すという、ある種のロード・ムービーだ。
Contents
監督 クエンティン・タランティーノ
アメリカ合衆国の映画監督。
Wikipedia
1990年代前半、入り組んだプロットと犯罪と暴力の姿を描いた作品で一躍脚光を浴びた。脚本も書き、自身の作品に俳優として出演もする。アカデミー脚本賞とカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞している。
タランティーノの作風は、自身の映画趣味が随所に見受けられる。パロディ・オマージュ・引用のほか、千葉真一(Sonny chiba)やパム・グリアなどタランティーノが熱狂的なファンである俳優を出演させている。
日本映画に造詣があり、脚本を担当した映画『トゥルー・ロマンス』でも、主人公のサブカルチャー・ショップの店員が「Sonny chibaの空手映画のファン」という設定にしている。『パルプ・フィクション』では、ブルース・ウィリスに日本刀での殺陣を行わせた。
映画製作に携わるようになって以降も、いちファンとしての映画鑑賞意欲は衰えず、毎年数多くの映画を視聴している。気に入った映画には声を大にして賞賛を送り、またそれらを自分の中でランク付けすることを趣味としている。→「クエンティン・タランティーノの映画ランキング」
■主な作品
- レザボア・ドッグス(1992) -Reservoir Dogs
- トゥルー・ロマンス(1993) -True Romance ※脚本
- パルプ・フィクション(1994) -Pulp Fiction
- ナチュラル・ボーン・キラーズ(1994) -Natural Born Killers ※原案
- フォー・ルームス(1995) -Four Rooms ※4話目脚本
- フロム・ダスク・ティル・ドーン(1995) -From Dusk Till Dawn ※脚本
- ジャッキー・ブラウン(1997) -Jackie Brown
- キル・ビル Vol.1(2003) -Kill Bill: Vol. 1
- キル・ビル Vol.2(2004) -Kill Bill: Vol. 2
- デス・プルーフ in グラインドハウス(2007) -Grindhouse
- イングロリアス・バスターズ(2009) -Inglorious Bastards
- ジャンゴ 繋がれざる者(2012) -Django Unchained
こうしてみると、最初の3作がとりわけ好きだなー。
映画館で観た『イングロリアス・バスターズ』も小気味が良くて笑わせてもらった。
『ジャンゴ 繋がれざる者』は今年3月1日にようやく公開。ぜひ観に行きたい!
最近、「タランティーノ、引退か?」みたいな記事を見たけれど、そんなこと言わないで、ぜひこれからも撮ってほしい。
ではまた
このブログのタランティーノ関連作品
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『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012) - Django Unchained –
痛快娯楽タランティーノ・ウェスタン!映画館に行けなかったのでレンタルをとても楽しみに待っていた本作。この監督だから長いんだろーなーと思いつつ遅い時間から観始めたけれど、途中でやめられなくなって165分があっという間。普通ならザクザクと切り落とされる監督らしい長々とした会話を堪能しました。楽しかったー。勧善懲悪万歳!! -
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コメント
コメント一覧 (2件)
コメントありがとうございます。
私は『パルプ・フィクション』から遡る感じで、この映画を観ました。
ホントに、かなり前のことですねー。。
>すかし方の面白いトリッキーな
時間軸をくるくると変えて、人を鼻先で笑ったような登場人物達。独特の世界ですね。
>ティム・ロス
この頃のティム・ロスよかったですね。
特に!この作品の身体を半分起こして銃で撃つところ!かっこいいです!
あ、今思うと『アンタッチャブル』の同じシーンも好きだ..。
携帯の着メロに使ってました→"Little Green Bag"
こんばんは、もうこれもナツカシ映画の部類に入ってきましたね。時の経つのは早いものです。当時はタランティーノの名前もよく知らないままビデオで見たんですけど、すかし方の面白いトリッキーな映画だなあという印象がありました(物語の枝葉だけで成立する映画もあるんだっていう驚きもあり)
キャストはみんな良かったけど、やっぱりティム・ロスが一番アタマに残ったなあ・・・