『血とバラ』(1960) - Et mourir de plaisir –

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古めの吸血鬼映画特集ぼちぼち続いてます。今回は『世にも怪奇な物語/黒馬の哭く館』のロジェ・ヴァディム監督作。もう『血とバラ』なんてタイトルだけでクラクラしそうな吸引力。雰囲気も『黒馬の哭く館』に似ていて、現実と夢と謎が交錯しなから悲劇のラストへと向かっていく。いいわー

■  血とバラ - Et mourir de plaisir  – ■
1960年/フランス・イタリア/74分
監督:ロジェ・ヴァディム
脚本:クロード・ブリュレ 他
製作:レイモン・エジェ
撮影:クロード・ルノワール
音楽:ジャン・プロドロミデス

出演:
メル・ファーラー
エルザ・マルティネリ
アネット・ヴァディム
マルク・アレグレ

解説・あらすじ:
恐怖作家レ・ファニュ原作『吸血鬼カーミラ』の映画化作品。イタリアの古城の城主には、吸血鬼を先祖に持つという言い伝えがあった。ある日、城主は婚約者を招くが、従妹のカーミラはその婚約者に倒錯した愛情を抱く……。女吸血鬼という題材を、官能的につづった作品。
(allcinema)

英題:Blood and Roses


アイルランド人作家シェリダン・レ・ファニュが1872年に著した怪奇小説「カーミラ」(日本では「吸血鬼カーミラ」)は、ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」(1897年)よりも古い吸血鬼小説だとは知らなかった。当然、この「カーミラ」は「ドラキュラ」に影響を与え、1931年のカール・テオドア・ドライヤー監督作『吸血鬼』にも。

ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」系列の映画を含む作品との決定的な違いは、女性吸血鬼が主役だということ。最近だと『ビザンチウム』、『ぼくのエリ 200歳の少女』なんかもあるけれど、1930年代以降70年代くらいまでは基本吸血鬼と言えばドラキュラ伯爵で、女吸血鬼は添え物ですものね。
そして今回、本作を観て新たに発見したこと。それはあのリンチ監督作『マルホランド・ドライブ』。何ソレ?と思った方も、そんなの常識じゃんって思った方も、とりあえずチャンネルはそのまま

本作の舞台はイタリアの名家カーシュタイン家のお城。当主カーシュタイン伯爵の婚約が決まったために、婚約者家族や友人が集まっている。そこにオーストリアから遅れて到着したのが伯爵の従姉妹で、子供の頃、この城で一緒に育ったカルミラ。我儘の気まぐれお嬢様といった風情だが、伯爵をはじめ皆に愛され、大事にされている。
今回、特に気まぐれで皆を困らせているのは、子供の頃から伯爵であるレオポルドを兄のように慕い、恋していたから。それを婚約者のジョージアに奪われたようでご機嫌斜めなのだったのだが、理由はそれだけでは無かった。

婚約披露パーティが開催された夜、どこからともなく聞こえてくる彼女の名を呼ぶ女性の声。導かれて見つけた物は古くからそこに置かれていた純白のウェディングドレス。そのドレスに身を包み、赤いバラの花を一輪手にしたカルミラは、カーシュタイン家の祖先で唯一襲い来る村人の手から逃れた吸血鬼と言い伝えのあるミラルカに瓜二つだった。

またもや声に導かれ、先祖代々の霊廟に降りて行くカルミラはほとんど夢遊病者のようで、ミラルカが指示するとおり、彼女の棺の蓋をついに開けたのだった。ミラルカは言う。
“カルミラは死に、その身体は私が頂いた。長い間、この時を待っていたのだ”

本作のオープニングはこのゴシック的ホラーに似つかわない飛行機が飛び立つシーンで始まる。そのシーンに被さる声は「昔は2ヶ月はかかった距離を、今は数時間で移動できる。私はミラルカ。500年を生きてきた」と語る。

ミラルカは確かにカーシュタイン家の祖先で18世紀に実在した人物。従兄弟で当時の当主ルードヴィッヒと愛し合い結婚が決まったが、結婚式当日に亡くなってしまった。終生の愛を誓ったはずのルードヴィッヒ。だがミラルカの死後、誓いを裏切り他の女性と婚約。しかしその女性が結婚間近になると死亡するという事が続いた。
元々、吸血鬼伝説の残るこの地のカーシュタイン家は、地元の村人達に吸血鬼だと噂されていた。そしてレオポルドはルードヴィッヒに、カルミラはミラルカに生き写しだったのだ。

城の周りを幽鬼のように歩き回るカルミラ。城に勤める村の少女を襲い、ついにはレオポルドの婚約者ジョージアの首筋に歯を立てる。けれどもこの映画では吸血そのもののシーンは無く、首筋に残る2つの小さな歯形があるのみ。けれどもそういったショックシーンが無い代わりに、カルミラが見る奇妙で不可思議な夢のようなものが挟まれる。

地味で落ち着いた色調に突然現れるこの鮮烈な赤は、吸血鬼そのもののようであり、女性そのものを表わしているようにも。こんな不気味な幻や夢を見るカルミラは精神に異常を来したのか、それともミラルカに取り憑かれたからなのか。

また、ミラルカが襲うのは原作にもある通り女性だけだ。この辺りが原作はレズビアニズムを想像させるものになっているということだが、映画化された本作ではどうだろう。確かにそういった描写があった。広い庭で遊んでいたカルミラとジョージアが突然の雨に降られ温室に走り込んだシーン。指を切ったジョージアがその指を唇に当てると唇の一部に赤い血が一滴盛り上がる。そこを目掛けるように自身の唇を沿わせるカルミラ。

このシーンがそうだったのかなー、とは後で思ったのだけど、それよりも雨に濡れた黒髪のジョージアをどこかで見た気がして、ついに思い出した!そう、ここで出てくるのが『マルホランド・ドライブ』。

なんとこの黒髪女性の名はカミーラ(であり、リタ)。
ストーリーは全く違うけれども、本来の自分とこうありたい夢の自分をテーマにしている点はもしかしたら本作と通じるものがあるのかもしれない。『マルホランド・ドライブ』はリンチ監督による『血とバラ』の新解釈作品だったり…

さてリンチ監督が関わってきたところで、本作のラストは『マルホランド・ドライブ』同様、悲劇に終わり、最後ミラルカがあなたに語りかける。

「信じるも、信じないも、あなた次第です」

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コメント

コメント一覧 (4件)

  • 予告編はまるで「フランケンシュタインの逆襲」みたいなBGMが流れていますけど^^;、映画そのものに流れる音楽はとても綺麗で儚げでした。
    吸血鬼物は恋愛をテーマにする作品がほとんどだと思うんですが、女吸血鬼が主役だと特に悲恋になるんですよね。
    (『スペースバンパイア』とか『ブラッディ・パーティ』みたいなのもありますが)
     
    ホントに女優さんは綺麗でしたねー。
    「ガラスの仮面」はあまり知らなくて、今、知らないことを残念な気持ちになってます(-.-)

  • 女吸血鬼カーミラと聞いたら、どうしても
    ガラスの仮面の亜弓さんのイメージがドーンとでてきてしまうのですが(笑)
    女優さんがたが非常に美しい映画でしたね
    倒錯シーンの美しさはためいきものでした
    女吸血鬼を題材にしたものって、大抵が切ない思いで
    満たされて終わるものが多いのですが
    (「血の伯爵夫人」もそうでした)これも後を引く終わり方でしたね

  • 血とバラ

    1960年、 ロジェ・ヴァディム監督作品。吸血鬼カーミラもの。
    かつて吸血鬼の一族であったと噂されるカルンシュタイン家の末裔カルミーラは、幼い頃より従兄弟のレオポルドに恋していたのだけれど、そのレオポルドには婚約しているジョルジアという女性がいて、結婚式を間近に控えていた。
    やがて焦燥感でいっぱいのカルミーラは先祖のミラルカの亡霊の声に導かれるまま、レオポルドの婚約者であるジョルジアとの…