『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)

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ドロリとした映画が観たいなーっとレコーダーの録画一覧で見つけた本作。レンタル開始早々に観て気に入り、原作も読んだことを思い出した。スウェーデンの寒々しい冬が舞台であるにも関わらず、どこか生々しい匂いが漂い、生と死が交錯する。純愛のようでありながら、計算しているようにも見える2人が登場するこの作品『ぼくのエリ 200歳の少女』は、間違いなくドロッとしていた。

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■ぼくのエリ 200歳の少女 – Låt den rätte komma in -■
2008年/スウェーデン/115分
監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
原作:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト「MORSE -モールス-」
製作:ヨン・ノードリング 他
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽:ヨハン・セーデルクヴィスト
出演:
カーレ・ヘーデブラント(オスカー)

リーナ・レアンデション(エリ)
ペール・ラグナル(ホーカン)
ヘンリック・ダール(エリック)
カーリン・ベリ(イヴォンヌ)

解説:
ヴァンパイアの恐怖や哀しみと同時に、孤独な少年の切なくも美しい初恋を繊細に描ききり世界中で絶賛の嵐が巻き起こったスウェーデン発の感動ヴァンパイア・ムービー。いじめられっ子の少年が、ひょんなことから恋に落ちてしまったヴァンパイアの少女と辿る哀しい運命の行方を、鮮烈な残酷描写を織り交ぜつつ静謐かつ詩的なタッチで綴ってゆく。ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストのベストセラー『モールス』を原作者自らの脚色で映画化。主演はカーレ・ヘーデブラント、リーナ・レアンデション。監督は、本国スウェーデンでテレビを中心に活躍してきたトーマス・アルフレッドソン。 (allcinema)


あらすじ:
スウェーデン、ストックホルム郊外。母親と集合住宅に住む少年オスカーは12歳。特に親しい友達もおらず学校では同級生からイジメのターゲットにされていたが、やり返すことも出来ない大人しい少年。そんなある日、家の隣に引っ越してきたエリという少女と知り合う。夜ごと集合住宅の中庭で言葉を交わすうち、心惹かれていくオスカー。楽しい日々を送るようになった彼だったが、この頃から町では猟奇的な殺人事件が続くようになっていた-

英題: Let the Right One In


原作者自らが脚本を担当した本作。
映画ではオスカーとエリの関係に焦点があてられており、美しい場面が多い。反対に原作では「貧困、失業、アル中、離婚、イジメ、小児性愛者」など現代の社会問題がベースとしてもっと現実的に語られている。

Contents

両親の離婚で母親と暮らすオスカー。

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離婚の原因は父親のアル中問題(原作から)。それまでは厳しい母親と酒に溺れる父親の元で暮らしていた。両親はオスカーを愛しており虐待などは無かったであろうが、両親の喧嘩は絶えなかっただろうし、母親に八つ当たりもされていたであろうことが窺える。
だから母親の話、ましてや小言なんかはオスカーの耳にほとんど入らず、右から左に流れていくのが普通になっている。定期的に合う父親はしらふでさえあれば、オスカーの良き友人であり楽しく遊んでくれる良き父親だ。しかしいったんお酒が入ると、父親はオスカーが見るに堪えない怪物となってしまう。映画の中でも父親の家で2人が楽しくゲームをしているところに父親の友人がいきなり訪ねてくる場面がある。映画ではアル中ということが明かされていないので、なんだか怪しい雰囲気の父親と友人の関係にも見えるが、実際は飲み友達なのだろう。
慣れた様子で家に入り込んでくる友人。この事から2人は常に酒を飲んでは、くだを巻いていると考えられ、オスカーは父親に無断で家を飛び出し、母親の元へ勝手に帰ってしまう。怪物など見たくないからだ。

怪物は父親だけではない。

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学校にはことあるごとに因縁をつけて虐めてくる同級生がいる。「ぶーぶー、子豚ちゃん」と言ってきたり、持ち物を隠されたり、棒で叩かれたり・・。なかなかイジメは執拗で、見当たらないオスカーを探してまで行われる。されるがままのオスカーだが、怒りは相当貯まっており、密かにナイフを隠し持ち、相手を刺し殺すことを妄想している。

ここで見逃してはならないのが、イジメの首謀者である少年も年長の兄に常日頃から高圧的な態度で命令されイジメられ鬱屈しているということだ。オスカーを目の敵にするのは、それの発散行動である。
そんなイジメグループに復讐することを妄想するオスカーは、新聞に掲載された殺人事件の切り抜きなどをスクラップし、裸の自分を窓に映す。そこにはやられるがままの弱いオスカーではなく、新聞に載るような凶悪な殺人者となった自分が立っており、こちらを見つめている。強い自分が。負けない自分が。
集合住宅の夜の中庭には誰もいない。誰もいないから誰にでもなれる。そんなオスカーにエリが話しかけた。

深夜にひっそり引っ越してきたエリ。

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透明な肌を持ち金髪で清潔そうな薄い印象のオスカーに対して、エリの爪には血液がこびり付く。長年摂ってきた血液で身体には動物臭が匂い立ち、白い雪の中でそこにだけ色が付いているようだ。細身でしなやかなエリは、ある時は少年に、ある時は少女に、大人に、動物に、様々に変化する。
映画ではどうしてエリがヴァンパイアになったのかは描かれていない。ではどうして邦題に「200歳」とあるか。

原作から少し補足すると-

ヨーロッパのある村で貧乏ながらも両親、兄弟たちと幸せに暮らしていたエリ。ある日、領主から子供たちへパーティの招待状が届けられる。喜んで他の子供たちと参加したエリは、領主たち大人から別室に呼ばれ、噛み付かれ、血を飲まれる。それは長い時間続き、戯れに去勢までされたエリ。本名はエライオス。200年前は少年だった。
こうしてヴァンパイアとなったエリは、夜の自分を守り食事である血液を確保し保護してくれる人間を次々と渡り歩いてきた。オスカーの住む住宅に引っ越してきた時に一緒だったホーカンもその一人。彼は元は教師だったが小児性愛者であったためエリの誘惑に抗えず保護者となった。
映画でのホーカンの血液採集の下手さ加減は、少年時からエリと一緒だったからかと思ったが原作では違う。しかし映画ではぼかされていて、オスカーの運命を考えさせられるものになっている。

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昼間、出歩けないエリは夜の中庭でオスカーと出会った。一人で奇妙な遊びをしているオスカー。孤独な2人は、今まで孤独だった夜を共有するようになる。
この変わった少女に惹かれたオスカーは「好きだよ。付き合って」と率直にエリに言うが、「女の子でなくてもいい?」とエリは答える。そして付き合ったからといって今の関係は何も変わらないと言われて初めてOKを出すのだ。
そこに隠れているのは、人間の保護者に保護の代わりに差し出していた物があるということ。原作では言っている。「女の子」に見えた方が保護者を捕まえやすかった、と。時たま映る大人の女性のような顔で苦悩するエリの表情。そしてホーカンはとうとう血液採集に失敗し、連続殺人鬼として警察に捕まることになった。
エリは、このまま一人で他の地に旅立とうとするが、今までとは違う自分を愛してくれる純粋な少年の元にもう一度姿を現した-


2人の旅

映画冒頭は降りしきる雪の場面だが、その雪が次第に血液中に流れる赤血球や血小板のように見えてくる。さらりとしていてすぐに溶けて無くなる雪が、動物の生命の象徴でもある血液へ。ヴァンパイアであるエリは決して自分の運命を悲しんでいるわけでは無く、貪欲に生き抜いている。それが例え愛する者の犠牲の上に成り立っていたとしても。
オスカーは変わらない両親やいじめっ子のいる学校にはなんの未練も無い。退屈だった毎日より恋する少女とのスリリングな毎日を選んだ。これからはエリを保護する立場だ。自分が強く逞しく感じることが出来るナイフを使う日もすぐに来るだろう。

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • ぼくのエリ、200歳の少女 【2008年製作:映画】

    以前ネタにした「モールス」という映画の元の映画です。
     
    スウェーデンの映画です。
     
    この映画をの存在を知ったのは、
    「モールス」を見た後です。
     
    オリジナルという言い方が適切なのか分かりませんが、
    こちらの方が、
    評価は高かったですね。
     
    最初にこちらを見て、
    次に「モールス」を見ていれば、
    そういう声が大きくなるのも分かる気がします。
     
    で、
    アチキの場合は…

  • コメントありがとうございます。
     
    >びりりと寒さが伝わってくる
    キーンとした寒さですよね(関西に住む私は想像するだけですが)。
    そんな中で噛まれたら痛いだろうなー。
    凍てついた白い世界だからこそ、タイチさんが仰るように映える「色」。
    北欧の人のちょっと見慣れない顔立ちが、よりエキゾチックですし。
    やっぱり『モールス』よりこっちが好みです。
     
    >最近の更新頻度
    ・・・ぃゃ・・・仕事が暇なんです・・・
    アベノミクスさま、早く私の所にも来て下さい。

  • momoさん、最近の更新頻度、すごいですね。
    わたしなんか、2週間に1度くらいになってきました。
    見習って頑張りたいです。
     
    ぼくのエリは、スウェーデンの風景に痺れました。
    びりりと寒さが伝わってくるような、白い風景に、
    鮮烈な赤や青や黄色が、ホントに映えていて、
    美しいです。
    スウェーデン行きたいなあと思わせます。
    寒いの苦手ですけど。
    イギリスの寒さでも、参ったくらいですけどね。
     
    ラストの衝撃的なシーンも良かった。
    度肝を抜く傑作だと思います。

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