『第9地区』の監督ニール・ブロムカンプが所属するオーツスタジオ制作の10話からなる短編集シーズン1。世紀末のような世界で生きようともがき戦う者たち、物質社会の滑稽さ、与える者と奪う者などを描く。

Oats Studios

■ Oats Studios volume1 ■
2017年
原作・制作:ニール・ブロムカンプ

出演:
シガニー・ウィーヴァー
ダコタ・ファニング

■解説:
映画監督のニール・ブロムカンプが描く、斬新で実験的な映像の数々。終末のような恐怖と絶望に満ちた世界で繰り広げられる、悪夢のような物語を集めた短編集。

Netflix


Netflixで配信が始まった「Oats Studios」。
10話からなるオムニバス作品で、一部は無料でYouTubeなどでも観られるらしい。各話は長くても20分ほどだが、とても見応えがあるものが多く、特に1話目の「ラッカ」にはシガニー・ウィーヴァーが出ているものだから、なんだかすごいエイリアンものを観ているような気分に。
いつものように、簡単なあらすじと感想を

Contents

ラッカ(21分) Rakka

Oats-Studios1

■あらすじ:
2020年。凶暴なエイリアンに侵略された地球。文化と歴史は踏みにじられ、人間はほとんどが駆除された。大気を汚染し、人の脳を操る術まで持つエイリアンは、残った人間を実験台や繁殖用母体に使う。
そんな中、戦い続けるグループは、実験されても生き残り人類とは違う特殊能力を持った者を発見し、希望を見出そうとするが ─

■感想:
よくあるSFの設定ではあるものの、本作のトカゲ型エイリアンは最強の部類。けれども生き残ったごく少数の人類はあきらめない。どこまでも徹底抗戦だ!が、最後は人間爆弾まで使いだし、人類の未来は暗い…。そこに見つかった実験されても生き残り、特殊能力を身に着けた“アミール”。彼の力はまだ未知だ。その彼に「未来はどんな世界なの?」「どんな世界に?」と何度も何度も問いかける様子が、なぜかすごく悲しい。

タイトルの「ラッカ」で思い出されるのはシリア・アラブ共和国の都市ラッカ。2013年にイスラム国に占領され、本作公開の2017年にようやく解放されたとしている。この第1話ラッカは間違いなく、このお話だ。思えば監督の『第9地区』もエイリアン避難民の話だったな…

密林の悪魔(26分) Fire Base

Oats-Studios1

■あらすじ:
1969年、ベトナム戦争。フェニックス作戦が行われていたベトナムで、アメリカ軍の軍備や兵士が宙を舞い、吹き飛ばされる事案が発生。CIAが派遣されて調査が始まる。翌年の大きな作戦でも不可解な出来事がまたも起きる。それには“リバーゴッド”と呼ばれる正体不明の何者かが関わっており、物を自在に動かし、死人さえも蘇らせ意のままに操るという。それを目の当たりにした現場の最前線で戦う部隊の兵士たちは怯えており、これを打破すべく、ある軍曹が現地に入るが ─

■感想:
これも分かりやすいお話だ。密林の悪魔とは、元農民の男“リバーゴッド”ではない。小さな国に介入する覇権国のことだろう。監督の路線は、かなりはっきりしている。時にはこういうものを見て、考えることも必要だ。


神の鎧をまとい、戦うがいい

ビルの楽しいクッキング(10分)
Cooking With Bill

■あらすじ:ビルとカレンのショッピングチャンネル。今日の放送は、台所で使えるお役立ち台所家電のご紹介。1つ目「だます950」は固いチーズやターキーを軽々と切り刻む優れもの、のはずだったが暴走し、ビルの指が大変なことに ─

■感想:第3話はコメディタッチの台所家電のご紹介。「だます950」「プレスト・ペジ」「マジブレンド200」の最新3機種。ボタン一つでなんでも切れたり、あっという間にお料理が出来上がる。はずだったが、どれも暴走、ビルを苦しめる羽目に…。物質社会の馬鹿らしさと、ショッピングチャンネルの怪しさをホラーコメディタッチで描いている。
皆さん、テレビに映っているからって、何でもかんでも信用しないで(‘Д’)

神の戯れ:現代/原始(7分)
God: City/Serengeti

■あらすじ: 豪華な部屋で椅子にもたれ、ルシファーから届いたワインを味わうGOD。彼の前にはミニチュアの人間界が広がり、人間たちの生活を見下ろすことができる。神が執事に言う「あのビルに火を放て」。戸惑いながらも神の命令は絶対服従。執事はマッチを擦ってビルに放り投げる。高層ビルはあっという間に大火に包まれ、屋上に避難した人々。そこに神は言う「あれ。あれだ。ぐるぐる回る、竜巻を起こせ」。執事は黙って指を動かした ─

■感想: 神によると地球は宇宙のごみで作ったらしい。そこで生まれた人類が思いのほか、どんどん進化するものだから、そのたびに邪魔しては遊んでいる神様。と言っても、邪魔する力を使っているのは執事で、神はお酒飲みながら命令するだけだけど。神によると他にもゴミで作った星があって生き物がいるらしいよ。

融合体(22分) Zygote

■あらすじ:
近未来。北極圏の炭鉱で事故が発生、死体の融合体でできた怪物が現れる。ほとんどの鉱夫は殺され、融合体に合体。生き残った2人の男女が懸命に戦い逃げようとするが ─

■感想:
女性の方(ダコタ・ファニング)は炭鉱働き専門の“合成人”という設定で、階級はカナリアということらしい。男性は人間で上司のようだが、「君にも生きる権利はあるんだ」と女性に最後の言葉をかける。何人だろうが、何の合成だろうが、生きとし生けるものは皆、公平なのだという監督の考えがよくわかる。また多勢が常に正義なのではない、という事も。
死体の融合怪物はよく出来ていて、まるで我儘な自己中の塊のように見えた。

Oats-Studios1

最低大統領:原油流出/ブツ(6分)
BAD PRESIDENT

■あらすじ: アラスカ沖で発生した原油流出事故。アメリカ大統領補佐官は国民に発表する声明の準備をしているが、大統領その人がふざけていて全くことが進まない。また別の日、大事な案件を相談するため訪れた大統領執務室には、たくさんの酒瓶と飲んだくれて下着姿の大統領がいた ─

■感想: これは、あれだな。いつもバッチリの非の打ち所の無い大統領に対する皮肉かな?たまには、こんなこともあるんじゃないかい?国民の目には映らないだけでさ、みたいな。こんな体たらくは全く見たくないから、今のままでいいんだけれど。

アダム:エピソード2(6分)
Adam:The Mirror

Oats-Studios1

■あらすじ:
ある共同体から逃げてきたサイボーグたち。逃げ込んだ先の建物にはたくさんの仲間がいた。そしてそこには、全てを映し出す“鏡”と呼ばれるサイボーグがいて、過去の犯罪歴も暴かれてしまうというが ─

■感想:
繊細な表情と細身のサイボーグ、アダム。他のサイボーグたちもつくりは同じで動き方は少しぎくしゃくしていて頼りない。共同体なるところにはおそらく人間たちがいて、サイボーグたちは不自由な生活をしていたようだ。また、共同体では病気は毒で治すと彼らは言い、物質文明をここでも非難しているのかな。
アダムは鏡によって、過去の犯罪歴や共同体で行っていた反乱などの活動を暴かれる。だがそれは、ある場所では犯罪と呼ばれ、他の場所では英雄的行動と讃えられる。


物事には表裏の二面性があることをお忘れなきよう。

アダム:エピソード3(8分)
Adam : Episode 3

■あらすじ: 共同体から逃げてきた女性は、ようやくあるコロニーに辿り着いた。このコロニーでは技術を捨て去り、人間本来の力だけで生きていくことをモットーとしている。女性はそれを証明するために、あるサイボーグを破壊するように命じられるが ─

■感想: だんだん分からなくなってきた(-“-) この世界には「人類」はいないのか?人の皮と筋肉組織を被ったサイボーグしかいないの?サイボーグがサイボーグとして裸で生きていくチームと、人の皮を被り続けている物質主義チームがいるってこと?だって女性の兄はサイボーグだったよ?

グダニスク(4分) Gdansk

■あらすじ: 中世のヨーロッパ、十字軍の世界。ある農夫のところに十字軍の部隊がやって来る。家族を守るために立ちはだかった農夫は、部隊の大男に握りつぶされ殺された。残されたのは怯える妻と赤子だけだった ─

■感想: グダニスクはポーランドの都市。中世の頃は他の王国の植民地になったり、第2次世界大戦時にはドイツに占領された歴史を持つ。人間の3倍はあろうかと思われる大男に一握りで殺されてしまう農夫が登場する本作は、たった4分しかないが、何世紀もの物語をここに凝縮しているのでは、と思われる。

キャプチャー:バッタ(7分)
Kapture: Fluke

■あらすじ: ある軍需企業が新作の武器製品「フルーク」のデモを行った。それは、基地局と送信機が一緒になったコンパクトなボックスだ。だが、これには捕獲した敵に打ち込んだ機器を脳に接続させ、その人間の精神と運動機能を操作する力があった ─

■感想: この「フルーク」の他にももう一つデモが行われるのだけれど、どちらも囚人の命を使って行ったもの。それも囚人にはこのデモに力を貸してくれたら減刑するみたいな嘘を言って連れ出している。何やら“人体実験”という言葉が脳裏をかすめる…。
また、このデモを発表している科学者たちの楽しそうなこと。すごくよく分かるんだけどね、今までの研究の成果だからね。こうやって人類は進化してきたんだろうけど、やっぱりここでもブロムカンプ監督は世に問うんだね。
それでいいのか?と。


以上10話のあらすじと感想。
いかがでしたか?ブロムカンプ監督の言わんとすることはとても分かりやすくて、誰でもちょっと立ち止まって考えることが出来る内容。ただし、どのお話も途中を切り取った形になっていて、オープニングもラストもない。オチのついた終わり方はしないのです。それでも訴えたいところはしっかり描かれていて、短編としては、とても潔い形になっている。

デジタル機器大好き人間の私momorex。それでも最近、高機能で高額すぎるスマホなんかに、さすがにちょっとな…って思い始めていたので、タイムリーな内容ではありました。

私はここに宣言します。i〇honeは最低でも5年は使いたい!(使うぞ、ではない…)

そしてもう一言付け加えよう。
そのやり方で本当にいいのか?(‘Д’)

ニール・ブロムカンプ監督最新作

 Oats Studios (youtubeチャンネル)

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