びっくりした(゚∀゚) Disney+でいきなり配信が始まった『ナイトメア・アリー』。これも映画館に観に行きたいリストの筆頭に入っていたんだけど諸事情で行けず、ぐずぐず考えていたところだったからほんとに驚いた。Disney+の最近の配信内容は素晴らしいわ。後半にネタバレ考察付いてます。
■ ナイトメア・アリー – Nightmare Alley – ■
2021年/アメリカ/150分
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ他
原作:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム
「ナイトメア・アリー 悪夢小路」
製作:J・マイルズ・デイル他
撮影:ダン・ローストセン
音楽:ネイサン・ジョンソン
出演:
ブラッドリー・クーパー(スタン・カーライル)
ケイト・ブランシェット(リリス・リッター博士)
トニ・コレット(ジーナ)
ウィレム・デフォー(クレム)
リチャード・ジェンキンス(エズラ・グリンドル)
ルーニー・マーラ(モリー)
ロン・パールマン(ブルーノ)
ピーター・マクニール(キンブル判事)
メアリー・スティーンバージェン(フェリシア・キンブル)
デヴィッド・ストラザーン(ピート)
マーク・ポヴィネッリ(モスキート少佐)
■解説:
「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞の作品賞ほか4部門を受賞したギレルモ・デル・トロ監督が、ブラッドリー・クーパーはじめ豪華キャストを迎えて送り出すサスペンススリラー。過去にも映画化されたことのある、1946年に出版された名作ノワール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」を原作に、野心にあふれ、ショービジネス界で成功した男が、思いがけないところから人生を狂わせていく様を描く。映画.com
ギレルモ・デル・トロ監督ということだけで観に行きたいって思っていた本作『ナイトメア・アリー』。タイトルからある女の狂気話(てっきりアリーを名前と思っていた(・∀・)と思い込みつつ、トレーラーを何度も観ては、ん~?どんなお話~?となかなか頭でまとまらず、けどそれだけに余計に興味が湧いて観てみたいっと思っていた。
なのに劇場公開を見逃してしまいレンタルなり配信なりを待っていたところに、いきなり数日後に配信始まるからってDisney+さんの告知が(だって公開初日は3月25日。今日はまだ5月14日)。ほんとにありがとう。
思えば観に行ったばかりの『ミラベルと魔法だらけの家』もあっという間にDisney+配信だったね。『私ときどきレッサーパンダ』もね(これは観に行ってないけど)…。
では、この謎に包まれた作品のあらすじを簡単に
Contents
あらすじ
1939年。あてもなく地元から都会に出てきたスタンは街外れで開かれている見世物小屋に目が止まり、そこで仕事にありつく。最初は雑用ばかりだったのが、怪しい透視術をピートに習ったのに加え、従来の口の旨さも合わさって出し物を披露するようになる。そしてある日、さらなる飛躍を求めて電気人間の見世物をしているモリーとともにニューヨークへ旅立った。
2年後、スタンとモリーは大きな会場で霊能力を使った手品を披露するまでになり、その道では成功していた。ある日の公演で客のキンブル判事の個人的なことを言い当てたことをきっかけに、大金を稼げるようになったスタンは判事の知り合いの大物資産家グリンドルを紹介される。グリンドルは大金持ちだが猜疑心が強くスタンは嘘発見器にかけ試されてしまうものの、それをうまくやり過ごし信頼されるように。スタンはさらに力を見せつけ、グリンドルから金を巻き上げられるよう彼の秘密を聞き出そうと精神科医リリス・リッターに近づくが ─
感想
田舎から出てきた男が次第に野心に目覚め、怪しい口八丁の手品コールド・リーディング(相手の外観に対する注意深い観察と特有の話術)を使って人気者になっていくが、成功したニューヨークでさらにホット・リーディング(事前に対象を調査し情報を掴んだ上で、あたかも超能力や霊能力で秘密を言い当てたかのようにする技法)まで使って大金を稼ぐようになるものの、後戻りの出来ない事態になって闇の路地裏に落ち込んでいく、という物語だ。
本作は遺体を床下に落とし込み、周囲に火をつけ燃え上がる自宅を背に、悠々と立ち去るスタンの姿から始まる。
持ち物はラジオと鞄一つだけ。清々するような足取りでバスに乗り込み都会に出たスタン。寝るところも食べるものさえない彼の目に止まったのはたくさんの見世物小屋を出しているカーニバルだった。そこにいるのは、一癖も二癖もあるような輩たちではあるが、皆、肩寄せあって生きている…と言いたいところだが、そこはやっぱり儲かってなんぼの商売だ。“獣人”と呼ばれる出し物の男を作り出す話を聞かされ、あまりの非道さに驚いたスタン同様、きっとあなたも見世物小屋の実態に驚くだろう。そりゃ、クレムの言う通り「ここに来るお前の素性や過去など誰も気にしない」だろう。
スタンはハンサムで誠実、優しそうに見えることもあって、読心術の見世物で人気者になる。人を観察し、話術を持って人の秘密を言い当てる読心術の力がスタンに自信を持たせる。その自信が、この見世物小屋唯一の美人、皆が大事にしているモリーをかっさらい、“この世のすべてを君に”とかいう痒い言葉とともにニューヨークへ旅立たせる。
だが、ちょっと待って。
オープニングの燃える家の遺体は誰?遺体の扱いからスタンが殺した相手のように見える。それに、この見世物小屋のピートにしたことは?なんかス~っと物事が運んでなにげに見ていたけれど、実は酷いことをしていましたよね、スタンは。世話になった見世物小屋をモリーを連れて出ていくのも、ショーを少し失敗した疲れているモリーに対する言葉も。
このスタントン・カーライルっていう男は、いったいどんな奴なんだ?
読心術のコツとして本作内で度々出てくる「少年はだいたい父親との関係に問題を感じている時期がある」という点。これはきっとスタン自身にも当てはまる。このスタンと父親の確執が、その後のスタンの人生にかなり影響を及ぼしていると思われ、特に父親と同じような年頃の男性に対して、相手の気持ちを踏みにじるような行いをしても全く気にもとめていない。分かってあげよう、理解してあげようとも思っていない。更にはその命さえなんとも思っていない。
じゃあ女性には?
モリーに“愛している”“この世のすべてを君に”なんて甘ごとを繰り出すものの、それはスタンお得意の読心術のうちで、こちらのかける言葉で相手を意のままにしているのでしかない。でもそんなことは若いモリーにさえもすぐに見破られるのだ。逆に言えば、彼に騙されるのは心が弱っていて誰かに慰めてほしい、赦してほしいと思っている富裕層の人間だけ。だがそれは、スタンの力であって力ではない。その人間は騙されたいから騙されているだけなのだ、リリスの指摘通り。
自分の思うように物事が進まなければ気が収まらないスタン。結局は、目に見える金だけを信じたスタン。
彼が行くところ、暴力的な事件が起きる。彼はそれを止められない。そして何か起きるたびに、鞄一つでその場を立ち去る彼は、最後には鞄さえ持たず血を流しながら身一つで逃げ惑うことになる。狭く暗い路地を呻きながらよたよたと走るスタン ─。
全くこの時の彼こそが“ナイトメア・アリー”(悪夢小路)だ。この場面を見ながらそう思ったのだが、実は、もっと悲惨な悪夢が彼を待っていた。それは、もうすぐ。ラストにやってくる。その時、彼は言ったものだ。
これが僕の宿命だ
だが待ってくれ、スタン。獣は私利私欲のために同族を殺したりしない。そんなことするのは人間だけだ。
『悪魔の往く町』(1947)
ギレルモ・デル・トロの『ナイトメア・アリー』は原作2度目の映画化で1作目は1947年の『悪魔の往く町』。内容はデル・トロ版とよく似た感じのもののようだ。デル・トロ版で一番好きな見世物が1947年版にも出てきているし(・∀・)
ここからはネタバレありきです。
未見の方はご注意を
悪夢小路の考察:本当にあったこと?(ネタバレあり)
昨日、ここまで書いて終わらせたけど、色々と気になる点が。
今まで何をしてどうやって生きてきたのかわからないスタン。けれど父親との生活を清算して都会に出てからは順調に、あれよあれよという間に大金を稼ぐようになる。ラストの展開までに色々な人物に出会い、色々なことが起きるが、彼の行いはすべて同じ。一直線に地獄(悪夢小路)に向かっているのだ。まるでそれが最初から決まっていたかのように。
彼は実の父親を結果的に死に追いやったが、憎しみを募らせるほど執着していたということは、裏を返せば父親を愛していた、愛されたいと願っていたということだろう。その彼にとっての父親像、真実の姿とこうであって欲しい、父親ならこれくらいして欲しかった、みたいな虚ろな希望がこの物語を作った。
父親の真実の姿
見世物小屋のピートから読心術のコツを教わり、それを使ってはいけない、というような奥義をピートを死に追いやってまで奪い取る。罪の意識のかけらも感じられない行いとその後だが、ピートこそがスタンの父親だ。良い人なのにいつもへべれけに酔っていて世話がかかる。唯一教えてくれたのは怪しい人を騙して金を稼ぐ方法のみ。本当のところ、読心術みたいなものではなく盗みや詐欺まがいのことだったかもしれない。そして最後、どうしようもなく弱ってしまったことを見計らって死に至らしめる手助けをするスタン。
ここには母親の姿もジーンに投影されているのか。いつも彼に優しく守る存在だ。だが少し考えれば夫に何があったか分かるはずなのに何もしない。夫を愛していながらも浮気する、思慮深いとはいえない女性。
父親の虚像
街の支配者層、富裕層である判事。判事夫婦には戦死した一人息子がいたが、この設定もあまりに分かりやすい、当時ならいくらでもあったことだろう。その息子の存在を事前調査をもって言い当て、霊能力も発揮して心霊ショーまでこなし大金を稼ぐ。父親の立場である男性から当然の権利のように金をむしり取る。この夫婦も間接的にではあったが、死に追いやった。
疑り深い資産家も上手く騙して大金を手に入れるが、三文芝居がバレて結局は殺してしまうスタン。この時は間接的でも何でもない、激情に駆られ直接暴力を持って死に至らしめる。それはモリーを掴んだ手を離さなかったためだが、これはモリーを守りたいというより過去のフラッシュバックであり、腕を掴まれ殴られそうになっていたのは母親だ。資産家は大勢の女性に酷いことをしてきたと語った。当時は出来なかった父親を殴りつけ母親を守る行いをここで果たしたと言える。
リリス・リッター博士
利口で人を裏切るのも厭わない氷のような女性リッター博士。自分の母親とは対極の存在であるが、彼女はスタンにとってこれぐらいの賢さがあればよかったのに、、という母親像だ。博士には似つかわしくない胸の傷は、スタンの父親にやられた母親にあったものだろう。この傷を見せられた時にスタンは優しさを見せる。モリーが資産家に詰め寄られた時と同じだ。
獣人とは
スタンが行くところ不幸が起きる、というより彼が犯罪を犯し続けているのだが、彼には全く罪の意識が無いのか?だがラストで獣人になるのが宿命と悟った彼にようやく贖罪の時がきたのだろう。父親に対して出来うる限りの復讐を終わらせた後に。だが彼には最初から分かっていた。初めて訪れたカーニバルで見た獣人は彼そのものだったからだ。
獣人の額に怪我を負わせ、それが原因で死んでしまったことに珍しく罪の意識を持っていたスタン。実は獣人の怪我のすぐ前に自身も同じ場所に怪我をしている。額の怪我。ウジが湧くほどひどくなった怪我。これが意味するところはー
まとめ:本当にあったことなのか?
この物語は戦時中のものだ。それは作品内のニュースで知らされるのだが、なぜか違和感を感じる。物語の中で戦死した息子が一人登場する以外、カーニバルやカーニバルを見物している客、富裕層の生活に戦争の影がない。第二次世界大戦は1939年〜1945年であり、1939年に都会に出たスタンの物語と時期は全く被るというのに。どうしてスタンは出征しなかったのか?
さぁ、ここで思いつくのは管理人momorexの大好きなオチ、死に際の走馬灯。普通、走馬灯は過去の記憶だけれど、スタンの場合はやり残したこと、どうしてもケリをつけたかったことを、そんなことをすれば地獄行きなのを承知でやり通した。じゃないとスタンは死ねなかったのだ。父親への復讐なしには。そんな父親じゃなければ成功していただろう自分の未来も合わせて。
じゃあ、スタンはいつどこで死亡したのか。自宅を燃やした時なのか。それとも彼こそが戦死した一人息子だったのか。戦死の理由はもちろん額の怪我だ。
だがこの物語のタイトルは「悪夢小路」。彼が生きていようと死んでいようと、どこにいるにせよ地獄の責め苦は続いていく。その理由は彼自身にあり、いつまでも父親のせいにはできないのだから。
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