観た人のほとんどが「最悪」で「後味が悪い」と叫ぶであろう有名な不条理作品『ファニーゲーム』。カンヌ映画祭出品時には退席者が出たほどの理解しがたい残酷さが特徴だが、公開から20年以上経った今、それほどに“あり得ない”と言える事件だろうか?
■ ファニーゲーム – Funny Games – ■
1997年/オーストリア/108分
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
製作:ファイト・ハイドゥシュカ
撮影:ユルゲン・ユルゲス
音楽:ジョン・ゾーン他
出演:
スザンヌ・ロタール(アナ)
ウルリッヒ・ミューエ(ゲオルク)
アルノ・フリッシュ(パウル)
フランク・ギーリング(ピーター)
ステファン・クラプチンスキー(ショルシ)
■解説:
1997年のカンヌ国際映画祭で、そのあまりに衝撃的な展開に途中で席を立つ観客が続出。斬新なスタイルとショッキングなテーマ性でその年のカンヌの台風の目となったが、賞レースでは無視された。2001年、「ピアニスト」でカンヌのグランプリを獲ったミヒャエル・ハネケの、早すぎた金字塔的作品。映画.com
Contents
■あらすじ
ある夏の午後、家族で湖のほとりにある別荘を訪れたショーバー家。別荘地であるこの場所は、豪華な別荘が点々とあるだけのバカンスにはもってこいの場所。ご近所さんとは一緒にセーリングや食事をするほどの友人でもあり、安心感もある。
到着早々、夫ゲオルグと息子ショルシはヨットの準備を、妻アナは都会の友人にぜひ遊びに来るよう電話をしながら夕食の支度を始めた。
そこへ突然、テニスウエアの青年ピーターが現れる。別荘に来る途中、お隣さんのところで見かけた青年のようだ。お隣の奥さんがアナに卵をもらってきて欲しいという事で、おつかいに来たと言う。快く承知したアナは卵を4つ彼に渡したものの、ピーターは台所を出たところで落として割ってしまう。謝罪と共にもう4つ手に入れたピーター。だが玄関を出た先でショーバー家の飼い犬ロルフィに飛び掛かられて割ってしまったと、またアナのところに戻って来た。この間、アナの大事な携帯電話を洗い桶に落として使えなくもしている。
さすがに、何かおかしいと感じたアナはもう帰ってくれとピーターに告げるが、卵と犬のことで反対に文句を言い出したピーター。そこへ、ピーターの相棒パウルも家に入り込んできた。2人でアナを責め立てているなか、戻ったゲオルグとショルシが何事かと話を聞く形になった。だが怯えるアナを見て、ゲオルグはとりあえず帰ってくれるよう2人に頼むが頑として家の中から動かない。そのうち、言い合いのようになった矢先、パウルが持っていたゴルフクラブでゲオルグの膝を一撃。骨折の大けがを負わせてしまう。
一番力のあるだろう大人の男性を動けないようにしたところで、ショーバー家に対する2人のファニーゲームが始まった ─
ファニーゲームとは
手慣れた様子で働き盛りの父親としっかり者の母親を手玉にとる、まだ若いパウルとピーター。
ショーバー家に来る前に、お隣さん一家の襲撃も完了している。だから息子ショルシの遊び仲間である少女の姿が見えなかったのだ。金目のものと食べ物を奪った後、家族を皆殺しにしようとしていた。そのちょうどいいタイミングでこの避暑地にやって来たお隣の都会の金持ち。仕事を一通り終えた後、まず人よさそうなピーターが動き家に入り込み、パウルを招く。
まずは携帯電話を使えなくする。次には邪魔になりそうな飼い犬を始末し、力のある父親を動けなくする。だが今は命まではとらない。死んでしまったら、ゲームに参加できないし、その様子を見て楽しむこともできないからだ。2人にとって被害者にはまずゲームに参加してもらうことが重要なのだ。
ファニーゲームとは“面白いゲーム、遊び”みたいな、非常にざっくりした意味を持つ。とにかく「面白ければ、それでいいじゃん」という、2人の単なる暇つぶしだ。それも面白く楽しい気分になるのは2人だけ。被害者たちは地獄のような時間を過ごすことになるのだが、怯えきって自分たちの言うとおりに動く様子が、また2人を楽しませる。だが、そんなことはすぐに飽きる。
2人はこのゲームに慣れており、あまり時間をかけない。特に今回のような別荘地で皆が顔見知りという場合は、一軒、一軒にかける時間は24時間ほど。その時間が切れる頃、被害者家族は全員命がなくなっている ─
よくしゃべるパウルはピーター(おそらく自分自身も)の悲しい子ども時代の話をしている。厳しい母親に必要以上にしつけられ、ゲイになったことをなじられ続けた。親の愛情を受けずに育った2人は、ファニーゲームなんて言葉でごまかせない、いわゆる連続殺人鬼だ。
連続殺人鬼(シリアルキラー)とは
一般的に異常な心理的欲求のもと、1か月以上にわたって一定の冷却期間をおきながら複数の殺人を繰り返す連続殺人犯に対して使われる言葉である。ほとんどの連続殺人は心理的な欲求を満たすためのもので、被害者との性的な接触も行われるが、動機は必ずしもそれに限らない。猟奇殺人や快楽殺人を繰り返す犯人を指す場合もある。
Wikipedia
自らの犯行であることを示す手口やなんらかの固有のサインを残すこともあり、その被害者たちの外見や職業、性別などに何らかの共通点が見られる場合もある。
シリアルキラーは動機によって様々なタイプに分かれるが、このパウルとピーターの場合は「快楽殺人型」と思われる。このタイプは殺人を犯すことでスリルを感じ快感を得る。お酒や煙草をやめられないのと同じ感覚で、興奮を得、快感を得たうえで、生活のために金品や食べ物を盗み何度も殺人を繰り返す。
だが、ほとんどの場合、シリアルキラーは1人で行動する。2人組というのも珍しいが、無いわけではない。
2人組のシリアルキラー
- ボニーとクライド
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1930年代前半にアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した。ルイジアナ州で警官隊によって射殺されるまで、数多の殺人に関与し、数え切れないほど多くの強盗を犯した。当時のアメリカは禁酒法と世界恐慌の下にあり、その憂さを晴らすように犯罪を繰り返す彼等の事を凶悪な犯罪者であるにも拘らず、新聞も含めて英雄視する者も多かった。後にボニーとクライドの犯罪は何度か映画化された。(Wikipedia)
『俺たちに明日はない』(1967) - Bonnie and Clyde – 行方を把握されていた2人は警察の待ち伏せに遭い、ほぼ一方的な銃撃により命を落とす。 そして、この物語は終わった。後には何も残らない。これは2人の物語だから。 - レイモンド・フェルナンデスとマーサ・ベック
- 『ロンリーハート』(2006) - Lonely Hearts – 1940年代、全米中を震撼させた実在の凶悪犯カップル、レイ&マーサ。けちな泥棒であり、結婚詐欺師だったレイがマーサと出会うことで目覚めてしまった人の残忍性。自分…
どちらも実在の有名な2人組だが、映画を観る限り、殺すことが第一の目的ではないように思われる。まずは金品強奪があり、それを邪魔する人がいたので殺してしまった、という流れだ。
だが本作の2人はどうだろう?24時間以内とはいえ、時間をかけて被害者をいたぶり、たっぷりと怖い思いをさせたうえで楽しんでスキップをするかのように殺している。特に、ラストのアナをヨットから湖へ突き落すやり方ときたら、煙草の灰を窓から落とすよりも軽い仕草だ。
他の家族や、息子、夫もひどかったが、このアナの殺し方がラストにあったからこそ、名だたる不条理作品の称号を受けたのではないだろうか。
シリアルキラーが単独である理由は、自分の暗い淵の中を他人には見せられない、見せたくないという感情が彼らにもあるからかな。まぁ、彼らシリアルキラーはまず人との関りが苦手なことが多いし、正体を見せた途端、大体の場合は逮捕につながるからなんだろうけども。とは言え、仮面を被ったまま結婚し、陰でシリアルキラーをやっていたという場合もあったりして、本当に人の心は計り知れない。
『フローズン・グラウンド』(2013) - The Frozen Ground –
今度のニコラス・ケイジは“タフな良き人”刑事バージョン。対するジョン・キューザックは一見地味な中年だけど、実は連続殺人鬼という役どころ。刑事のケイジが心のねじ…
複数人のシリアルキラーになった場合は、やはりリスクが伴う。上で紹介したボニーとクライドには兄弟などを入れてグループで犯罪を犯していたが、中には少し甘い考え方の人間や、どうにも犯罪には向いていない人間も含まれていて逮捕されたうえ警察に寝返り、2人は最期を迎えた。
レイモンドとマーサの場合は、やはり男側に甘さがあった。どちらも映画作品でしか知らないのだけど(‘ω’)
本作の2人はどうなるのかな。少しボヤっとした感じのピーターがいずれ失敗しそうに見えるけど、実は彼も人を思いやる感情にかなり欠けている。そういった意味ではパウルと同じ、人の心が欠けた楽しんで殺人を犯す連続殺人鬼だ。
オープニングとメタ発言
本作はオープニングもかなり趣向が凝らされている。とても仲の良さそうな夫婦と、それを後ろの座席から幸せそうに見ている息子。この家族が聴いているのはクラシックで、曲あてゲームを楽しみながら別荘に向かっているが、そこへいきなり非常に刺激的なヘヴィメタのような音楽がタイトルと共に入る。これはジョン・ゾーンの「Bonehead」という曲で、まるで地獄の狂喜乱舞のような音楽だ。基本的に本作で使われている音楽はこれと、同じくジョン・ゾーンの「Hellraiser」だけ。
え?Hellraiser?・・・(‘ω’)ノ
この地獄の曲が幸せいっぱいの家族の映像と共に流されるというところで、もうね、頭に浮かんだのは「一寸先は闇」…この言葉以外にはなかった。
また時々、挟まるパウルのカメラ目線で話す様子は「メタ発言」と呼ばれるもので、自らがフィクション作品の登場人物であることを意識して行う、自己言及的な発言を意味する。
これは作りものだよ、という意図があるのかはしらないが、彼の表情からは絶対的な自信と「どう?僕たちすごいだろ?楽しそうだろ?一緒にやりたいと思わないか?」という欺瞞であふれかえった心の中が透けて見えてくる。ここがいつも自信なさげなピーターと違うところだ。
さてと、彼らは次の別荘に移動したようだから、今回はとりあえずはこのへんで。『ファニーゲーム U.S.A.』もまたそのうち観ようっと。
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