この映画『イレイザーヘッド』はずいぶん前に一度観て、もう観ることはないだろう、、と思っていた作品だ。一度で充分と思った理由はもちろん、あまりの意味不明さ加減、難解さに根を上げたからだが..。しかしBSのリンチ特集で初っぱなに放送され、もう一度チャレンジすることに。さて-
■イレイザーヘッド - Eraserhead –■
1977年/アメリカ/89分
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ
製作:デヴィッド・リンチ
撮影:フレデリック・エルムス、ハーバート・カードウェル
音楽:ピーター・アイヴス
出演:
ジャック・ナンス(ヘンリー・スペンサー)
シャーロット・スチュアート(メアリー・エックス)
アレン・ジョゼフ(ミスター・エックス)
ジーン・ベイツ(ミセス・エックス)
ジュディス・アンナ・ロバーツ(27号室の女)
ローレル・ニア(ラジエーターの中の少女)
■解説:
「エレファント・マン」の大ヒットによって、ようやく日本でも劇場公開されたリンチの長編デビュー作。全編、悪夢にも似た奇妙なイメージで埋め尽くされ、白黒というよりは銀黒で作られた映像は人工的な寒々とした印象を与えている。まさに“奇形の美しさ”とでも呼ぶべき、大いなる実験作。悪夢に論理が無いように、意味を求めることの無意味さを説くイメージ・シーンの積み重ねは、初公開時よりも、同様の手段をあろうことかTVで行った「ツイン・ピークス」を観た後の方が納得しやすい。その意味でも’93年にリンチ自らサウンドトラックを再編集したドルビーステレオの「完全版」の公開こそ、本作の真の評価を問える時機であったと言えるだろう。 (allcinema)
Contents
■あらすじ:
フィラデルフィアの工業地帯に住む印刷工ヘンリー。付き合っていたガールフレンドのメアリーに「妊娠、出産したので結婚して欲しい」と言われ承諾する。しかしその赤ん坊は奇妙な顔つきで小さく、とても普通とは思えない生き物だった。それでも家族としての生活を楽しんでいたヘンリーだったが、絶えずピーピーと泣く赤ん坊に我慢ならなくなったメアリーは、赤ん坊をヘンリーに押しつけ実家に帰ってしまう-
見どころと感想
太陽の光とはおよそ縁のないような、工場の町に住むヘンリー。工場街の一角に建つアパートが自宅だが、一角に建つアパートというよりは、町は工場に覆い尽くされ、至る所に配管がのたうち蒸気が上がり、その中の隙間に人間の住む場所があるといった趣だ。
ヘンリーは青年の設定のようだが年齢不詳、着古した(おそらく1着しかない)スーツを着てとぼとぼ歩く。ぼさぼさの髪の毛が上に逆立ち、イレイザーヘッド(意味:消しゴム付鉛筆)のように見える、そんな男。
1部屋しかないヘンリーのアパートは、常に地鳴りのような音が響き渡り、隣のビルの壁が間近に迫るため、たった一つの窓さえ意味がなく、照明を点けなければ真っ暗。
照明を点けて明るくしたところで照らし出されるのは、古い箪笥やベッド、ベッド脇には盛り上げた土に直にさされた枯れ枝のような木。箪笥の上やラジエーターの前には太い配線のような髪の毛のようなものがとぐろを巻いている(何だ、これはいったい..)
本作の舞台は、このヘンリーの部屋が大半を占める。
ここに赤ん坊を連れたメアリーが同居し、その後メアリーが出て行き、ヘンリーと赤ん坊の二人暮らしになる。ストーリーは基本それだけ。そのストーリーとも言えない物語に、意味があるのか無いのかよく分からない登場人物が次々と出てくる。
奇妙な登場人物
- かさぶたの男(割れた窓のそばに座っている)
- メアリーの家族(妙な料理を作る両親と座ったままの祖母)
- 27号室の女(黒髪の美女がヘンリーを誘惑する。なぜ?)
- ラジエーターに宿る少女(頬に大きなできもの?天国の歌を歌う)
- イレイザーヘッド工場の男達(ヘンリーの脳みそで消しゴムを作る)
そして本作のもう一人の主人公ともいえる赤ん坊や枯れ枝、グロテスクな人工鶏料理。
それと、あともう一つ。度々出てくるコレ↓。
今回のレビューではコレをキーにしてちょっとだけ謎を解いてみようと思う。
『イレイザーヘッド』の謎を解く!
↑は冒頭、ヘンリーの口から出てきたところ。この後、仕事から自宅に戻りメアリーの家に行って出産を告げられる。結婚し同居してからポストに届いたコレを小さくしたミミズのようなものが届く。そしてその後、メアリーと一緒に寝ているベッドに突如現れる複数のコレ。
次に登場するのがラジエーターの少女に降ってくる、またしても複数のコレ。少女はコレを踏みつぶす。
次なる登場は、ヘンリーの頭がもげて代わりに生えてくるコレ。
そして最後はハサミで殺された赤ん坊が変身した大きくなったコレ。
さぁ、どうです?
コレは何に例えるのが手っ取り早いか?もうおわかりですね。ズバリ、男性の精○です。=ヘンリーの性欲とも言えるでしょう。
解説してみましょう(ウエカラ
- 冒頭、口から出て向かった先はメアリー。そして妊娠、出産
- 生まれた赤子はそっくりそのまま
- 生活に疲れたヘンリーの元に届けられるコレの元
- メアリーと寝ているベッドにのたうつ複数のコレ
- ラジエーター少女はコレを踏みつぶすがゆえ、少女である
- とうとう正体を現したヘンリーの頭
- 殺された赤ん坊は元のコレに
※27号室の女との情事で出てこなかったのは、所詮ヘンリーには手の届かない女だったから
メアリーの実家で出された鶏料理から液体が出てくるシーンは、もはや出産シーンにしか見えず、部屋の枯れ枝はヘンリーの疲れた様子を表しているかのよう。
『イレイザーヘッド』ってこんな作品
ということで、作品の一部の謎を解いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
ようするに男性も女性も衝動的な行動には気をつけましょう、というリンチ風道徳映画ということになりましょう。
その他の妙な登場人物達は、これがデヴィッド・リンチということで説明がつくかと思われます。彼らはその後のリンチ作品にも多数散見され、「あまり意味はない場合もある」と監督自ら説明されています。
それでは、この後もWOWOWのリンチ特集は続きますので、今回はこのへんで
ではまた
デヴィッド・リンチ関連作品
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『ワイルド・アット・ハート』(1990) - Wild at Heart –
「愛と呪縛」からの逃避行で始まるこの作品は、「愛」を受け入れ、「呪縛」から解放され、束縛される事さえも受け入れ背を向けず、真正面から人を愛せるようになったところで終わる。 -
リンチ × レフンな世界『ロスト・リバー』(2014) - Lost River
ライアン・ゴズリングがリンチ監督『マルホランド・ドライブ』のように撮ったという作品です。もうここで好き嫌いやアレルギーが出てくる方もおられるかと思いますが、… -
『チェインド』(2012) - Chained –
2014年ゴールデンウィークの一番のお楽しみはこれ!ジェニファー・リンチ監督作『チェインド』。2008年の『サベイランス』も最後のどんでん返しが面白かったけれど、ド…
コメント
コメント一覧 (6件)
『ロストハイウェイ』ですかぁ
あれは、いまいち自分の中の落としどころが見つからないままになってますね..
仰る「ミステリーマンが並行世界へ行くための何らかの接続装置 」っていうのはいいですね!私は主人公フレッドの中の1人みたいな解釈だったので、新鮮な感じがします。
混乱したまま感想を書いたのがこちらになります↓ よろしければ
https://momo-rex.com/blog-entry-146.html
確かにこういうシュールな映画は、1回目を観たときは2度と観ないだろう、と思うんですが、不思議ですよ。何年かしたら絶対もう1度観たくなるんですよ。なにしろ中身をほとんど覚えてませんからね(難しすぎて^^;)
『ロストハイウェイ』はそろそろもう1度観ようかなーって思い始めてます。
返信ありがとうございます。
残念ながらこの映画を二度も見る勇気はありませんでした。
でも確かにこの映画を「ホラー」と分類するには抵抗があります。
〜ちなみにレンタル屋さんの分類は「ミニシアター」でした〜
なんかお話を伺ってるとフランスかどっかの文学者か思想家が
「テクストの解釈の数だけ作品は存在する」とか言ってたのを思い出します。
「それ言ったら元も子もねーじゃん!」とか思ったんですが、
話のプロセスを追って色々考えを巡らしてるのは確かに面白い。
ただ僕の場合、映画にしろ小説にしろのめり込むように見てしまうし、
文章書いたりする時も、それこそ狂ったように書くことがあるので
視野がどうも狭量になりがちなんですね。
「恐怖」とか「不気味」という見方はおそらく僕が幼い頃に見たホラー映画に起因してる。
1ヶ月ほどノイローゼ状態になって幻覚、幻聴に悩まされたとか。よく覚えてないんですが、
その欠落した部分が底のない穴みたいで、はっきりとした形が与えられていない、何か正体が
わからないモノに知らず知らずの内に引き込まれてしまう。
そうだなあ〜
例えばリンチ監督の「ロストハイウェイ」に出てくる「ミステリーマン」なるモノ。
あれは一体なんなのか? 道化師とか悪魔とか言われてもなんか釈然としない。
「鏡」とか「闇自体」というのも近い気はするんですがまだ違うと思う。
「並行世界へ行くための何らかの接続装置
=それ自体に意味はなく人の運命を入れ替えるだけの変換システム」
う〜ん……
とりあえずそんなふうに考えてみたわけですが、
やはり一つの言葉や単語で命名して、何らかの「型」みたいなものを与えきれない、
もやもやした「もどかしさ」みたいなものを感じます。
このもやもやが恐怖、不気味さの正体かな〜と思えてくる……..
ただ…そんな物騒なオッサンがあんな不気味な顔で歩いてたらやっぱり怖いです(笑)。
なんて書くと上から目線に聞こえますが、違うんですよねー。
見る人によって見え方、感じ方が違うと言いましょうか。同じ人でも年齢なんかで変わってくる。
ようするにシュール=「好きなように理解して下さい。僕は○○を映像で表現したかったのですが、実は意味は無いのかも」てな感じでしょうか。
そういった意味ではまだリンチ監督作は入り安い方かもしれません..。
コメントをありがとうございました。
また寄って下さいね。たまにこういう映画も観ています^^
「イレーザーヘッド」昨日見ました。いろんなレンタルDVD屋をまわってやっと見つけました。
この映画が公開された当初物議を醸したという話は良く聞きます。また妊婦にはとても見せられない
なんてこともwikiに書かれてました。確かにショッキングな内容ですね。昔シュルレリアリスムの
実験映画をどこかの美術館で見たことがあります。確かカミソリで女性の目玉を切るシーンがあって
いまだに頭に焼き付いて離れません。デヴィットリンチ監督はシュルレリアリスムをこよなく愛する
といいますし、この映画(他の作品もそうでしょうが)は、それらに影響を受けていることは間違い
ありません。全編モノクロで作品漂う独特の不気味さは、その実験映画そっくりです。映像を見た瞬間
にその実験映画を思い出しました。
コメントをありがとうございます。
>子供を抱えて精神的に苦労
そうだったんですか!ということは、やはりヘンリーはリンチ自身ですね。
ヘンリーの、あのとりつく島もないような困った顔。
ジャック・ナンスは上手ですねー。
WOWOWの特集では有名な4作品とショートムービーやアニメもあって、すごく楽しみにしていました。
順番に紹介していこうと思っています。
たしか、この映画の製作時期のリンチ自身、
子供を抱えて精神的に苦労していたんですよね。
インタビュー本か何かでそういう記述を見ました。
(ちなみにこのときの娘がジェニファー・リンチ)
「エレファントマン」の監督にリンチが就任したのは、
製作者であるメル・ブルックスが「イレイザーヘッド」を
高く評価したからだそうですが、どういうところが気に入られたのか・・・。
今見ても、よく分からない映画です。。。
つか、WOWOWで特集をやってるんですか!?
はぁぁ……。ケーブルテレビがないんだなぁ、我が家は(泣)