『死刑台のエレベーター』(1958) - Ascenseur pour l’échafaud –

‘je t’aime’(ジュテーム)と電話にささやく女のアップで始まる本作。
この映画はノエル・カレフのサスペンス小説を映画化したものではあるが、犯罪ものというよりも、いまでいう不倫ものというよりも、女の一途で、自己中心的な愛の深さを感じ取る作品だ。

■死刑台のエレベーター -Ascenseur pour l’échafaud-■

1958年/フランス/92分
監督:ルイ・マル
脚本:ロジェ・ニミエ、ルイ・マル
原作:ノエル・カレフ
製作:ジャン・スイリエール
音楽:マイルス・デイヴィス
撮影:アンリ・ドカエ
出演:モーリス・ロネ(ジュリアン・タベルニエ)
ジャンヌ・モロー(フロランス・カララ)
ジョルジュ・プージュリー(ルイ)
ヨリ・ベルダン(ベロニク)
リノ・ヴァンチュラ(シェリエ警部)

解説:
わずか25歳のルイ・マルがその斬新な演出技法を駆使して初めて作り上げた劇映画。徹底したドライなタッチと、即興演奏で奏でられるマイルスのモダンジャズ、モノクロ映像に封じ込まれた都会の孤独感によって描かれる完全犯罪の綻び。“ヌーヴェル・ヴァーグ”の先駆けというフレーズには、あえて眼をつぶろう。この作品の魅力は、そんな時代の呪縛からは完全に解き放たれている。
 (allcinema)

Contents

あらすじ

ある会社に勤める男。男は兵士の時の経験を買われ、会社の社長に特殊な仕事を任されていたが、実は社長の妻と通じ愛し合っていた。
二人の生活を夢見るあまり、自殺に見せかけ社長を殺すことに成功した男。だが犯罪の証拠を残したことに気がつき、取りに戻ったビルのエレベーターに閉じ込められてしまう。
決行したのか、成功したのかもわからず約束のカフェで男を待つ女。そして男を捜し夜のパリの街をさまよい歩く-


英題 -Elevator to the Gallows-


見どころと感想

男を探して夜の街をさまよう美しい女。
夫はかなりの権力者であり、自身も街では有名なはずだが、気にかける余裕はない。男の名前を伝え見かけなかったかを聞いて歩く女の目には、男の面影以外は何も写ってはいない。

ジャンヌ・モロー

演じたのはジャンヌ・モロー。後にヌーヴェルヴァーグの恋人と言われた。
パリのフランス国立高等演劇学校で演技を学び、1948年にデビュー。『雨のしのび逢い(1960)』でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞している。最近の出演作では『ぼくを葬る Le Temps qui reste (2005)』がある。

この作品にはもう一人の主役ともいうべき女が出てくる。

窃盗などを常習とするやくざな彼氏とこの女の行動が、この作品を恋愛犯罪ものから強いサスペンス性のある作品へと変えている。
全てが終わった後に彼女がとった行動は、純愛の名の下の自己中心的なものであり、男はやすやすとその術に嵌められ胎児のようにまるまり彼女の胸で眠りにつく。
少女のようなあどけなさが残る花屋の店員。もう少女ではない。

小さなほころびから切り込んで、2人の女と2人の男を破滅へと導く殺人課刑事。

リノ・ヴァンチュラ

イタリア・パルマ出身。ヨーロッパチャンピオンにまでなったレスリングを怪我で断念。ジャン・ギャバン主演の『現金に手を出すな(1954)』で映画デビュー。フィルム・ノワールやギャング映画に多く出演し、1980年代まで活躍した。


■主な出演作品

現金に手を出すな Touchez pas au grisbi (1954)
死刑台のエレベーター Ascenseur pour l’échafaud (1958)
モンパルナスの灯 Les Amants de Montparnasse (Montparnasse 19) (1958)
情報(ネタ)は俺が貰った Le Gorille vous salue bien (1958)
自殺への契約書 Marie-Octobre (1959)
飾り窓の女 La Ragazza in vetrina (1960)
フランス式十戒 Le Diable et les dix commandements (1962)
女王陛下のダイナマイト Ne nous fâchons pas (1966)
冒険者たち Les Aventuriers (1967)
影の軍隊 L’Armée des ombres (1969)
シシリアン Le Clan des Siciliens (1969)
ラムの大通り Boulevard du rhum (1971)
バラキ The Valachi Papers (1972)
ローマに散る Cadaveri eccellenti (1976)

■監督はルイ・マル Louis Malle

富豪の家に生まれ、中学生の頃から映画に興味を抱き51年に映画高等研究所に入学。その後、ジャック=イヴ・クストー監督の「沈黙の世界」の撮影に参加後、助監督などを経て57年に「死刑台のエレベーター」で監督デビュー。翌年の「恋人たち」も大ヒットを記録した。以後、カルト的人気を誇る「地下鉄のザジ」や「パリの大泥棒」、「鬼火」などを経て、76年にアメリカに渡って「プリティ・ベビー」を監督。87年にフランスへ戻り、「さよなら子供たち」を撮った。95年、ガンのために死亡。(allcinema)

有名な監督だが、作品はほとんど観たことが無かった。
■主な作品
死刑台のエレベーター -Ascenseur pour l’échafaud (1957)
恋人たち – Les Amants (1958)*ヴェネツィア国際映画祭サン・マルコ銀獅子賞
地下鉄のザジ -Zazie dans le métro (1960)
私生活 -Vie privée (1962)
鬼火 -Le Feu follet (1963)*ヴェネツィア国際映画祭審査員賞、イタリア批評家賞
ビバ!マリア -Viva Maria! (1965)
パリの大泥棒 -Le Voleur (1966)
世にも怪奇な物語 -Histoires extraordinaires (1967)*第2話のみ
好奇心 -Le Souffle au coeur (1971)
ルシアンの青春 -Lacombe Lucien (1973)*英国アカデミー賞作品賞
ブラック・ムーン -Black Moon (1975)
プリティ・ベビー -Pretty Baby (1978)*カンヌ国際映画祭高等技術賞
アトランティック・シティ -Atlantic City (1980)*ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞他
アラモベイ -Alamo Bay (1985)
さよなら子供たち -Au revoir, les enfants (1987)*ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、セザール賞作品賞他
五月のミル -Milou en mai (1989)
ダメージ -Damage (1992)
42丁目のワーニャ -Vanya on 42nd Street (1994)

■音楽マイルス・デイヴィス

本作に使われたのは彼の即興演奏で、映画のラッシュに合わせて制作されたもの。
夜の街をさまよう女の声なき悲鳴が、ジャズトランペットに乗せて旋律となり流れてくる。

Miles_Davis_1984

原典:selbst fotgrafiert
アルバム『カインド・オブ・ブルー』『ビッチェズ・ブリュー』などで知られる、モダン・ジャズの“帝王”。
1926年、イリノイ州アルトン生まれ。比較的裕福な家で育ち、10代の頃からトランペットに興味を持ち演奏練習をしていた。高校時代に地元ではジャズバンドを結成、セントルイスでは大人とのバンドで活躍していた。18歳の頃、チャーリー・パーカーと共演。ニューヨークで活動後、1957年にパリに渡り、現地のジャズメンと共に『死刑台のエレベーター』に参加している。


歳を取ることに恐怖を感じ始めた美しい女。
若さにあふれ、何も恐れない少女のような女。
彼女たちがその愛を確かめるために巻き込んでしまった3人の男の人生。
たとえその実体が無くなろうと、写真に封じ込めた美しい自分と愛する男。それで満足する女が怖い。

愛している。絶対離さない。あなたは私のもの。絶対離れない。
と女はささやく。-そしてそそのかす。
女は愛をささやき、男は命で応える。そんな作品でした。

ではまた

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • 死刑台のエレベーター(1957、フランス)

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