全ての物事には終わりがある。あんなに長く感じた学生時代も、可愛がっていたペットの命も、死ぬまで続くと信じていた友情も、大事にしていたコップさえ割れた。そして砂漠に続くこの道も-
不毛の地を砂舞い上げ走るキャデラック。このアンバランスさは、そのまま2人の関係、2人のその後を表している。『地獄の逃避行』にもすぐに終わりは来る。
■地獄の逃避行 - Badlands –■
1973年/アメリカ/95分
監督:テレンス・マリック
脚本:テレンス・マリック
製作:テレンス・マリック
製作総指揮:エドワード・R・プレスマン
撮影:ブライアン・プロビン他
音楽:ジェームズ・テイラー他
出演:
マーティン・シーン(キット)
シシー・スペイセク(ホリー)
ウォーレン・オーツ(ホリーの父親)
■解説:
WOWOW
実話を基に、次々と殺人事件を起こしながら逃亡する若い男女の逃走を抒情的に描写。映像の詩人、鬼才T・マリック監督(「ツリー・オブ・ライフ」)の伝説的デビュー作。
『地獄の逃避行』というタイトルとあらすじから、プッツンした男女の破天荒で不埒な虐殺逃避行の物語だと思っていた自分。のんびりした田舎の牧歌的な風景が続く中、『地獄の逃避行』というタイトルは主演マーティン・シーンが『地獄の黙示録(1979)』で有名になってから後に日本で付けられた邦題であると知る(日本では未公開で後にテレビ放映)。原題は『Badlands』。そう言えばチャーリー・シーン主演『ノーマンズ・ランド(1987)』という映画もあったなぁ。
Contents
■あらすじ
母親を亡くした一人っ子のホリーは父親とサウスダコタで暮らしていた。父親にとっては最愛の妻が残した一人娘であり、愛情深く厳しく育てている。ホリー15歳。おとなしいけれどちょっと変わった女の子で友達は少なく、学校でも少し浮いてる感じ。
そんなホリーの目の前に、ある日現れたキット25歳。ジーンズにGジャンを羽織り、ジェームズ・ディーンを意識した生き方をしている清掃員。これといった夢も希望もお金も無いが、清掃の仕事に不満いっぱいでいい加減な仕事ぶりがたたってクビに。そんな時に見つけた1輪の花のようなホリー。
デートを重ねるうち愛し合うようになった2人だったが、それがホリーの厳しい父親にばれキットはホリーと会うことを禁じられる。今度ホリーに近づいたら殺すとまで言われ。しかしそんな忠告はどこ吹く風のキットは、2人が留守中にホリーの家に上がり込み、勝手にホリーの荷物をまとめて旅支度。戻った2人とかち合わせになり、父親に警察に通報すると言われたキット。その手には銃が。
キットとホリー
ある意味、純粋な2人の若者。しかし、何かが違う。どこかおかしい。
淡々と2人の若者の毎日を描いている間はよかったが、その後、ホリーの父親にかなり厳しめの言葉を受けて別れるように言われても感情をあらわにしないキット。そして平気で家に上がり込みホリーの荷物をまとめ、戻ってきた父親に銃口を向ける。行動が唐突で間の怒りも葛藤も話し合いも何も無い。自分の求める結果だけ。
作品冒頭でキットの乗る清掃車が住宅街の狭い道を行く。このシーンは“自分の頭の中はこんなに自由で希望に満ち、広大な何かが待っているはずなのに”、というキットの閉塞感を表しているようだ。が、本人は気付いていないのではないか?
力強さや躍動感のある若者独特のエネルギーがキットには感じられない。
そしてホリー。
いつも一人で遊んでいた孤独なホリー。キットに求愛されても“どうして私なんかを選んだのだろう?”と冷静な彼女。父親が目の前で恋人に撃たれたというのに、心の一部がどこかへ旅行しているような反応だ。それはあまりにも無感情。幼いときに母親を亡くしたからなのか?厳しい父親に育てられたからなのか?
父親が殺された時のホリーは、その衣装もあいまってまるでお人形のようだ。
この後、キットは家に火を付け、ホリーを連れて逃避行の途へ。その炎は横たわる父親と一緒にホリーのベッドに置かれていた人形も焼き尽くす。ここからホリーはキットに連れ添い、自分で考え行動しなくてはいけなくなったが、あまり出来ていないようだった。最後の最後までは。
恋人たちの事件
本作は1958年にネブラスカ州で実際にあった「スタークウェザー=フューゲート事件(Wiki:Starkweather/Fugate murders)」をもとにしている。この事件でも最初の殺人は恋人の父親から始まった。
父親を殺して逃避行と言えば『ナチュラル・ボーン・キラーズ』が思い出されるが、それもそのはず。原案のクエンティン・タランティーノは本作に影響を受けて物語の大筋を作ったようだ。
他にも砂漠の中を警察の車で移動するシーンや、夜の砂漠で2人が踊るシーンはあれやあの映画を思い出させる。
カップル・キラー作品は他にも『俺たちに明日はない(1967)』、『ロンリーハート(2006)』(どちらも実話ベース)などがある。
見どころと感想
これらの作品と比べても本作は、実に淡々としていて次々起こる殺人に血の匂いがしない、変わった作風だ。それは主人公2人が冷めた心の持ち主だからなのか、ずっと続くホリーの語りが幼いせいのか、監督テレンス・マリックが映像の詩人と呼ばれているからなのか。
しかし、その淡々とした様子に騙されてはいけない。父親、賞金稼ぎ、キットの人の良さそうな元同僚、見知らぬ夫婦・・と、次々に卑怯な手段で殺していくキット。それを全て見ていたホリーは、一つ一つ理由を付けて正当化していくのだ。そして「長い孤独より愛する者との一週間をとる」と決めてキットに付いて来たホリーは、モンタナの荒涼たる砂漠の中で夢物語に飽き、唐突に別れを切り出す。
ここも最後まで愛を貫いた他のカップル・キラーとは違う点で、15歳の少女の気まぐれが正直に出ている。
この殺人カップルのせいでアメリカ社会はパニック状態になり、警察は全力をあげて2人を探していた。カーチェイスの後に捕まったキットとその後の警察のやり取りがまた面白い。実際もあんな風だったんだろうか。
2人は裁判にかけられ、キットは死刑に、ホリーは執行猶予(実際の事件では投獄)をもらった。
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