『恐怖ノ黒電波』 (2019) - Bina

わぁ、久しぶりにきた「恐怖ノ黒」シリーズ!懐かしいとばかりに飛びついたものの、過去の「恐怖ノ黒」と違って、ちょっと取っ付きにくい。分かりやすくはあるんだけどね…。そういえば『恐怖ノ黒洋館』もわかりにくかったな。シッチェス映画祭2020上映作

■ 恐怖ノ黒電波 - Bina – ■
2019年/トルコ/115分
監督:オルチュン・ベフラム
脚本:オルチュン・ベフラム
製作:オルチュン・ベフラム
出演:
イーサン・オナル
ギュル・アリヂ
レベント・ウンサル
ウシュル・ゼイネップ

■解説:
ディストピアと化したトルコを舞台に、エンジニア変死事件の行方を独創的な展開と精緻なビジュアルで描いた悪夢的スリラー。「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2020」上映作品。


■あらすじ:
管理社会と化したトルコ。政府のプロパガンダを全ての住人に提供するため、古い高層アパートにテレビアンテナが新設された。しかし作業に携わったエンジニアが不可解な死を遂げる。やがて、事態の裏に隠された邪悪な意図が浮かび上がり -

映画.com

英題:The Antenna


「ディストピア」って”トピア”がユートピアと同じだから、なんかふわっといいイメージな雰囲気で感じていたんだけど(いい加減)、全然違いますやん。「ユートピア」が「理想郷」とすれば、「ディストピア」は真逆の「反理想郷・暗黒世界」。でもね、そもそも「理想郷」という言葉自体がざっくりしていて一貫性が無い。というのも人によって理想とするものが違うから。だから、その真逆の反理想郷という世界も人によって捉え方が違う。

そんなあやふやな世界が舞台の本作。ここでのディストピア世界はどうやら政府による「管理社会」ということらしい。国民の毎日を次々と管理下に置くことを進めている政府が次に施策したのがテレビ、ラジオ、新聞などあらゆるメディアを国営化。なんと今日から国営放送が試験的に始まる。その決意表明に夜中の12時に我が指導者による深夜公報がありがたくも放送されることになった。

それには特別の国営放送用アンテナが必要ということで、メフメットが管理人として働くこの古い高層アパートにもなんと朝から取り付け業者がやって来た。単独屋上に上がっていった業者の男。だが業者の男があやまって屋上から転落する事故が起きる。最近、この手の事故が多いとの噂も耳に入る。
だがこの事故はすべての始まりに過ぎなかった。

この後すぐ、この建物におかしな現象が続けざまに起き始める。
ある部屋では風呂場のタイルから黒いどろりとした液体が染み出してきた。ある部屋では配管の叫ぶような音が聞こえだす。大雨の影響で地下に水が溜まり故障したボイラー。
どくどくとまるで出血するかのようにタール状の黒い物質を流し続ける屋上のアンテナ…
管理人メフメットはタールが溜まっていくあちらこちらを右往左往して何とか修理しようとするものの、日頃の不眠症が災いしたのか、現実とも幻とも分からない奇妙な世界にはまっていく。

そんな中、始まる指導者による深夜公報。
それは、流れ続けるタールのように国民に覆いかぶさるプロパガンダの波。指導者は繰り返し話し続ける。これからは国民のために適切に調整された情報のみが与えられる。それは理想的な秩序を培うためであり、それを乱す者は迅速に排除される -
この放送自体、ライブでもなんでもなく時々乱れる映像から編集されたものだとわかる。この指導者はいつどこでこれを撮影したのか?最近のことなのか?この人が本当に指導者なのか?-指導者は存在するのか…?

国を動かす者が他の国にとって代わられていても分からない世界。政府によって言動を監視され、周りの人間を決して信用できない世界。自由な日本に暮らしていたら想像もつかないが、これが現実な場所もあるだろう。あの流れ出すタールは人をゾンビに変えるものだが、そんな人々の涙や苦しみ、過去の記憶なんかが、またあのアンテナに拾われて戻ってきているのかもしれない。

シッチェス映画祭「恐怖ノ」シリーズ

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