イーサン・ホークと言えば、どこか頼りなげながらも基本的には“善人”なイメージ。でも最近はちょっと違う彼を見ることが出来る。本作『ブラック・フォン』 もそう。普通の人間にはとうてい理解できない究極の犯罪者が登場するよ(‘ω’)
■ ブラック・フォン – The Black Phone – ■
2022年/アメリカ/107分
監督:スコット・デリクソン
脚本:スコット・デリクソン他
原作:ジョー・ヒル「黒電話」
製作:ジェイソン・ブラム他
製作総指揮:ジョー・ヒル他
撮影:ブレット・ユトキーヴィッチ
音楽:マーク・コーベン
出演:
メイソン・テムズ(フィニー・ブレイク)
マデリーン・マックグロウ(グウェンドリン・ブレイク)
ジェレミー・デイヴィス(フィニーの父親)
イーサン・ホーク(グラバー/誘拐犯)
ジェームズ・ランソン(マックス/グラバーの弟)
E・ロジャー・ミッチェル(ライト刑事)
トロイ・ルードシール(ミラー刑事)
ミゲル・カサレス・モーラ(ロビン)
トリスタン・プラヴォン(ブルース)
ブレイディ・ヘプナー(ヴァンス)
ジェイコブ・モーラン(ビリー)
バンクス・レペッタ(グリフィン)
■解説:
「ドクター・ストレンジ」「エミリー・ローズ」のスコット・デリクソンが監督、「透明人間」「ゲット・アウト」などスリラー作品の話題作を多数送り出しているジェイソン・ブラムが製作を手がけたサイコスリラー。映画.com
Contents
あらすじ
1978年のコロラド州、デンバー。
ある北部の町で複数の少年行方不明事件が続いていた。いじめられっ子の少年フィニーは、いつも自分をかばってくれていた喧嘩の強い友達ロビンの行方も分からなくなってしまい心を痛めていた。そんなある日、学校の帰りに荷物を落として困っている男に出会い拾うのを手伝ったその時に、気絶させられ誘拐されてしまったフィニー。気が続くとどこかの地下室に監禁されており、汚い壁には一台の黒電話がかかっていた ─
感想と見どころ
原作はスティーヴン・キングの息子ジョー・ヒル。彼の原作を元にスコット・デリクソン監督の出身地デンバーの1970年代の風景を重ね合わせて作られたという本作。
舞台となった1978年と言えばベトナム戦争終結(アメリカ軍撤退)からまだ5年ほど。本作冒頭ではフィニーとグウェンの父親テレンスが大きな物音に怯えては子どもたちに辛く当たるシーンや、おそらく復員軍人が多く働いているだろう核施設で彼も仕事していることがちらっと紹介される。
戦争で心に傷を負った男たち、夫が戦争に行っている間の留守を守った女たち。それらを見て育っている子どもたち。1970年代のアメリカ。コロラド州の小さな町。母親を亡くしたフィニーとグウェンは、それでも父親を理解しようと努力し、どちらかというと彼らが大人の父の面倒を見て守っていさえする、そんな時代。なんとか立ち直って行こうとしているそんな時に、この町では少年を狙った連続誘拐事件が起きていた。
忽然といなくなる少年。犯人からはなんの連絡も入らず、遺体も見つからない。
本作のこの一連の犯行は実際の連続殺人鬼ジョン・ゲイシーをモデルにしている。ピエロ装束が自慢だったゲイシーが“キラー・クラウン”と呼ばれたように、本作の連続誘拐犯も“グラバー”と名付けられニュースで報道される。
当然、学校では子どもたちに気を付けるようにとの話はあるが、まだのんびりした時代なのか今とは違って全く危機意識が薄く、親が学校の送り迎えをしている様子もない。
ジョン・ゲイシー
アメリカ合衆国のシリアルキラー、死刑囚。平時は子供たちを楽しませるため、パーティなどでピエロに扮することが多かったことからキラー・クラウン(killer clown、殺人道化、殺人ピエロ)の異名を持つ。
Wikipedia:ジョン・ゲイシー
少年時代にボーイスカウト活動をしていたことがあり資産家の名士でチャリティー活動にも熱心だったため、模範的市民だと思われていたが、アルバイト料の支払いなどの名目で呼び寄せた少年に性的暴行を加えたうえで殺害し、その遺体を自宅地下および近くの川に遺棄していた。
黒いバンを乗り付け、黒装束に黒い風船で昼日中に少年を誘拐する。5人誘拐されてもまだ捕まえられない警察をあざ笑うかのように6人目フィニーを誘拐。いや実際、あざ笑ってさえいないかもしれない。こういった犯罪者は自分の行動(犯行)は自分にとって必要であるのだから、例えば息を吸うように何も考えず自然に行ってしまえるのだ。あまりに自然過ぎてかえって目立たないのだろうか?
けれど今回の『ブラック・フォン』の主人公は犯人では無い。だから彼の犯行や警察の体たらくにちょっと違和感を感じたとしてもそこは置いといて、あくまでも子どもたちを中心に観ていきたいと思う。イーサン・ホークだから、きっと最後に何かあるに違いない、きっと彼なりの事情や何かがあるに違いない、最後には改心するみたいな何かが ─
ありません!
全くありません(-ω-)/!!
見事なまでの少年を狙った連続殺人鬼。
目的は分からない。だって彼を理解することが本作の目的じゃないから。とにかく彼は少年を攫ってはいたぶり殺してた。ただそれだけ。それでもそうなった原因は何かあるのかと考えた時、しいて言うなら彼の行動様式を見るに、父親もしくは母親、もしくは育ての親から同じように問題を起こした時に折檻され、地獄のような痛みを感じる少年時代を過ごしたのだろうかということ。もちろん“問題”とは大人にとって都合の悪いことに過ぎず、何かにつれキレられては折檻されていたのだろうか ─。
ラスト近くを観ながらイーサンのためにこんなことを考えてはみたけれど。
何度も着信ベルが鳴る黒電話。恐る恐るフィニーが受話器をとると話し出す。
「黒電話」というタイトルにイーサンが関係ないとすれば、このお話はどうなっていくのだろうか?と思い始めた頃には割と普通なオカルトホラーに。それでも主人公たちが子どもたちだから決して恐ろし気なものではなく気持ちよく観ていける。悪い奴やちょい悪な少年であっても何か一直線なものの考え方が清々しく分かりやすい。
けれど誘拐された少年がどうなっているのかは一応いまのところまだ分からない。(イーサンだから)そんなことがあるはずない(-“-)って思いながら観てくものだから、純粋にオカルトを楽しめなかったかもしれないなぁ。それでもフィニーと妹グウェンの頑張りに、つい彼らの味方になって力が入る。そしてその間も色々な環境にある少年を紹介することを忘れない物語でもある。この辺は御父上のキングっぽいな、と思った。
そしてラスト。
サスペンス性も入れ込みながらのラストは、そのままの流れで子どもたち中心だったと言っておこう。彼らがこれからのアメリカを背負っていくのだから、と。
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