「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」前日譚である本作『ソプラノズ ニューアークに舞い降りたマフィアたち』に、故ジェームズ・ガンドルフィーニの実の息子であるマイケルが若き日のトニーの役で出演されると知って、観ることができるこの日をどれだけ待ちわびたことか…(:_;) ドラマを観ていたなら、リアルな役者さんたちと、目の前で起こっているかのような演出に間違いなく感動することでしょう。
■ ソプラノズ ニューアークに舞い降りたマフィアたち
– The Many Saints of Newark – ■
2021年/アメリカ/120分
監督:アラン・テイラー
脚本:デヴィッド・チェイス 他
製作:ローレンス・コナー 他
製作総指揮:マイケル・ディスコ 他
撮影:クレイマー・モーゲンソー
出演:
アレッサンドロ・ニボラ(ディッキー・モルティサンティ)
レスリー・オドム・Jr(ハロルド・マクブレイヤー)
ジョン・バーンサル(ジョニー・ソプラノ)
コリー・ストール(ジュニア・ソプラノ)
べラ・ファーミガ(リヴィア・ソプラノ)
マイケル・ガンドルフィーニ(トニー・ソプラノ)
レイ・リオッタ(‟ハリウッド・ディック” モルティサンティ/サルバトーレ‟サリー” モルティサンティ)
■解説:
本作はアメリカ公開時にR指定となるほど、バイオレンスでリアルなマフィア描写を徹底的に追求。マフィアの抗争が激化する時代に、父との確執、女性との関係、仲間の裏切に悩み葛藤する主人公ディッキーと、その周りで複雑に絡み合う人間ドラマが過激且つ華麗に描かれる。公式
そして、毎週楽しみにテレビの前で待っていたドラマを放送していた当時を思い出す ─
本作はトニー・ソプラノの若かりし日の物語というよりは、彼にマフィアとして多大な影響を与えた“ディッキー・モルティサンティ”の物語が軸。
ん?“モルティサンティ”?と思ったでしょ。そうです、このディッキーは、あのクリス・モルティサンティの父親にあたる人。で、本作『ソプラノズ ニューアークに舞い降りたマフィアたち』はクリスの語りで進められていきます。たっぷりとトニーへの恨みを合間合間に挟みながらね(‘ω’)
亡くなってもまだ、うんちくと屁理屈が好きなの、クリスは。
Contents
■あらすじ
1960年代のニュージャージー州ニューアーク。
多大な力を持つマフィアのボス ‟ハリウッド・ディック” モルティサンティ を父に持つディッキーは父親に頭が上がらず、日々忸怩たる思いを胸に裏家業にいそしんでいた。そんなある日、父親がイタリアから連れ帰った新しい愛人に暴力をふるったことを知ったディッキーは、母親や自分たちにも日々行われてきた父親の暴力の記憶に耐えかね、思い余って父親を殺してしまう。ニューアークで起き始めた黒人の暴動に重ねてうまく処理したディッキーは、その後、父の家業を継ぐ立場になる。
ディッキーの仲間でマフィアの父親ジョニー・ソプラノとはあまりそりが合わず、幼い頃からディッキーを父のように慕っていたトニー・ソプラノ。元々IQが高く、小学生の頃から賭博まがいのことをやっては学校から問題児とされていたトニー。そんなトニーはディッキーの毎日を見つつ良くも悪くも多大な影響を受けながら大学生になろうとしていた ─
■見どころと感想
ニューヨークを中心にしたいくつものマフィア組織の抗争と、ニューアークで起きた黒人の暴動を背景に、地元に密着した毎日を送るマフィアであるディッキー・モルティサンティ。トニー・ソプラノは彼を叔父と呼ぶが、実際は高校の同級生である恋人カーメラ(後に結婚)の年の離れた従兄弟にあたる。
イタリアのマフィアは家族の絆が強い。そんな彼らが儀式を通して一つのファミリーとなったからには皆、血縁を超えた家族扱いということだろうか。
トニーの父親ジョニーはちょうどトニーが思春期に差し掛かる頃に刑務所に入ることになってしまって、父子の関係がいまいちうまくいっていない。そのうえ、すぐに頭に血が上る母親リヴィアとは、なかなか話し合うことが出来ない。だからトニーは遊びに連れて行ってくれて、なんでも親身になってくれるディッキーを慕っていた。
そのディッキーが父親‟ハリウッド・ディック”の後を継ぎ、仲間と共にマフィアとしての力を付けていく様子、金の使い方、車の運転、話し方、動作、個人的な女の扱い等々。それらを、まるで自分の父親のようにじっと見てきたトニーが、知らない間にディッキーに影響を受けるのも仕方のないことだ。
「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」にトニーの二の腕や子分として出てくるシルヴィオ、ポーリー、ビッグ・プッシー。かつての若かりし彼らも本作にディッキーの仲間として登場するのだが、観察力のあるシルヴィオはまだ子どものトニー・ソプラノがディッキーを慕っている様子や、案外、マフィアに向いていることなどをディッキーに告げているシーンがある。
シルヴィオがトニーのことを心配して「あの子」と言っているのが、とても情がある優しさを醸し出していて、後にトニーが一番信頼をおいていた理由がよく分かる。
ここまで登場人物が名前と共に出揃ったところで、本当にね、どう思います?この若かりし頃の彼ら(*’ω’*) 当然、画像は静止しているのですが、それぞれ出てますよね、その後の彼らの片鱗が。トニーは実の息子さんというのもあるのでしょうが、それでも表情やしぐさ、動きなんかが全くの“トニー”で、特に何かを考えこんでいる時の表情がすごく上手い。それは高校生のトニーだけじゃなくて、小学生時代のトニー(William Ludwig/子役さん)も上手いわ、似てるわでほんとに感動した。
他にもギャング物映画ときたらのレイ・リオッタ、『死霊館』のべラ・ファーミガが出演しているけれど、化粧?なんかで元々の顔の感じを変えていて、レイ・リオッタは最初誰か分かんなくて新しいマフィア役の人かと思ったし、ベラ・ファーミガはいつもの優し気な感じが全くなくて、リヴィアのつっけんどんで愛想の無い憎らしい感じがそっくり。
他にも笑わせてくれたのがシルヴィオとポーリー。人って年をとってもあんまり変わらないものだなって、改めて思わせてくれたのがこの二人。特にシルヴィオは苦み走ったところや実は優しい性格というのがそのままで、憎めない彼らが登場するととても懐かしく「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」を思い出させる。
そんな彼らは死んでいる、生きているに関わらず、その後のトニー・ソプラノを大いに悩ませるが、それは例えこの作品がマフィアものだとしても、構成する者は人間で一人一人が考え、悩み、自己中心に走り、自己保身に溺れる。それを纏めていかなくてはならないボスの苦しみを描いているからこそ共感を呼び、ファンの多い特別なドラマになったんだろう。
とは言え、下 の記事でも書いているけれど、トニー・ソプラノの物語はドラマ、映画両方ともに本物のマフィアも感嘆するほどのリアルなマフィア稼業が描かれている、ということだ。だからこそ、その白と黒の対比みたいなお話と、音楽と共に盛り上げドラマチックには描かれない淡々とした演出が、飽きられることなく愛され続けている理由なのかもしれない。
その親父 ‘ジェームズ・ガンドルフィーニ’
このふてぶてしく、有無を言わさない風体から、マフィアのボスとか殺し屋とか。かと思えば同僚を思いやる気のいい刑事の相棒とか。この大きな身体を使って多彩な役柄を演じ分けたジェームズ・ガンドルフィーニ。
クリストファー・モルティサンティ
本作でのクリスは、まだ生まれたばかり。正妻とは子どもを持てないと知ったディッキーが愛人に産ませた初めての男の子。
その後すぐに実の母は亡くなり、父親もあっという間に…。育ててくれたのはディッキーの正妻ジョーンなのかな。生まれた時からトニーはクリスを可愛がろうとしていたが、何故か、トニーが近づくとクリスが泣き出す。ここで「この子には何か見えないものが見えているのかしらね」とかいうお祖母ちゃんのセリフが。これが何を言わんとしいるのかは、ドラマを観たことがあれば一目瞭然。ま、本作でも語りのクリスがさんざん厭味ったらしく言っているからわかるんだけど(-.-)
マフィアとラストの意味
色々あって、これからっていう時に因果応報なラストが待っているマフィアの実情に詳しい本作。
イタリアン・マフィアがその権勢を誇っていたのは1970年代半ばまで。本作内でも語られるRICO法(組織犯罪対策法)によりマフィアは徹底的にFBIに追われ、1980年代から1990年代に組織の体制はほぼ壊滅状態になった。
アル・カポネが暗躍していた時代は1920年代。エリオット・ネスのチームに脱税で追い詰められ収監されたのが1931年。映画『ゴッドファーザー』が公開されたのは1972年。詳しくは知らなくてもどちらの名前も知っている人が多いはず。
カポネは実在の人物だけど、映画『ゴッドファーザー』は創作された物というのもあるが、彼らイタリアン・マフィアの非情でありながらも家族やファミリーを思いやる考え方、「未来ある子どもたちを台無しにしてしまう麻薬には決して手を出さない」という確固たる経営方針がある上での、裏切り、家族間の軋轢などが観る者の心に訴えかけてくるものがある。一般人とは決して交じり合わないとしても、一本太くしっかり筋の通った部分に惹かれるものがある。
だからもう何度も観ている管理人。特に一作目を。
マフィアが徐々に衰退していくのに入れ替わり力を持ち始めるのは、麻薬売買に関わるギャングと呼ばれる組織。本作でも最初はディッキーに顎で使われ内心ムカついていた黒人のハロルドが段々と力を持ち始めていく。力を持つという事は、縄張りを持ち金を持つということ。麻薬が関われば金が金を生む。
そんな時代にファミリーを引き継ぐことになったトニー・ソプラノ。昔の美味しい時代を知っている子分を引き連れ、経営していくのはさぞ大変だったことだろう。けれども過去のモルティサンティ・ファミリーも現在のソプラノ・ファミリーも決して麻薬には手を出さなかった。ゴッドファーザーと同じく、ここも気に入っている点の一つだ。
そして、ラストにあの名曲が流れる。ソプラノ・ファミリーへと続く名曲が。
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