『ヘレディタリー/継承』に続くアスター監督第2作『ミッドサマー ディレクターズカット版』。継承されていくものという考え方では1作目と同じ。ただし今度はもう少し大きく広く、北欧スウェーデンの片隅にある隔絶された村で受け継がれていくカルト宗教について描かれる。またしても“ホントにあるのかも…(-.-)”とつい考えてしまうお話だ…
■ ミッドサマー ディレクターズカット版
– Midsommar: The Director’s Cut – ■
2019年/アメリカ・スウェーデン/170分
監督:アリ・アスター
脚本:アリ・アスター
製作:ラース・クヌーセン他
製作総指揮:フレドリク・ハイニヒ他
撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ
音楽:ボビー・クーリック
出演:
フローレンス・ピュー(ダニー)
ジャック・レイナー(クリスチャン)
ウィリアム・ジャクソン・ハーパー(ジョシュ)
ヴィルヘルム・ブロングレン(ペレ)
ウィル・ポールター(マーク)
■解説:
長編初監督作「ヘレディタリー 継承」で高い評価と注目を集めたアリ・アスター監督の第2作で、スウェーデンの奥地を舞台に描いた異色スリラー「ミッドサマー」のディレクターズカット版。オリジナルの劇場公開版ではカットされた未公開シーンを追加し、上映時間は2時間50分に。日本における映倫区分はR18+(18歳以上が鑑賞可)となった。
■あらすじ:
事故で家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人とともに、スウェーデンの奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」に参加するため、現地を訪れる。太陽が沈むことがないその村には美しい花々が咲き、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園のような場所だった。しかし、そんな村にやがて不穏な空気が漂い始め ─映画.com
Midsommar : 夏至
二十四節気の第10。北半球ではこの日が一年のうちで最も昼(日の出から日没まで)の時間が長い。南半球では、北半球の夏至の日に最も昼の時間が短くなる。北半球では、性欲をかきたてる日とされており、スウェーデンの民俗学者によると、夏至を祝うミッドサマーの祝日から9ヶ月後に生まれる子供が多いという。(Wikipedia)
人里離れたスウェーデンの小さな村、それも代々受け継がれてきたカルト宗教を崇拝する村で行われる夏至祭に招待されたアメリカの大学生の恐怖の体験物語。その村出身の大学院生が友人たちを連れて故郷に戻るという設定が、最近観たNetflixホラー『クラシック・ホラー・ストーリー』を思い出させる(というか、本作『ミッドサマー』が先なんですけどね)。
『クラシック・ホラー・ストーリー』 (2021)〜始まりはいつもヤギ
Netflixで配信されているミックス型ホラー、その名も『クラシック・ホラー・ストーリー』。ヤギで事故ってサイレンがなる頃、あなたの脳はフル回転になる。
訪れたことのない異国情緒あふれる場所への旅というものは、人の目を曇らせる力があるもの。普通なら少し引いて考えて危険を察知するところが、その地に馴染もうとするあまり「郷に入っては郷に従え」を悪い意味でとらえてしまう。今回の学生たちも普通の院生で、卒業を控え論文を書くために、または環境を変えてアイデアを絞り出すために、または不幸な事故を忘れるために、村出身の友人と旅行に来たにすぎなかった。のに・・・
Contents
ヘルシングランド地方 ホルガ
スウェーデンからの留学生ペレの故郷。村というよりもコミューンと呼んだ方がいいくらいの小さな集落。その年は90年に一度の夏至祭が開催されるという事で珍しい儀式もあるからと、ペレは友人たちを招待した。アメリカの学生であるクリスチャン、ジョシュ、マークとクリスチャンの恋人ダニー。男性陣は人類学を学んでおり研究を兼ねて、ダニーは両親と妹を一度に亡くしたことによる傷心を癒やしに。
森の中の開けた場所にいくつかの建物と祭壇のようなものがあるだけの場所。若者たちは一つの建物で眠りプライベートは無いが、それは来訪者も同じで、地元の若者らと寝食を共にする。微笑の絶えないホルガの人々。特にこの夏至の季節は白い衣装に身を包み、花冠を被り、見たことのない祭りの儀式の準備が整えられていく。それはまるで草原や花畑に広がる天国のようで、悪いことなど何も起きない、心地いい事だけが続いていくような錯覚にとらわれる。
だがそれは、幻覚剤の力も影響していたのかもしれない。
ダニー
元々、精神的に不安定でパニック発作を起こしがちな彼女は、恋人クリスチャンに支えられてきたものの、家族を一度に亡くしたことでますます状態が悪くなってしまった。悪夢や幻聴に苦しめられ、被害妄想が激しくなり、なだめるクリスチャンもだんだんと手に負えなくなってくる。
クリスチャンの友人ジョシュやマークは、クリスチャンのことを思い早く別れることを勧めていたところだった。スウェーデン旅行も切り出せないまま、男だけで旅するつもりだったのが、ダニーとの喧嘩ごしのやり取りの中でつい口が滑り、友人たちが反対する中、ダニーも一緒に行くことに。だが優し気なペレはダニーを連れて行くことに賛成だった。
ホルガに到着してからのダニーは、皆と合わせて面倒を起こさないように気を付けてはいたが、時々起きるパニック発作は収まらない。クリスチャンは気遣いをみせるものの、卒業論文のことでジョシュともめたこともあり、だんだんとダニーよりもこの村の風習や儀式の事に時間を割くように。彼がホルガに入れ込んでいくのと反対に、落ち着きを取り戻していくダニー。そんな中、彼女は夏至祭の女王に選ばれる。
儀式
アメリカの学生たちがこの世の天国かと思い始めていた矢先、ホルガの儀式「アッテストゥパン」が執り行われる。
アッテストゥパン
ホルガでは人の人生を4つに区分している。
- 春 ~18歳
- 夏 ~36歳
- 秋 ~54歳
- 冬 ~72歳
72歳になったらどうするのか?
それは、この「アッテストゥパン」という儀式で、高い岩壁から飛び降りて自らの命を神に捧げる。なのでホルガには73歳以上の人はいない。
この儀式さえもアメリカの学生に見せたホルガの長老。もちろん、ただでは済まない。
メイクイーン
「メイポール」は実際にスウェーデンの夏至祭で使われる白樺のポールで、自然の草花で飾り付けられて会場の中心に立てられる。
準備が整うと農作物の収穫や子孫の繁栄を願って、民族衣装をまとった大人や子どもたちのダンスが始まる。ダンスの後はパーティ会場でご馳走が待っているという流れ。
本作では若い女性が輪になって踊り続け、最後に残った者がその年の女王に選ばれ、豊穣を願った儀式に繋がっていくとされていた。
性の儀式
女性は長老から許しが出て初めて性体験をすることが出来る。目的は子孫繁栄のため。
相手は村の男性の場合もあるが、血が濃くならないように外部から招くなどしてコントロールされている。これにも儀式性があり、まず女性が気に入った男性の食べ物や飲み物に自分の身体の一部を入れて食べさせる。そして男性に薬を盛り朦朧となったところで儀式会場に誘い込み(その言葉通り)、母親や先輩の女性たちが見守る中、子種を宿す儀式が行われる。
ロマンチックさなど全くなく、ただただこの村の繁栄のためだけにある儀式。これはタペストリーに織り込まれ、ダニーたちがホルガを訪れた最初の頃に見ることができる。他にも若者が眠る建物の壁に広がる独特の壁画には、これでもかというほど儀式について描かれているのだ。
そうなのだ。ホルガは秘密の儀式など全く秘密にしていない。まるで太古の人類が洞窟の壁に日々の生活を描いて残したように、見る人が「見る目」できちんと見ればわかるようになっている。それを女性たちの美しさや村人たちの微笑に騙され、うっかり「事実」として見なかった人類学を学ぶ学生たちは、語りかけてくるものを見過ごした。それがラストに繋がっていく。
ことの終わり
9日間にわたった90年に一度のこの大祝典を終わらせるための準備は整った。9人の生贄、子孫繁栄の儀式、メイクイーンの誕生。学生たちはそれらの一つになったに過ぎない。
炎よ、これまで
熱することなく、燃えることなく
聖霊よ、かえれ
メイクイーンであるダニーは9人目の生贄を選ぶ権利を与えられた。それは村人か恋人のクリスチャンか。彼女が恋人を生贄に選んだのは、彼の儀式を見てしまったからなのか、今までの煮え切らない自分への態度の復讐なのか、、。
旅の前、クリスチャンはダニーと別れようとしていた。だが、ダニーも分かっていたのだ。彼が自分のためにはならないことを。
煮え切らない態度の二人に起きたこの旅の一連の出来事が、最後にダニーを決心させたのか。
それとも、ただ、薬で朦朧としていただけなのか。
それよりもこの村の祭りの中で時々表現された「共感」する人々の様子。
長老の話に、悲しむ人に、痛がる人に。その人の叫びを真似ることで、決してふざけるのではなく「共感する」という、ある種儀式めいた行動。これは、絶対的に村の掟に背いてはならないという忠誠の誓いだ。どんなことも、痛みも苦しみも悲しみも喜びも全て分かち合い、離さない、離れない。
ダニーもその流れに沿っただけであり、アメリカの恋人という過去を捨て去ったに過ぎないのか。
半分、夢の中で生きていたようなダニーは、案外この村で生き残ることができるかもしれない。外部からの女性は村にとっても貴重なはずだ。子孫を残す意味で ─
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