頭にチタンを埋め込んだ少女が車とどうのこうの、というあらすじからてっきりクローネンバーグ風の変わった作品なんだろうと観始めたのだが。─ これはクローネンバーグにフランス風サイコ、悪魔の赤ちゃんまでもを一つにまとめた、ある女性の奇抜な人生をファンタジーで描ききった物語だった。
■ TITANE/チタン – Titane – ■
2021年/フランス・ベルギー/108分
監督:ジュリア・デュクルノー
脚本:ジュリア・デュクルノー
製作:ジャン=クリストフ・レイモンド
撮影:ルーベン・インペンス
音楽:ジム・ウィリアムズ
出演:
ヴァンサン・ランドン(ヴァンサン)
アガト・ルセル(アレクシア、アドリアン)
ギャランス・マリリエ(ジュスティーヌ )
ライス・サラーマ(ライアン)
ベルトラン・ボネロ(アレクシアの父親)
■解説:
「RAW 少女のめざめ」で鮮烈なデビューを飾ったフランスのジュリア・デュクルノー監督の長編第2作。頭にチタンを埋め込まれた主人公がたどる数奇な運命を描き、2021年・第74回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた。映画.com
Contents
あらすじ
父の運転する車が事故を起こして頭部にチタンプレートを埋め込むことになった反抗的な少女アレクシア。それからというもの自動車に異常に執着するようになり、成長するにつれ車相手に性的な妄想まで起こすようになる。大人になっても変わらないままの彼女は犯罪を犯して家を飛び出し、自分の指名手配写真をかわすために髪を切って男性になりすますが ─
全ての人にはおすすめできない
見どころと感想(少しネタバレ)
最初にファンタジーと書いたが、もちろんダーク系の大人向けファンタジー。それもかなり人を選ぶタイプのバイオレンス作品。
本作は、クローネンバーグ ※で始まりながらサイコなバイオレンスホラーに途中で転換。これはいったい(・・?と考える間もなく親子のちょっと怪しい愛情からの最近観た『LAMB/ラム』、悪魔の赤ちゃん風ラストまで、息をもつがせぬ怒涛の展開でかけぬけていく物語。そのうえエンディングロールになっても全くこちらを安心させてくれず、この先に続く彼らの物語を“ぅへぇー(-“-)”ってなりながらちょっと想像しなくてはならないというおまけ付き。私の場合、5秒ほど考えて思考を停止させましたが。
彼らの世界は別にある『LAMB/ラム』 (2021)
お気に入りの製作・配給会社A24で本作についての告知を初めて見た時から、公開をとっても楽しみにしていた映画『LAMB/ラム』。久しぶりに劇場で鑑賞して感じたのはA24…
とにかく、いつも人に挑みかかるような可愛げのない表情のアレクシアが自動車に対してだけは全身全霊で愛情表現する異様さに物語は始まるが、その説明は一切無い。一切無し。全く無し。
だいたい以前から彼女は車のモーター音に同調して乗車中ずっとうなるものだから、運転中の父親が苛立って起きた事故だった。だがその父親も大きなケガをした娘に対して冷たい、何か異常な物体を遠くから見ているだけの様子で父子関係は幼い頃からかなり冷え込んでいる。
が、アレクシアが人との触れ合いを拒んでいたのかというとそれも違っていた。けれど成長してそれを求めるようになったところで、彼女には遅すぎた。散々罪の無い者を惨殺して憂さを晴らした。だが遅すぎた。というのも彼女は妊娠していた。妊娠してしまっていた。ここまでにアレクシアの奇々怪々な行動が様々描写されている。だがそれは全て妄想とそれによる奇抜な行動だと思って観ていたのだが、どうやら違っていたらしい。
ここでお腹の子の父親は書かないでおこう。けれど、きっと、あなたが今、想像した通りの相手とだけ書いておく。
このありえない現実によってこの物語はここからファンタジーとなっていく。主役はアレクシア。彼女は自分の犯した罪から逃げるため男の子に変装し、子を失くした見知らぬ父親の元で暮らすことになる。ファンタジーだから全てうまくいくし、真実を知られたとしても関係ない。失くしたものを再び手に入れることが出来た父親と、どうやっても手に入れられなかったものを手にした子が割と純粋な愛情で結ばれていく。
大きなお腹をいくら頑張ってさらしで巻いても隠すなんて無理やろ?なんてのも関係ない。出血の代わりに黒いオイルが漏れ出るのもファンタジーだから当たり前。だって彼女の恋人は自動車なんだから。その恋人と会えなくなっても変わりのモノを手に入れた。そしてまるで白雪姫のように、よくあるおとぎ話のように物語は結末に進んで行く。もちろんハッピーエンドで。冷酷な殺人鬼はある父親に大事なものを残してこの世を去ることになったが、残された彼らは幸せに暮らしていくだろう。
─ 何故かはわからないけれど
ところで、この記事で頻繁に出てくるワード“クローネンバーグ”とは映画監督デヴィッド・クローネンバーグ氏のことです。
デヴィッド・クローネンバーグ
カナダの映画監督、脚本家。独特のボディ・ホラーで有名。数多くの個性的な作品を世に送り出し、また俳優としても活躍。自作数本とテレビシリーズ『エイリアス』シーズン3、『誘う女』、『ジェイソンX』など、20作品近い出演作品がある。
Wikipedia
■主な作品
- シーバース/人喰い生物の島(1975)
- ラビッド Rabid (1977)
- ファイヤーボール(1979)
- ザ・ブルード/怒りのメタファー(1979)
- スキャナーズ(1981)
- ヴィデオドローム(1983)
- デッドゾーン(1983)
- ザ・フライ(1986)
- 戦慄の絆(1988)
- 裸のランチ(1991)
- エム・バタフライ(1993)
- クラッシュ(1996)
- イグジステンズ(1999)
- スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする(2002)
- ヒストリー・オブ・バイオレンス(2005)
- イースタン・プロミス(2007)
- 危険なメソッド(2011)
- コズモポリス(2012)
- マップ・トゥ・ザ・スターズ(2014)
- Crimes of The Future (2022)
有名な作品からある一部のマニア向け作品まで色々ある中、1996年の『クラッシュ』に注目。この『クラッシュ』こそが、本作『TITANE/チタン』のベースになっているのでは!?(‘Д’)と勝手に思っている重要な作品だ。詳細は以下で
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