犯罪現場清掃や“しっぽ”に騙されてはいけない。決して怖い場面や、派手な何かが起きるのではない。しっぽを持つ女性を見つけた2人の、とても穏やかで人間性あふれる態度にどこまで共感できるか。この2人は、他の動物と違って言葉を持つことになった「ヒト」とは何であるかを教えてくれる。毎日スリルとドッキリを感じたくてホラーばかり観ている者に(私です テヘッ)
■テール しっぽのある美女 – Thale -■

2012年/ノルウェー/75分
監督:アレクサンデル・ノダース
脚本:アレクサンデル・ノダース
製作総指揮:トーレ・フレデリック・ドライエ
出演:
モルテン・アンドレセン
アーレン・ネルボル
シリェ・ライノモ
ヨン・シーヴェ・スカルド
■解説:
美女の容姿に牛のしっぽを持ち、美しい歌声で男たちを誘惑するという北欧に伝わる恐ろしき妖精“フルドラ”伝説をモチーフにしたノルウェー製ホラー・ファンタジー。 (allcinema)
■あらすじ:
犯罪現場の清掃を請け負うレオとエルヴィス。そんな毎日のある日、ある現場で隠された小部屋にいた全裸の女性を見つける。彼女が監禁されていたであろう部屋には、医療関係と思われる資料が散乱し、冷蔵庫には切り取られた“しっぽ”が。残されていたテープレコーダを聞くうち、彼女は生まれてすぐからここで1人の男に育てられたことと、何者かに追われていることが判明するが-
その日の遺体はいつにもまして酷く、動物に食い荒らされバラバラになっていた。いつまでも慣れないエルヴィスは外で吐くばかりでレオは1人で作業を進めている。それでも声を荒げもせず黙々と仕事をするレオ。
今回の現場は森の中の一軒家。1人住まいだったようだ。あちこちにバラバラになっているだろう遺体の欠片を探して家の中を回っていると、隠されたようにあった地下室へのドアを見つけた2人。「あまり触るなよ」と言うレオの声を聞きながらエルヴィスが中に入って行く。そこは食品庫のようで、開いた古い缶詰が散乱していた。そしてもう一つ奥へと続くドアが。その中は、研究室のような実験室のような小さな部屋になっており、医療関係と思われる資料が所狭しと置かれていた。
2人が顔を見合わせていると、部屋の真ん中に置かれていたバスタブのミルク色の液体の中から、いきなり女性が現れた。2人は驚くが、全裸だった彼女に優しく声をかけ服を渡し、レオは雇い主への連絡のために上へ上がっていった。
「犯罪現場の清掃」というちょっとイロモノ的な仕事とは裏腹に、穏やかな男性2人。知り合って長いだろうに、あまりお互いのことを知らない。かといって他人行儀なのではなく、お互い気遣い仕事を進めているのが分かる。そのあたりが、わぁわぁと意味も無い話で騒ぎ立て、いざとなったら友達とは言いがたい行動を取る、ありがちな「仲間」ではないところがいい。
そして密室に監禁されていたであろう女性を見つけても、ことさらに騒ぎ立てず、必要なことを手順よく進めるのも好感が持てる。
この後、エルヴィスは「何も触るなよ」と言うレオの言葉を聞きながら、どうしても好奇心を抑えることが出来ず、テープレコーダーのボタンを押してしまう。そこから流れてきたのは、この女性を監禁していたであろう死んだ男性の声だった。それはこの女性が小さな頃から今までの全ての記録で、男性が監禁していたというよりも、何かから守りながら大事に育ててきたことをうかがえるものだった。この女性を娘のように愛してしまった男性は、もう手放せないとも言っている。そしてそのテープには、どうしても必要だからと行われた手術の様子も入っていた。

その手術内容とは、女性からあるものを切り取ること。これを切り取ることで女性の仲間から見つからないようになると言う。そのあるものとは。
レオとエルヴィスは思わず後ろにあった冷蔵庫を見る。さっき見た時には何か分からなかったが今なら分かる。
それは“しっぽ”だった。
ここまできて、突然家の周りが騒がしくなってきた。
ドアをガンガンたたく音も聞こえてきた。2人は女性を守るため、中から鍵をかけ立てこもろうとしたが、ドアの鍵穴から何かが部屋に流されて、2人は倒れて気を失ってしまう。そして次に気がついた時には、森で椅子に括り付けられていたのだった-
ダークなファンタジーホラーと期待して観ると、ちょっと違う本作。
本作はあくまでもこの清掃人の2人を中心に、“しっぽ”は添え物くらいで観るのがちょうどいい。でもこの“しっぽ”の女性が存在したからこそ、困難に立ち向かい、決して人間性を失わず、お互いの信頼をより強固に出来たと言える2人。
そういった意味ではこの女性は本当の妖精だったのかもしれない。妖精は可愛らしく愛らしいのと同時に恐るべき裏の顔があると言うしね。
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