これって「美女と野獣(・・?」と思っていたら、そうだった。と言ってもベースがそうであるというだけで物語の方向性は途中から違っていく。ディズニープリンセス物を観る時もそうであるように、本作も心を空にした綺麗な気持ち、純粋な子ども時代の心で、細かいことは放っておきつつ観ていくように(‘Д’)
■ 竜とそばかすの姫 – Belle – ■
2021年/日本/121分
監督:細田 守
脚本:細田 守
原作:細田 守
撮影:李周美 他
主題歌:「U」
millennium parade × Belle(中村佳穂)
出演:
中村佳穂(すず/ベル)
成田 凌(しのぶくん)
染谷将太(カミシン)
玉城ティナ(ルカちゃん)
幾田りら(ヒロちゃん)
森川智之(ジャスティン)
役所広司(すずの父 )
石黒 賢(けい、ともの父)
佐藤 健(けい/竜)
■解説:
「サマーウォーズ」「未来のミライ」の細田守監督が、超巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に少女の成長を描いたオリジナル長編アニメーション。主人公すず/ベル役はシンガーソングライターとして活動する中村佳穂が務め、劇中歌の歌唱や一部作詞等も務めた。ベルのデザインを「アナと雪の女王」のジン・キムが担当するなど、海外のクリエイターも参加している。映画.com
高知県の小さな町。幼い頃に(彼女にとっては理不尽な理由で)母を亡くし、ずっと内にこもったまま父親を遠ざけ、大好きな歌さえ歌えなくなった高校生すずが主人公。今の時代、どんな不便なところに住んでいようとインターネットが繋がりさえすれば世界と繋がることが瞬時にできる。それを使ってすずの唯一の親友が彼女にすすめた50億もの人が利用しているといわれている超巨大仮想空間〔U〕(ユー)。
そこではスキャンした生体情報から自動生成でアバター〔As〕(アズ)が作られ、仮想空間の世界〔U〕で「もう一人の自分」になって「新しい人生を生きる」ことが出来る。
このような仮想空間は映画作品なんかではあまりいいように描かれないことが多い。確かに本作でも、不公平の無い夢のある仮想空間でありながら、見かけない新参者には手厳しく、一方的な視点からの好き勝手な多くのつぶやきが広まる様子を見せてくれている。
が、その反面、大勢の人々が一つ所に集まり、感動を共有できるといういい面も見せてくれる。特に外出制限がかかっているような今の時期、人との対面での繋がりに制限がかかっている今の時期には、例えアバター〔As〕を使ったうえでの集まりだとしても、皆が同じ方向を見て感動するという機会はとても貴重だ。
高知の片田舎と超巨大仮想空間。
亡くなった母への呪縛から解けないでいる女子高生と、仮想空間で自由に歌うそばかす姫。
この対比も現代ならではなんだけど、今回、自由に歌うベルの目に留まったのが〔U〕の反逆者として忌み嫌われ謎に包まれた存在の竜。背中一面に傷を負ったマントを翻す孤独な竜。人々は竜の正体に興味津々であるが、ベルは彼に何故か惹かれる。彼の何かがベルのオリジンであるすずに共鳴する。
生体情報から自動生成されるAsだからこそ、背中にある傷が痛々しい。人々はそれは背中一面のタトゥだ、なんだと噂する。
竜にとってのこの傷は、彼にとっての勲章であり、一番大事なものを守るために必要なものだった。この傷は大事なものを守っている証拠なのだ。この傷があることで、この傷が増えることで大事なものは元の姿のまま守られる。
竜にとっての生きる意味は、傷が増えることのみ。言い換えれば心の支えでもあった。
そこに現れた仮想空間の歌姫ベル。彼女は粗野で孤独な黒い竜の眼差しに純粋さを見て取り、なぜ傷だらけなのかを心配する。ベルの気持ちが竜に届くのかは、傷だらけの竜ではなく、行動を起こしたベルしだい。〔U〕で変わった高校生すずしだいなのだ。
ここまで、まるで『美女と野獣』のように進んできた物語は、仮想空間から一挙に現実へ。自由に歌えた〔U〕でのベルから痛みを伴う現実の女子高生すずに。ここからは彼女が考え、決断したことをいかに成し遂げるかの案外ダークな現実物語になっていく。
でも変わっていくのはすずだけじゃない。
見守ることを自身に課していたしのぶくんやヒロちゃんはそこから解放されほんとの意味ですずの友人に。ルカちゃんへの誤解も解ける。
それより何よりも傷らだけのマントからようやく解放される竜。
ここでベルの歌が流れる頃、もう何故だか理由は分からないけれど涙があふれてくる。仮想世界〔U〕の住民たちと感動を共有できている自分に気が付く。ここまでの一部強引な脚本のことなど全て忘れることができる。きっとあなたも同じ。
綺麗な心になっている自分を発見したければ、ぜひご覧を。きっと世界と共有できるはず。