だらしない大阪の親父の話ではない。しっかり者の娘が探し回るだけの話でもない。最後まで観て、はっきり言って驚いた。親子も周囲の人間もまるで隣町にいるかのようだったから。私が大阪在住ってのもあるのかもだけど…
■ さがす ■
2022年/日本/123分
監督:片山慎三
脚本:片山慎三 他
製作:井手陽子 他
製作総指揮:豊島雅郎 他
撮影:池田直矢
音楽:高位妃楊子
出演:
佐藤二朗(原田 智)
伊東 蒼(原田 楓)
成嶋瞳子(原田公子)
清水尋也(山内照巳)
森田望智(ムクドリ)
石井正太朗(楓のクラスメート)
松岡依都美(担任)
品川 徹(果凛島のみかん農家)
■解説:
「岬の兄妹」の片山慎三監督が佐藤二朗を主演に迎え、姿を消した父親と、必死に父を捜す娘の姿を描いたヒューマンサスペンス。映画.com
佐藤二朗さんを初めて知ったのは「勇者ヨシヒコ」の仏役。その後も見かけるとこういった感じの役が多かったからか、コメディアン系の人だと思ってた。自分があまり日本のドラマや映画を観ないからだと思う。そんな中、監督された上にシリアス役な佐藤二朗さんという触れ込みで興味を持って鑑賞した映画『はるヲうるひと』(2019)。
ぃゃ、もう、ビックリした。もちろん、その非人道的な役柄が怖すぎて(;’∀’)。
『はるヲうるひと』(2019) ~ 人には差なんてないんだ
真面目に怖い佐藤二朗氏を始めて見た気がする… 面白い佐藤氏や真面目だったり不真面目だったりワルだったりの山田孝之氏はもう十分見たから選んだ作品ではあるんだけれ…
で、本作『さがす』。
どっちに触れているんだろうなーって思いながら観始めたが、最後まで観て感じたのは、面白さと怖さ、真面目さがうまくミックスされていた佐藤さんだったってこと。これは本作のどの役者さんにも言えることで、どんな役であっても“やり過ぎていない、行き過ぎていない”、やり過ぎる一歩手前の自然体。これが彼らを隣町にいる知らない人=何の変哲もないよくいる人々として表現することに成功している。
実はこれは、佐藤二朗さんにとってすごいことだ。だって私の知っている佐藤さんは絶対こんな人いないだろうっていうふざけ過ぎの親父さんだから。
Contents
『さがす』のあらすじ
少し前に妻を亡くした原田 智と娘の楓。それからというもの、生きる気力を失ったかのような父親としっかり者の娘は寄り添うように大阪の片隅で生きていた。そんなある夜、智が指名手配中の連続殺人犯を電車で見かけたと言う。捕まえたら300万円の謝礼金が出ると興奮して話す父に娘の楓は、そんなことより真面目に仕事して、と諭すのだった。
翌朝、中学生の自分より先に家を出た父。何故か嫌な予感がした楓は夜になっても戻らない父親を職場の工事現場まで探しに行くが、そこで見つけたのは父の名前“原田 智”を名乗る見知らぬ青年だった ─
『さがす』の視点
本作は大きく三つの視点から描かれていく。
まず最初は娘、楓の視点。
以前は母親と一緒に生き生きと卓球教室を経営していた父親、智。だが母親が亡くなってからというもの教室はつぶれ、重い身体を引きずるように日雇いの仕事に出かける父親を見ているのは辛かったことだろう。けれど彼女はよく分かっている。それでも生きていかなくてはならないことを。自分はまだ中学生だから、しばらくは父にしっかりしてもらわなくてはならないことを。けれど多くは望んでいない。毎日が無事に過ぎればいいのだ。
そんなある日、父親は失踪する。
その日の職場であった工事現場に行くと父親の名をかたる青年が。だがその青年こそ、失踪前に父親が言っていた指名手配中の連続殺人犯、山内照巳だと気づいた楓。父親を見つけるにはまず立ち去ってしまった山内を探すことだと考えた楓は無我夢中で彼を追う。彼こそがただ一人の肉親である父親に繋がるカギだからだ。
そしてある島へ ─
次は連続殺人犯の視点。
ネットで自殺願望のある人を見つけ一緒に死のうと持ちかけては殺すことを繰り返している連続殺人鬼、山内。指名手配中に関東から瀬戸内のある島に流れ着くが、もはや殺人をやめることはできない。最初こそ、自分の犯している罪に理由を付けて正当化していたものの、いつの間にか、そんな理由など全く関係なくなった。自分の性癖とやりたい衝動に駆られ、殺人を犯すのみ。見つからなければそれでいい、という考え方だが、遺体の処理はずさんで、すぐに連続殺人の犯人として名前を警察に突き止められることになる。
それでも止まらない衝動。それは死ぬまでやまない彼にとっての天国だ ─
最後に父、智の視点。
愛する妻と娘、卓球教室。貧乏ながらも充実した毎日を送っていたところへ、妻の難病罹患が発覚し、ほどなく死んでしまう。その妻の死に大きく関わった智は、それからというもの生きる気力が無くなり、娘と二人、何とか日々を過ごしているだけの状態だ。
だが彼には秘密があった。それはまず愛する妻の希望を叶えることに始まり、やがて自分自身の中の暗い穴を発見するに至る。誰にも言えない、だが、罪悪感なしにお金になる暗い穴。お金を手にすることに罪悪感など無いはずなのに、しかし何故、涙が出る?この感情はどこから湧いてくるのか?
彼はまだ気が付いていない。それが最後の砦だと ─
三つの視点が交差する時。そしてラスト
その時はまだ何も解決していない。
楓には疑問だらけなのだ。だが行動的な彼女はそのままにしない。疑問は全て解決し、前に向いて歩き出す必要がある。そこに一切の汚点を残してはならないのだ。それが彼女のやり方。
ラスト、卓球のラリーが続く。ほとんど話さない二人だが、口を開いた時のその内容は今後の二人の人生に大きく関わる重要な事柄だった。だからこそ本音で話す。嘘も綺麗ごともない今後のために、本音で話す必要があった。本音が出た時、ラケットを外れたピンポン玉は大きく飛び出した。だがピンポン玉などまた拾えばいいだけだ。逆に玉があろうが無かろうが、二人の呼吸さえ合っていればやっていける。
二人はそれを取り戻した ─