entry-image_444
今年公開される映画一覧の中に見つけた『肉』。何十と並ぶ公開作品の中で、それは後光が差すように目に留まり、レンタルを心待ちにしていたのであった。カニバリズムをテーマにしているものの極端なグロホラーには作られておらず、宗教的な要素もそう強くない。大自然の中で守られてきた「自然で必然的な行い」というように描写されている。

We_Are_What_We_Are_00
■ 肉 - We Are What We Are – ■
2013年/アメリカ/105分
監督:ジム・ミックル
脚本:ニック・ダミチ、ジム・ミックル
オリジナル脚本:ホルヘ・ミッチェル・グラウ
製作:ロドリゴ・ベロット 他
製作総指揮:エミリー・ジョルジュ 他
撮影:ライアン・サマル
音楽:フィリップ・モスマン 他

出演:
ビル・セイジ(フランク・パーカー)
アンバー・チルダーズ(アイリス)
ジュリア・ガーナー(ローズ)
ジャック・ゴア(ロリー)
ケリー・マクギリス(ミセス・マージ)
ワイアット・ラッセル
ニック・ダミチ
マイケル・パークス
ラリー・フェセンデン

解説:
「ネズミゾンビ」「ステイク・ランド 戦いの旅路」で注目を集めたジム・ミックル監督が、世界的に話題を呼んだメキシコ発のカニバル・ホラー「猟奇的な家族」を英語リメイク。静かな日常を送りながらも、人知れず忌まわしき犯行に手を染めてきた一家を主人公に、ふとしたことから歯車が狂い始めた彼らの運命を淡々とした筆致で描き出していく。
(allcinema)

あらすじ:
先祖代々、アメリカの片田舎にある森に住むパーカー家。厳しい父親の元、慎ましく暮らす一家だったが、母親が急死したことから一家に伝わる伝統の儀式を10代の長女アイリスが受け継ぐことに。次女ローズも手伝おうとするが、あまりの忌まわしさと過酷な内容に儀式そのものに疑問を抱き始める ―


18世紀。森の奥深くに家を建て住み着いたパーカー家。一家は慎ましく信仰心を持って暮らしていたが、ある年の厳しい冬、食糧が尽きた。木の実などの欠片を拾って凌いでいたものの、衰弱していく妻を見かねた父親と叔父が猟銃を持って動物を捜しに森に入っていく。何日も経って肉を持って帰った父親。
― 叔父は戻らなかった。

We_Are_What_We_Are_33

監督は『ステイク・ランド 戦いの旅路』のジム・ミックル。この『ステイク・ランド』は、たまたま最近観たんだけれど、内容はヴァンパイア版ゾンビ・ホラー。蔓延ったヴァンパイアと人類滅亡の危機を描く世紀末作品である。
よくあるゾンビホラーがキャー、ギャー、ゥガゥガと騒がしいものが多い中、この監督作品の少し変わっているのは、全編とても静かに進んでいく点。この静かな進行は、本作『肉』にも受け継がれていて、こちらもショッキングな事をテーマに扱っているというのに、静かに、クラシックに、色あせた色調の中で進められていく。
舞台はどちらも大自然。人間を中心とした視点ではなく、自然を中心に人間を配置してみると、それは単なる点に過ぎず、自然を味方につけるも敵にするのもその人次第であることが分かる。

We_Are_What_We_Are_27パーカー家の祖先も大自然の中で慎ましく人として生きていたが、ある時を境に生き方が変わる。パーカー家は“飢え”に直面したのだった。その時からパーカー家には“神に感謝する”ための宗教儀礼として数日の断食と、その後与えられる“肉”を伝統として守ってきた。
その伝統を正統なものとして守るために、彼らの“神”に対する宗教観も独自なものに変わっていったようだ。といっても、そう逸脱しているわけでもなく、地域に根ざした一家として彼らは暮らしている。

We_Are_What_We_Are_28けれども本作の設定は現代のアメリカであり、地方の寂れた田舎が舞台とはいえ、人が行方不明になった時、“神隠し”とは考えられない。探す家族、捜査する警察、報道するメディアがあり、情報も共有される。何か証拠が見つかればプロの手で徹底的に調査される。
そもそも数世紀前とは違って、現代の子供達は学校に通い、今の時代に合ったアメリカの常識を学ぶことになる。
パーカー家の伝統はもはや現代には通用しないのだった。

We_Are_What_We_Are_22今まで儀式を管理していた母親が亡くなり、その任を長女アイリスに命じた厳格な家長である父親。アイリスは長女らしく母親の代わりを務めようとするが、次女ローズは違った。いくら家の伝統とはいえ、これは犯罪だ。誘拐、監禁、殺人、遺体損壊・・・。疑問は頭の中で大きく膨らんでいく。

この辺りの長女と次女、小さな弟3人の役割もよく描かれている。伝統を重んじよう、続けていくしかないと考える長女、家族を愛しているものの、この伝統は間違っていると判断出来る年になった14歳の次女。末の弟は決して近付いてはいけないと言われている地下に探険しに行って見つけてしまったドアの向こうの“オバケ”に怯える。

We_Are_What_We_Are_25さて、
ここまでオカルトでゴシック的にも描かれてきた本作ですけれど、この監督のもう一つの特徴も要所、要所にきっちり入っている。それは、静かではあるけれど結構はっきり映されるグロ的描写。時にはあまりに自然で「ちょっと、これはもしかしたらグロ?」というものや、いきなりザクッと入るものやらで、そうだった、これはホラーだった、、と再確認出来る。
これは前作『ステイク・ランド 戦いの旅路』でも同様だったんだけど、今回はさらにもう一歩進化。ラストにそれはいきなり襲ってきたものだからホントにビックリしましたよ。思わず「ひゃ~」ってなった。合わせてこれは一体どういうことだ?と。
私の出した結論は、「ぁあー、、、伝統は続くんだ」。それもより悲惨に…

クールー病について
本作の中で父親の手の震えを見て医師が文献を調べる中、チラッと出てくる「クールー病」。そう言えば、カニバリズムの弊害でこんなのがあったな、と。
“死者の体内に蓄積されたプリオン(悪性の蛋白質)を摂取してしまい発病する”病で発症後1年で死に至る怖い病気だ。
詳しくは
クールー病
クロイツフェルト・ヤコブ病

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

コメント

コメント一覧 (3件)

  • あんな伝統に則ったやり方なんか、まどろっこしくてイヤなだけだったのかもしれませんね。
    良くも悪くも現代っ子で、ズバッといきたかっただけなのかも…
     
    オリジナルの「猟奇的な家族」ですが、レンタルにも無い、amazonにさえ無い、、、
    観ることは難しそうですねぇ

  • 【概略】
    ある日事故で母親を亡くしたパーカー家。美しい姉妹アイリスとローズは母に代わり、先祖代々伝わる恐ろしい秘密の儀式を引き継ぐことになる。
    ホラー
     
     
     
    レース縁取りで飾っても、肉は「肉」なんです。
    思慮深く善良なパーカー一家。厳格な父親フランク、優しい母親エマ、思春期のふたりの姉妹アイリスにローズ、幼い長男ロリー。
    かつてパーカー家の先祖は、大飢饉が襲った際「ある方法…

  • 過去の日記の叔父と伯母の運命のシーンも、面白く、
    しっとりとした映像が心地よく、
    ハードなゴア描写がなくても、きちんと楽しめましたね!
    妹のほうが嫌がっていたのにあのラストですから、
    内なる本能が勝ったのだと思います

Contents