『アニマル・キングダム』(2010)　- Animal Kingdom –

犯罪一家に放り込まれた17歳の少年が、生きるために順応していく様子がリアルに描かれる。しかしそれはオドオドと周りを下から見ているのではない。どうどうと顔を上げて、自分にとって今、何が必要なのかをその場に応じて自信満々に選び取っていく、見事な観察力の結果だ。


■アニマル・キングダム – Animal Kingdom -■
2010年/オーストラリア/112分
監督：デイヴィッド・ミショッド
脚本：デイヴィッド・ミショッド
製作：リズ・ワッツ
製作総指揮：ベック・スミス 他
撮影：アダム・アーカポー
音楽：アントニー・パートス
出演：
ジェームズ・フレッシュヴィル（ジョシュア・“J”・コディ）
ジャッキー・ウィーヴァー（ジャニー・“スマーフ”・コディ）
ベン・メンデルソン（アンドリュー・“ポープ”・コディ）
ジョエル・エドガートン（バリー・“バズ”・ブラウン）
ガイ・ピアース（ネイサン・レッキー）
ルーク・フォード（ダレン・コディ）
サリヴァン・ステイプルトン（クレイグ・コディ）

■解説：
80年代のオーストラリアを舞台に、母の急死で疎遠だった祖母に引き取られ、犯罪一家との生活を余儀なくされた真面目な青年が辿る運命を鮮烈に描き出す犯罪ドラマ。主演は新人のジェームズ・フレッシュヴィル、共演にガイ・ピアースと本作の演技でアカデミー助演女優賞にノミネートされたジャッキー・ウィーヴァー。監督は、これが長編初監督作となるデヴィッド・ミショッド。　(allcinema)

■あらすじ：
メルボルン。17歳の高校生ジェイは母親が薬物過剰摂取で急死したため、疎遠だった祖母スマーフ宅に引き取られる。が、祖母とその息子3人は強盗やドラッグの売買で生計を立てている犯罪一家であり、警察から常に監視されている状態だった。そんなおり、ある事件をきっかけに証人にするためジェイを尋問し始めた警察だったが－

母親と二人暮らしの高校生ジェイ。ある日、薬物の過剰摂取で母親が急死したのをきっかけに、祖母宅に引き取られる。こう書くと泣きながら受動的に連れて行かれたようにみえるが、彼は違う。祖母と母親の関係は長い間うまくいっておらず祖母の一家とは疎遠だったのだ。彼は、倒れた母親のために救急車を呼びながら考えた。まだ未成年の自分がどうやってこれから生きていくか。救急隊が母親の様子を診ている間も考え続ける。どうやって生き残るか。そして決断し、自ら祖母に連絡したのだ。実の娘が死んだというのに涙一つ見せない祖母、通称スマーフに。

ジェイの叔父にあたる祖母の息子は3人とも犯罪者だ。強盗やドラッグの売買で生計を立てており、祖母スマーフもそれを認め応援している。3人の息子を溺愛するスマーフと仲間のバズが加わり、この犯罪者集団は成り立っていた。
それらの様子を見たジェイはこの家の仕組みや人の優劣をすぐさま理解した。
・口答えしないこと。
・いらぬ質問はしないこと。
・指示されたことはすぐさま行うこと。
こうして高校生ジェイの新しい生活が始まった。

このコディ一家は警察から目を付けられ、常時監視されている。80年代のメルボルンでは、いくら犯罪者を捕まえても証拠不十分で無罪になることが多く、警察もかなり無茶なことをやっていた時代。無罪になって自由になるくらいならと、捜査時に犯罪者を簡単に銃で撃ってしまう。どちらも命がけだったのだ。
そんななか、家族の一員でもあったバズが警官に撃たれて死亡。すぐさま3兄弟は報復のために警察官2人をおびき出して銃殺。証拠の無いまま逮捕された。
これらの事件をずっと見ていたジェイ。良識のある警官レッキーが彼を証人にするべく彼に近付く。色々な事実を知っていたジェイだったが、口を割らなかった。彼にはコディ家が必要だったのだ。

しかし疑り深い長兄ポープは、コディとコディの彼女ニコールが警察に何かをばらすのではないかと気が気でなく、2人に探りを入れるもはっきりしない。そこでコディ不在時にニコールにクスリを打ち、真実を確かめようとするが―

家族の中の話だというのに、一触即発的な状態がじりじり続く犯罪ドラマ。
いつも人を疑るような顔で見ている長兄ポープ（ベン・メンデルソン『ジャッキー・コーガン』）。彼は兄弟の中でも一番に警察に目を付けられている。仲間のバズはもう足を洗いたいと考えていた。株かなんかで資金を増やし、楽して儲けたいと。それを聞かされても根っからの犯罪者ポープにはピンとこない。
次男クレイグは落ち着きの無い爆発型人格だ。しかし母には一番愛されていた。三男ダレンは他の兄弟に比べて良心が残っている大人しいタイプ。環境がこうであったから、一緒に犯罪に手を染めている。
彼らの母親スマーフは、根っからの犯罪者だ。人を裏切ることも、騙すことも、嘘をつくことも平気だ。息子達を愛していることには嘘は無いが、そこにはちらりと打算も見え隠れする。
こんな一家を逮捕し、あわせて少年ジェイを救い出そうと考えた警官レッキー。彼は本作で唯一の良識ある人だ。

こんな人々をずっと観察していたジェイ。誰が誰を一番大事に思い、必要としているか。そして二番目は誰なのか。若い柔軟性のある頭でくるくると冷静に計算する。この能力は祖母から受け継いだものかもしれない。
そして最後、彼がとった行動は彼の一番大事なものを奪った相手に報復すること。そしてその時、祖母スマーフがこれから一番大事にしなくてはいけない相手が決まった。
新しいKINGDOM（王国）が出来たのだ。