アメリカ大統領選をバックに、ある事件にまつわるマフィアの日常をバイオレンスかつクールに描く。顔を見せないマフィアの幹部、実際に動く中層部、連絡員、殺し屋、チンピラ達の悲喜こもごもが、コミカルな会話によってリアルにテンポよく展開していく。観終わった後、「面白かったー」としか出ない、この爽快感はなんだろう?
■ジャッキー・コーガン – Killing Them Softly -■
2012年/アメリカ/97分
監督:アンドリュー・ドミニク
脚本:アンドリュー・ドミニク
原作:ジョージ・V・ヒギンズ「ジャッキー・コーガン」
製作:ブラッド・ピット 他
製作総指揮:マーク・ブータン 他
撮影:グレッグ・フレイザー
出演:
ブラッド・ピット(ジャッキー・コーガン)
スクート・マクネイリー(フランキー)
ベン・メンデルソーン(ラッセル)
ジェームズ・ガンドルフィーニ(ミッキー)
リチャード・ジェンキンス(ドライバー)
ヴィンセント・カラトーラ(ジョニー・”リス”・アマート)
レイ・リオッタ(マーキー)
マックス・カセラ(バリー)
サム・シェパード(ディロン)
スレイン(ケニー)
■解説:
allcinema
ジョージ・V・ヒギンズのクライム・ノベルを基に、主演のブラッド・ピットが皮肉屋のヒットマンをクールに演じて評判を呼んだノワール・ムービー。組織のカネを強奪した犯人を始末するために雇われた凄腕の殺し屋ジャッキー・コーガンの華麗な仕事ぶりを、ハードなバイオレンス描写を織り交ぜスタイリッシュに描き出す。
■あらすじ:
経営する賭場に強盗が入り大金を奪われたマフィアに、事件解決のため雇われた殺し屋ジャッキー。早速、聞き込みを開始した彼は実行犯と黒幕の情報を掴むが-
ストーリーはいたってシンプル。マフィア経営の賭場を荒らした犯人を雇われ殺し屋が追い詰める、というもの。こう書くとなんかダークな裏社会の「ゴルゴ13」みたいなのを想像するけども、本作の登場人物達はゴルゴと違ってよくしゃべる。例えそれが犯罪組織だろうと、会話こそ全ての潤滑油というくらいによくしゃべる。その会話シーンは1対1で描かれることが多く、その中に人物描写がたっぷり含まれていて、各々の人物像はとても分かりやすい。
ブラッド・ピット演じる殺し屋ジャッキー・コーガンもその例に漏れず、「孤高の殺し屋」というよりは、頭の回転が速く、自分の哲学を持ち、同業者に情け深いところもあるが、仕事は確実という頑固な昔気質な面を持ちながらも現代的なクールさをも持ち合わす殺し屋。その彼の哲学というのが同じ殺すのなら対象がなるべく恐怖を感じないように、苦しまないように「優しく殺す」というもの。これは絶対ゆずらない。
事の発端は雇われ賭場オーナーのマーキーが、自分の賭場に強盗を入らせて被害者を装い現金を強奪したこと。これに目を付けたマフィアの一員でもあるクリーニング屋”リス”・アマートがチンピラ2人を使ってマーキーの賭場を襲わせる。
チンピラは最近出所したばかりの人のいいフランキーと自分勝手なヤク中ラッセル。付かず離れずのこの2人の関係も会話から伺えて楽しいが、黒幕リスがいつもフランキーをいいように使って刑務所に入ることになっても平気な感じが、これまた使われる側と使う側の関係性が浮かび上がって各自の立ち位置がよく分かる。
マーキー、リス、チンピラ2人の合計4人が見せしめのために命を狙われることになる。
ジャッキーは殺しの手伝いにニューヨークから”元”凄腕のヒットマン「ミッキー」を呼び寄せる。昔は凄腕で高額報酬が噂だったミッキーだが、「今はそうでもない」とマフィア連絡員に告げるジャッキーのシーンも面白い。それでもジャッキーはミッキーに一目置いていたのだが、ニューヨークから到着したミッキーを見て唖然とするジャッキー。酒を昼間から浴びるほど飲み、会話の内容と言えば女の話ばかり。今となっては古いタイプの人間だ。
落ちぶれた元凄腕ヒットマン。
しかしジャッキーは彼に優しい。いつも眉をつり上げて厳しい顔をしているジャッキーだが、ミッキーと話すときは常に眉が下がって心配そう。
いかにも身体に悪そうな太り方をしているミッキーに、チェーンスモーカーの自分の未来を見たのか..
こうして凄腕ジャッキーに追い詰められていく4人は「もうお前は死んでいる」状態。そしてジャッキーは自らのモットーを元に確実に追い込み、手早く仕事を終わらせていく。
このジャッキーの動きの背景に、現在進行形の大統領選が映される。候補者オバマは何度も何度も演説する。
「アメリカは一つだ、たくさんの人々から成る一つの共同体だ。」
誰もが覚えているこの演説にジャッキーが一言。
「アメリカはビジネスだ。」
これを管理人が訳してみると
「人と人とのつながり?何、寝ぼけてんだよ。全てはビジネス、金の繋がり。きれい事では食っていけねえんだよ。お手々繋いで一緒になって何が生まれる?結局人間は一人なんだよ。自分の足で立っていなくちゃ生きていけねんだよ!」(タイラー・ダーデン風)
となる。
このクールさと冷たくなりきれない妙な優しさ両方持ち合わせているのが殺し屋「ジャッキー・コーガン」の魅力でしょうか。この相反する2つのものを表現する手法は、マーキーがやられる場面なんかにもよく出ていて、銃で撃ち抜かれる頭と飛び散るガラスがスローに映る映像は、一種ファンタジーのようにも見える。
マーキー役にレイ・リオッタ、チンピラのフランキー役は『モンスターズ/地球外生命体』主役のスクート・マクナリー、落ちぶれた殺し屋ミッキーに今年急逝したジェームズ・ガンドルフィーニ。
ミッキーのぐだぐだ感に「ザ・ソプラノズ」トニーの姿が見え隠れしたのは自分だけではあるまい..。
ではまた
コメント
コメント一覧 (3件)
え、なんと!評価があまりよくない..
自分で観て書くまでは、事前情報を入れなかったので知りませんでした。
意外です。
ブラピがブラピであることが理由なのでしょうか。
ファイトクラブやスナッチが好きな私は、このブラピもとても気に入りました。
作品全体で会話が主体なところ、ちょっとだけタランティーノ風だったのも
好きな理由です。本家と比べるととても分かりやすくあっさりしてますけど[絵文字:i-179]
決して、スパイクロッドさんは独りぼっちじゃないですよ!
『ジャッキー・コーガン』
2012年/アメリカ/97分
監督:アンドリュー・ドミニク
出演:ブラッド・ピット
おばんです。
公開終了間近のレイトショーでこの映画を観ました。
ちなみに観客は、ボクを含めて10人いなかったと思います。
そのほとんどが首をひねりながら劇場をあとにするなか、
ボクひとりが異様な興奮を覚えて帰途についたのを覚えています。
彼らの不満の原因は、
期待したものと見せられたものとの乖離にあると思うんですけど、
そもそもこの映画をシネコンでかけること自体が間違いですよね。
ミニシアターでかけていたら、
観客の反応はもっと違ったものになっていたと思います。
ほとんどのブログでの評価もあまり芳しくなく、
この映画をいいと思ったのはボクだけなのかと寂しい思いをしていたんですけど、
momorexさんの記事を読んで少々救われました。
ボクはひとりぼっちなんかじゃなかったんだ!(笑)
というわけでTB打たせていただきます♪