ゾンビ映画の記念碑的作品ジョージ・A・ロメロ監督『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(1968)』の正統リメイク。物言わず次々と襲ってくる“生ける屍”。しかし戦う生存者達は必ずしも一体となっておらず、究極的な状況の中で繰り広げられる生きている人間らしい、嫌らしい人間ドラマ。はたして彼らに生き残る意味と意義はあるのか?
■ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世記 - Night of the Living Dead -■
1990年/アメリカ/96分
監督:トム・サヴィーニ
脚本:ジョージ・A・ロメロ
製作:ジョン・A・ルッソ、ラッセル・ストライナー
製作総指揮:メナハム・ゴーラン、ジョージ・A・ロメロ
撮影:フランク・プリンツィ
音楽:ポール・マックローグ
出演:
トニー・トッド(ベン)
パトリシア・トールマン(バーバラ)
ビル・モーズリイ(ジョニー)
ウィリアム・バトラー(トム)
ケイティ・フィナーラン(ジュディ)
トム・トールズ(ハリー・クーパー)
マッキー・アンダーソン(ヘレン・クーパー)
ヘザー・メイザー(サラ・クーパー)
■解説:
郊外の一軒屋を舞台に、突如甦った死者たちと生存者の攻防を描いたジョージ・A・ロメロの先駆的傑作「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」のカラー・ステレオ版リメイク。前作の脚本(ジョン・A・ルッソ)をロメロ自身が脚色、オリジナルを重視しつつも時代性を取り込んだアレンジを見せ、特殊メイクアップ・アーティストの盟友T・サヴィーニの演出がそれに見事に応えた。 (allcinema)
Contents
■あらすじ:
母親の墓参りのため郊外の墓地までやって来たジョニーとバーバラ兄妹は、突然、歩く死者に襲われてジョニーは死亡、バーバラは必死に逃げ惑い一軒家にたどり着く。同じく車で逃げ込んできたベン、元から立てこもっていた家族やカップルと一緒に死者達を銃で撃退するが、次々現れる死者達は限りなく、なんとか脱出を試みようとするが-
見どころと感想
ばかばかしい兄妹喧嘩をしながらやって来た郊外の墓地。時は昼間。太陽がさんさんと降り注ぐ中、いきなり“歩く死者”に襲われる。
兄のジョニーがさんざんこれの真似をして妹バーバラをからかっていたのは、映画かなんかを観てのことだろうが、いきなりソレが出てきて襲われるのがなかなかシュール。なんの説明も無いまま、1体、また1体と現れる“歩く死者”に叫びながら逃げ惑うバーバラ。観ているこちらは、どうしてこうなったか分からないまま、そのまま“歩く死者”の世界に突っ込まれる。
必死に丘を駈け、見つけた一軒家に逃げ込むバーバラ。しかしこれはホラーです。おそるおそる家の中を見回すと天井からぼとりぼとりと落ちてくる粘液性の血を発見。そして家の中にいた太った死者に襲われる彼女。ギャーっとばかりに折角の隠れ家から飛び出して途方に暮れているところに、車で逃げ込んできた黒人男性ベンが。
スーツをパリッと着こなした彼も同じくいきなり死者達に襲われ逃げてきた。青ざめて叫ぶだけのバーバラをいなし、銃を探して戦闘態勢を築くベン。頭を撃てば死者達は元いた死者の世界に戻ると分かっている。しかし何故こんな事態になったかは分からず、ラジオでもただ状況説明だけしか放送されず原因は不明のまま。
そんな中、この家の地下に隠れていた家族とカップルが上がってくる。窓の外には次々と集まってくる死者達が。この死者達の目的は人間を喰うこと。特技は建物破壊。ベン達は窓を打ち付け防戦体制に入るが、このままではいつか破られると決死の脱出作戦に出るが-
この作品、最後まで観ると分かるのですが、ゾンビホラーな体をした社会派人間ドラマですね。
以前に観た時にはそんなふうには思わず、ただただゾンビものとして楽しんだけれども、最近観た『ゾンビ大陸 アフリカン(2010)』の影響も自分にあってか、今回は人間vsゾンビというよりバーバラ個人の視線で観てしまった。
ふざけて怖がる妹をいじめるのに使ったネタのゾンビに真っ先にやられる兄ジョニー。立てこもった一軒家の中では力を合わせて立ち向かわなくてはならないというのに自分の家族、最後には我が身だけを守ろうとするクーパーさん。そんなクーパーにつっかかっては子供のような喧嘩をするベン。カップルはなかなかいい働きをしていたのに、知識が無いためか、慌てたためか、自ら命を奪ってしまうことに。
そんな彼らを見ていてうんざりし、どんどん強くなっていくバーバラ。
そしてなんとか助かったバーバラが最後に見たもの。
ゾンビ達を一匹、二匹と数え、木にぶら下げて慰み者にする人間達。頭を撃ち抜いて殺したゾンビを山にして笑いながら火をつける人間達。その山にはバーバラが最初に襲われたゾンビの姿が。それはまだ銃の使い方さえしらないような頃に墓地で襲ってきたゾンビ。自分が助かるために何かを犠牲にすることを知らなかった頃。ほんの少し前の事だが。
首つりのような状態で木にぶら下げられたゾンビの姿を見て、KKK(クー・クラックス・クラン)による人種差別を思った人もいると思う。KKKの詳細はここで確認してもらうとして、本作の原点『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が製作された1968年頃はKKK会員数が一番少なかった頃。とはいえ、1920年代には4~5,000,000人の会員を抱え、一部地域では強姦や殺人などを含むあらゆる人種差別が行われて大きな力を持っていた。
バーバラが目撃する本作の生存者達がいかにも差別主義者のような下品な風体で描かれているのも、これらに関係があると言えるだろう。
1970年代に2,000人まで減ったKKK会員は、21世紀に入って徐々に増えてきている。
今後もいろんな意味でゾンビ映画はどんどん作られるだろう、な、と。
ではまた
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コメント
コメント一覧 (3件)
コメントありがとうございます。
いましたねー、時々アメリカ映画に出てくる病院の入院着みたいなスーツを着ていたゾンビが[絵文字:i-179]
作品終盤では全部脱げていたみたいでした。お気の毒に..
あと墓場でバーバラに造花を頭に差し込まれたゾンビも最後に再登場。
一部のゾンビに個性を持たせた作品でした。
滑稽に見えるゾンビがいましたね。たぶん死後硬直の関係で衣装を普通に着せられなかったのか、それとも手抜きの葬儀衣装なのか、背中がバッサリ裂けた背広を身体に引っ掛けてズボン引き摺りながら歩くゾンビがいましたね。
このリメイクはけっこう良かったですね。冒頭はショートカットの清純美少女系のヒロインが、ラストは汗と血糊でスレンダーポディをテカらせて、生き残った自己中オッサンを故意にゾンビと見なして抹殺する逞しい女傑へと変化する様が素敵です。
墓場の場面で、うごめき出したゾンビの中に背中がバッサリ切られた背広を着た奴がいて、ヨチヨチ歩きでズボンがずり下がってだらしなくなっているのが滑稽でした。
たぶん、死後硬直で身体が固まって着せられないから、葬儀屋は手抜きして背中をバッサリ切ったのでしょう。
このユーモラスな光景がまた恐怖をさそいます。