『孤島の王』(2010) - Kongen Av Bastoy –

人は誰でも、王になれる――

 

Kongen Av Bastoy_14

 
■孤島の王 - Kongen Av Bastoy -■
2010年/ノルウェー・フランス・スウェーデン・ ポーランド/117分
監督:マリウス・ホルスト
脚本:デニス・マグヌソン
原案:ラーシュ・ソービー・クリステンセン、メッテマリット・ボールスター
製作:カリン・ユールスルー
撮影:ヨーン・アンドレアス・アンネシェン
音楽:ヨハン・セーデルクヴィスト
 
出演:
ステラン・スカルスガルド(院長)
クリストッフェル・ヨーネル(寮長)
ベンヤミン・ヘールスター(C19/エーリング)
トロン・ニルセン(C1 /オーラヴ)
エレン・ドリト・ピーターセン
マグヌス・ラングレーテ
モルテン・ルーヴスタッド
クリストッフェル・ヨーネル
 
解説:
自由を渇望する少年たちの痛切な運命。その魂の叫びに胸を
衝かれずにいられない極限の孤島サバイバル&サスペンス

ノルウェーの首都オスロの南方に浮かぶバストイ島には、かつて11~18歳の少年向けの矯正施設が存在し、1915年に軍隊が鎮圧に出動するほどの壮大な反乱事件が勃発した。本作は大半のノルウェー国民さえ知らなかった歴史の闇に光をあて、圧倒的なリアリティと詩情に満ちた映像美の中に想像を絶する重い真実をあぶり出す。  (『孤島の王』公式サイト)
 
あらすじ:
Kongen Av Bastoy_061915年。ノルウェーのバストイ島に、エーリングという非行少年が送還されてくる。そこで彼が目の当たりにしたのは、外界とは隔絶した矯正施設のあまりにも理不尽な現実だった。少年たちを管理する寮長たちにことごとく反抗する彼だったが、その度に厳しい罰を受ける。とても我慢ならないと感じたエーリングは、一人脱出を計画するが-


 
きつい波が打ち寄せる孤島バストイ島。
この島にある少年専用矯正施設に今日も2人の少年が送られてきた。1人はがっちりしており、もう1人は線が細く弱々しい。全ての私物を取り上げられ、髪を短く切られて制服に着替える。今日から名前はC19とC5。全ての言動は管理下におかれる。
 
この矯正施設は1900年に開設された。

バストイ島 Bastoy Island
Kongen Av Bastoy_081896年に「問題児たちの矯正」を目的とした制度が制定されると、政府は1898年にこの制度に基づいた非行少年の矯正施設を設立するためバストイ島を購入し、合計で150人の少年を収容できる5つの寮を建設した。
1900年10月に入所した8歳から18歳までの少年たちのための更生カリキュラムには、通常の学校の授業に加え、農場での仕事などの就労研修も組み込まれていた。当時、ヨーロッパでは、問題を起こす児童に対しては、体罰を与えるよりも、彼らに合った環境の中で成長させる必要があり、早期の矯正により青少年期の問題に起因する未来の非行を防止できる、という考え方が主流だった。そのためバストイ島の矯正施設は外国から「見習うべき模範」と考えられていた。
しかしながら、現実は理想とは程遠いもので、外界から隔離されたこの施設でも理不尽な懲罰や暴力が横行し、他の刑務所となんら変わらない「懲罰施設」となっていた。  (『孤島の王』公式サイト)

 
この公式ページでの説明が事実であるならば、本作での少年たちの生活は、かなりソフトに描かれていると言える。確かにルールを破った際の懲罰は厳しいものだが、院長を始めとする監督官たちは少年たちへの「愛」を持って罰を与えていた。いや、与えていたはずだった-。
 
Kongen Av Bastoy_12がっちりしたC19(エーリング)は、入所したばかりの時は逃げ出すことしか考えていなかった。ここが施設で大勢の少年たちとの団体生活で成り立っていることを理解しようとは思っていなかった。しかし、ある夜、一緒に入所したC5が寮長に連れて行かれた後、ベッドでむせび泣く様子を見て、ここには闇の世界があることを知る。
一度は脱出に成功するも捉えられ連れ戻された時に、その間、同じC棟の仲間たちが食事を半分に減らされた上、より過酷な労働に就かされていたことも知る。C19は「仲間」という存在を認めることになった。
 
Kongen Av Bastoy_13C棟のリーダーであるC1(オーラヴ)。彼は入所から6年経ち、もうすぐ卒院を迎える。C棟の少年たちの管理を任されているC1は、優等生として過ごしてきた。ルールをルールとして守り、破った時には懲罰を受ける。真面目な彼はこの事を理解し、遵守し、遵守させてきた。しかしある時起きたC5の事件により、ルールを守っていないのは監督官側であることを知り、今までの怒りが爆発する。C1もまたC5と同じく虐待を受けていた過去があったのだ。

 
Kongen Av Bastoy_10物語はこの2人の少年を軸に、孤独だった少年が手に入れた友情と仲間、それらを含めた矯正を行うはずの施設での‘’が浮き彫りになっていく様子をじっくりと描いていく。全体的に台詞は多くなく、ノルウェーの過酷な自然での労働と、建物の中でさえ白く吐かれる息が全てを物語る。
この施設の頂点である院長。まるで王様のようにも見えるが、実際少年たちに接することが多かった寮長こそが王のようでもある。しかし、いつの世も、永遠に王が王として存在することは無い。それは、少年相手のこんな小さな島でさえ同じ事だった。
 
C19によって何度も語られる「銛を3本打ち込まれても1日泳ぎ続けた鯨」の物語。この気高い鯨こそが「王」なのか。王とは、ふんぞり返って命令する者ではなく、真の自由を手にしている者のことなのだ。

 
何も言わずとも、目配せ一つで分かり合える少年たちが起こしたとされる反乱事件を描いた本作。
この実際に起きた少年たちの事件に決定的に足りないのは少年たちの‘親の存在’であった。
 
ではまた
 


 
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コメント

コメント一覧 (2件)

  • コメントありがとうございます。
     
    尼崎変死事件..
    この事件の方が、ある意味、非道で卑怯かもしれません。
    バストイ島では、少年たちが連帯意識を構築していったのに対し
    尼崎では逆で家族の絆ですらことごとく潰していった。
    尼崎事件に「王」は存在しないと思いました。

  •  尼崎変死事件の被害者がもしこの作品に出会っていたら、多少は展開が違っていたかもしれません。
     
     少なくとも、ただ逃げるだけでなく反撃を試みたかもしれない。

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