『ラストナイト・イン・ソーホー 』に続き、またもや意外な展開作品『アンテベラム 』。異常で理解不能的な超常現象歴史大作を期待すると肩透かしを食らう、“人間が一番怖い”系作品だ。後半ネタバレてます。
■ アンテベラム – Antebellum – ■
2020年/アメリカ/106分
監督・脚本:
ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
製作:
ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ他
製作総指揮:エドワード・H・ハム・Jr他
撮影:ペドロ・ルケ
音楽:ネイト・ワンダー他
出演:
ジャネール・モネイ(ヴェロニカ・ヘンリー/エデン)
エリック・ラング(ブレイク・デントン)
ジェナ・マローン(エリザベス)
ジャック・ヒューストン(ジャスパー司令官)
カーシー・クレモンズ(ジュリア)
ガボレイ・シディベ(ドーン)
マルク・リチャードソン(ニック・ヘンリー)
ロンドン・ボイス(ケネディ・ヘンリー)
トンガイ・キリサ(イーライ/タラサイ教授)
ロバート・アラマヨ(ダニエル)
リリー・カウルズ(サラ)
■解説:
「ムーンライト」「ドリーム」のジャネール・モネイが境遇の異なる2人の人物を1人で演じた異色スリラー。製作に「ゲット・アウト」「アス」のプロデューサー、ショーン・マッキトリック。映画.com
Antebellum:南北戦争前
Contents
あらすじ
南北戦争前夜のルイジアナ州にある広大な綿花畑を持つプランテーション。ここでは黒人奴隷たちが強制労働をさせられており、自由に話すことさえ禁止されている。話せば監督官からの容赦ない折檻が待っていた。
時はかわり現代アメリカ。社会学者で人気作家でもあるヴェロニカ・ヘンリーは理解のある夫と幼い一人娘を持ち、忙しくも幸せな日々を過ごす黒人女性。講演会のため一人でニューオーリンズに旅立った彼女は、現地で友人たちと待ち合わせディナーとおしゃべりを楽しみ、ホテルへ戻ろうと一人でタクシーに乗り込むが、ある事件に巻き込まれ、のっぴきならない状態に ─
見どころと感想
豪奢で素敵な南北戦争前の邸宅と黄色いドレスの少女で始まるオープニング。
恵まれている生活があふれる表玄関側からカメラが少しずつ裏側に回る。あらすじが分かっているこちら側はもう既にここで想像がつく。豪華な家の裏側には豪華な家に住む者たちのために血を吐きながら働く人々がいることを。
それでも映画作品になる中には理解を持って彼らを同じ人として扱ってくれる白人農園経営者=ご主人様もいるように描写されることもある。彼らとは黒人奴隷の事だ。だが残念ことにこの農園は南軍の将校に抑えられ、軍人たちに管理されている非常に厳しい場所だった。元々が南北戦争はリンカーン大統領の奴隷解放宣言をめぐるアメリカ南北の戦いである。なので戦争前の南部ルイジアナ州では奴隷の扱いは非常につらいものだったのだ。
南北戦争
1861年から1865年にかけて、北部のアメリカ合衆国と合衆国から分離した南部のアメリカ連合国の間で行われた内戦である。奴隷制存続を主張するミシシッピ州やフロリダ州など南部11州が合衆国を脱退してアメリカ連合国を結成し、合衆国にとどまったその他の北部23州との間で戦争となった。
Wikipedia
当時、南部と北部との経済・社会・政治的な相違が拡大していた。南部では農業中心のプランテーション経済が盛んで特に綿花をヨーロッパに輸出していた。プランテーション経済は黒人奴隷の労働により支えられており、農園の所有者が実質的に南部を支配していた。
ちなみに開戦の時点で北部の人口は約2200万、南部の人口は約900万(約400万の奴隷人口を含めた数字)だったとされる。
そんな農園から脱走者が出るとすぐに捕まえられ見せしめのために処刑される。ここ南軍将校の農園でも同じだ。だが一人の奴隷女性エデンはじっくりと時間をかけて脱走の機会を伺っていた。そんな彼女に希望を託す仲間も大勢いた。
現代アメリカ
そして現代アメリカ。成功している黒人女性ヴェロニカ。
・・・この流れ。昨日書いた『ラストナイト・イン・ソーホー』に何故か似ている(”ω”) どちらも予告編で生きる時代の違う女性と接点を持つと公開されているのでネタバレにはならないと思うけど、本作は現代に生きる女性ヴェロニカが何故か黒人奴隷制度真っただ中のルイジアナ、綿花畑に飛ばされる。気が付くと農園で働く奴隷となっていた、エデンという名前まで付けられて。
そこで行われる恐ろしい虐待、差別、折檻、殺人。
ヴェロニカの専門が社会学であり、黒人としての生き方を堂々と訴えるのが仕事でもある。そんな彼女が奴隷制度の時代に飛ばされて虐待を受ける。なぜなのか?何かの拍子のタイムループなのか、何かの罰なのか、それともただの夢なのか ─
楽しみにしていた『ラストナイト・イン・ソーホー 』(2021)
映画館に観に行きたかったけど諸事情で行けなくてレンタルが始まるのを心待ちにしていた本作『ラストナイト・イン・ソーホー 』。想像していたのとはちょっと違っていた…
ここからはネタバレが
未見の方はご注意を
前半のほとんどを使ってルイジアナの農園を描写。いかに白人農園主による虐待と搾取がひどいかを見せつけられる。脱走者の処刑、処刑された妻の夫はあえて命を助け苦しめる。脱走を手伝ったエデンに対する折檻と焼き印。他にも暴行による流産、その後の自殺など見るに堪えない場面が続く。
だが、これは歴史作品だったか…?ともぞもぞしだした時に、現代アメリカのヴェロニカが登場する。
ルイジアナ農園とは打って変わってきらびやかで優雅で豪華な世界。それらも彼女の努力と家族の協力の賜物であるのだが、よく見るとそれを羨んでいるのか妬んでいるのか分からないが、ヴェロニカをつけ狙い何かを計画している風の男女が。この女をよく見るとルイジアナ農園主の奥様に似ている… これはいったい?
そして乗り込んだタクシーで気を失わされて、そのまま拉致、誘拐。連れて行かれた先があの農園だった。その場面ではスマホで話す将軍の姿が映る。160年も前の時代だというのに?
ここは現代。現代の差別主義者たちが作った農園であり南北戦争以前を真似た奴隷制度を持つ場所だった。タイムリープではなく誘拐されたのだ。それも社会的に成功したヴェロニカは主義者たちに第一の標的として狙われ連れてこられた。他の者も同じでヴェロニカの知り合いもいた。いったい何のために?それは差別主義者だからとしか言いようがない。
ラスト近くエデンに報復を受けた将軍が言っていた。「皆には見えないが、私たちと同じ考えの者は大勢いる」
この作品の訴えるところは、ここなのだろうけれど、最後まで観終わって何か消化不良というか、いったい何のためにこれを作ったのだろうか?とまで考えてしまった。確かに地位と名声とお金を持つカルト集団はいるだろう。けれどこれをホラーまがいの歴史作品風にはじめながらの最後のオチに、ひどくがっかりしてしまった。歴史にもホラーにもカルトにもなり切れずに中途半端で分かりやすいエンディングにがっかりしたのだ。
時々、タイトルには騙されるけど、最近は予告編にも騙されるようになってきたみたい…。劇場公開当時、これも観に行きたいリストに入っていた。2021年10月は『DUNE』だけにしといて正解だった(-.-)
『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021) ~忘却の彼方へ
久しぶりに劇場に足を運ぶために選んだ作品は『DUNE/デューン 砂の惑星』。雄大な砂漠の星で常に続いていく生き残るための戦いが壮大に描かれる。人が造った船や飛行機…