“人間と異物の合体”を題材にすることが多いデヴィッド・クローネンバーグ監督の初期作品。人工皮膚移植を受け、その副作用で腋に吸血器官が出来てしまった女性の悲しい末路を描く。ストーリー自体は難しくないが、監督は何を言おうとしているのか?急速に発展する医療や科学技術に警鐘を鳴らしているのだろうか。主演は美しいポルノ女優のマリリン・チェンバース。
■ラビッド – Rabid -■
1977年/カナダ/91分
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
製作:ジョン・ダニング
製作総指揮:アイヴァン・ライトマン 他
撮影:ルネ・ヴェルジェル
音楽:アイヴァン・ライトマン
出演:
マリリン・チェンバース(ローズ)
フランク・ムーア(ハート)
ジョー・シルヴァー(マレイ・サイファー)
ハワード・リシュパン(Dr.ケロイド)
スーザン・ロマン(ミンディ)
パトリシア・ゲイジ(Ms.ケロイド)
■解説:
「デビッド・クローネンバーグのシーバース」(75)に続いて、現代医学が引き起こす伝染性の災厄を描いたSFホラーで、主演のM・チェンバースは名作ポルノ「グリーンドア」の主演女優。救いようの無い悲劇的なラスト・シーンに至るまで、突き放したかのような客観的な演出が、寒々しい雰囲気に拍車をかける。 (allcinema)
Contents
■あらすじ:
バイク事故で大怪我を負い、人工皮膚の緊急移植手術を受けたローズ。しかしその治療が原因でローズの腋には妙な器官が出現。人間の血を求めるようになる-
rabid :過激な、凶暴な、狂犬病にかかった
見どころと感想
恋人とバイク走行中に事故を起こして大怪我を負い、緊急搬送されたローズ。命を救うにはまだ研究途中の医療技術「中性化皮膚」移植を使うより他ないと判断、手術が行われた。
「中性化皮膚」とは、本人の皮膚をはがし培養、どの部位に移植しても拒絶反応が起きなくなったとされる人工皮膚のこと。しかしこれには副作用があり、腫瘍が出来るリスクが高まるということだった。
ローズの皮膚移植は無事に済み、昏睡から目が覚める。しかしその夜からローズは、身体が“何か”を求めて苦しみのたうち回るようになる。そしてその解決法はすぐに見つかった。
同じ病院に入院する男性に「怖いの」と言って泣いて抱きついた彼女。少しして倒れる男性。その男性には吸血された穴がくっきりと開いていた。ローズには副作用の腫瘍が、それも開いた穴から器官が伸び、人を襲っては吸血するという恐ろしいモノが腋に出来ていたのだ。
恐ろしいのはそれだけでない。吸血され意識を失った人間は、しばらくすると目が覚めるが当時の記憶は無い。しかし潜伏期間の6~8時間を過ぎると、いきなり口から泡を吹き暴力的に手近な人間を襲っては噛み付き血を吸う「狂犬病」のようなものを患い、ほどなく死に至るのだ。
この器官のせいで食事を一切受け付けなくなったローズは恋人ハートの心配をよそに、飢餓感を満足させるため病院を脱走。ヒッチハイクをしながら都心に向かう。手術を受けた病院、乗せてくれたトラックの運転手、入った映画館の客など、犠牲者は次々増え、その犠牲者がまた次の犠牲者を襲う。政府は新手の狂犬病ウィルスとして国民に注意を喚起するが、次々と増殖した吸血人間は止まることを知らず、とうとう街に戒厳令が出る騒ぎとなった。
恋人ハートは、それらの根本的な原因がローズだと確信し、ローズを探して後を追うが-
やっていることが分かっているのかいないのか、無機質な表情で次々と人を襲うローズ。
相手は男性、女性関係ないのだが、腋に開いた切れ目からヌーっと伸び出す器官で人を刺す。これをポルノ女優マリリン・チェンバースに演じさせるというのが、なかなか皮肉っぽくて、監督のユーモアがうかがえる。
この作品は2002年にDVD化、2013年4月26日にレンタルが始まった。TSUTAYA DISCAS
←このジャケットで「なんかいいかも」と感じて、実は楽しみにしていた自分。
でも実際観てみると、この人はローズの犠牲者の一人にすぎず、ちょっとしか出てこない。にも関わらず、このシーンは1970年代の古さを感じない「よい犠牲者の末路シーン」で、このカットを選んだ担当者の眼力に拍手を送りたい。
監督 デビッド・クローネンバーグ
カナダを代表する映画監督・脚本家。独特のボディ・ホラーで有名。
(Wiki:デヴィッド・クローネンバーグ)
多くのテレビ作品を手がけたのち、1975年に肛門から侵入し宿主を操る寄生生物の恐怖を描いた『デビッド・クローネンバーグのシーバース』で劇場映画監督としてデビュー。その後は『ラビッド』(1977年)、『ファイヤーボール』(1979年)、『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(同年)と、順調にキャリアを積む。
1980年、超能力戦を描いた『スキャナーズ』で人気を得る。続く『ヴィデオドローム』(1983年)では興行面こそ奮わなかったが、アンディ・ウォーホールをはじめ業界筋からの評価が高く、ビデオ発売と同時にカルト的人気を博しクローネンバーグは一躍注目作家となる。
■主な監督作
・ステレオ/均衡の遺失 Stereo(1969)
・クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立 Crimes of The Future(1970)
・デビッド・クローネンバーグのシーバース Shivers(1975)
・ラビッド Rabid(1977)
・ファイヤーボール Fast Company(1979)
・ザ・ブルード/怒りのメタファー The Brood (1979)
・スキャナーズ Scanners (1981)
・ヴィデオドローム Videodrome (1982)
・デッドゾーン The Dead Zone (1983)
・ザ・フライ The Fly(1986)
・戦慄の絆 Dead Ringers (1988)
・裸のランチ Naked Lunch(1991)
・エム・バタフライ M. Butterfly (1993)
・クラッシュ Crash (1996)
・イグジステンズ eXistenZ (1999)
・スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする Spider(2002)
・ヒストリー・オブ・バイオレンス A History of Violence (2005)
・イースタン・プロミス Eastern Promises (2007)
・それぞれのシネマ To Each His Own Cinema (2007) オムニバス
・危険なメソッド A Dangerous Method (2011)
・コズモポリス Cosmopolis (2012)
・Maps to the Stars (2014)
『ヴィデオドローム』『裸のランチ』『スキャナーズ』『ザ・フライ』『クラッシュ』『イグジステンズ』など一度は観たんだけれども、特にはじめの2作品については観てからかなり時間が経っているというのもあってか、内容を全然覚えてない・・・
それでも『クラッシュ』『イグジステンズ』は、最近もう一回観たいなーと思っていたので、デヴィッド・リンチと同じく中毒性のある監督だと言える。2005年の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』以降は社会派作品的になって、異物合体ものが減ったのは残念と言えるのかな。
ではまた
このブログのクローネンバーグ
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『コズモポリス』(2012) - Cosmopolis –
ぅわー・・・何を言おうとしているの・・・と思わずつぶやいてしまうストーリー。会話が多くてまるでデヴィッド・リンチ作品みたいと思いながら必死に話を追いかけるが… -
『戦慄の絆』(1988) - Dead Ringers –
さーて、これは何が結合するのか?と思いながら興味ワクワクで観ていくと、、本作では“結合”がテーマではなく“分離”が主題だった。けれども!それには不安が伴いなかな… -
『アンチヴァイラル』(2012) - Antiviral –
え?他人が罹った病気のウイルスが売っている?それを買ってどうする?抗ウイルス剤でも作るのか?って、高いお金を出してそのまま自分に注射しているーー!どうしても…
コメント
コメント一覧 (7件)
初めまして、ラビッドでここに辿り着きました。私も映画大好きなので、また立ち寄らせていただきたくリンクのお願いをさせて下さい、御迷惑でなければよろしくお願いいたします。
如月さん、はじめまして
コメントをありがとうございました。
この作品、リメイクもあったりして、またすこーし脚光を浴びているのかな?古い作品の掘り起こしは映画好きにとっては嬉しい限りですね。
リンクの件、了解です。わざわざご連絡いただきありがとうございます。
私もお邪魔させていただきますね!よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます!
記事内最初の画像では、マッドサイエンティストな話かと予想しますが違うんですよー。
それに「ラビッド」は大きく分けるとゾンビもの、ヴァンパイアものみたいな話ですが、他の作品とはなんか違います。
噛まれる犠牲者については取りあえずそっちのけでパニックものに持って行かず、主役の無表情な奇妙な行動を追っていく話というか、、。
主役の女性が当時流行したであろう「健康的」な美女なので、よけいに妙な生き物になってしまったこととのギャップが際立ちました。
書けば書くほど分かんなくなってしまうクローネンバーグとリンチ作品ですが、ホントに脳腫瘍がうつってしまったのかも[絵文字:i-229]
みなさんオススメの「デッドゾーン」。今度借りてみます!
リンクしていただきありがとうございますm(_ _)m
クローネンバーグ初心者なのにお恥ずかしい限りです・・・。
しろくろShowさんも挙げられてますが私も「デッドゾーン」すごい好きです。
「ラビッド」はまだ未見なのですがmomorexさんの記事から作品のドロッとしたカンジがすごい伝わってきて非常に惹かれました。
クローネンバーグ作品て観てる時はうわー・・・と思うんですが観終わったらもう一本、もう一本と引きずり込まれますよね~。
ホントに頭に腫瘍でもできてるんじゃないかと思います(笑)
ラビッド 【1977年劇場公開作品】
映画です。
間違っても「ラビット関根」ではありません。
えっ! ラビット関根を知らない。
そっかー、もーじじいだなんだなぁ、あちきって。
つまらないことばっかり書い
コメントありがとうございます。
>ジャケ写 当時からすごいインパクトありましたよ~
やっぱりそうですか!いいですよねー、何かこれ。
私は勝手に主人公が自分の悲劇に呆然としているシーンと思ってました。
まさか犠牲者が○っているシーンとは..
>「ヴィデオドローム」「デッドゾーン」「ザ・フライ」
「デッドゾーン」観てないです。若いクリストファー・ウォーケンが主演ですね。
実は本作『ラビッド』の恋人役もクリストファー・ウォーケンと思い込んでて観続けてました。
クリストファー・ウォーケン、ジェフ・ゴールドブラム、ピーター・ウェラーってなんだか神経質そうでいながら、優しさも感じられるところが似てるように思えます。(何より監督に似てますよね!)
それら主役の二面性と仰るとおりドロリとしたストーリーに足を取られて、ヌケられなくなるんでしょうか。
こんにちは、僕はこのジャケ写VHSが出たときに見たんですが「ヒロイン美人じゃないな」って本編見るまで思いっきり勘違いしてました(ーー;) でも当時からすごいインパクトありましたよ~・・・中身も「なんちゅう話や!」という感じでひじょうに楽しかったです(^_^;)
クローネンバーグ映画はハマると抜けられなくなる泥濘(それも重油とかヘドロの混じった重そうな)のような魅力があって大好きでした(手前勝手に三本選べば「ヴィデオドローム」「デッドゾーン」「ザ・フライ」になります)