配信が始まった頃に観たはずなのに感想を書いてなかったので改めて再見してみた。夫婦と子ども5人の家族が体験した恐ろしい幽霊屋敷での出来事にとどまらず、家族の崩壊と20年以上経ってようやく再会できた父親と兄弟姉妹たちの家族再生物語。
■ ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス
– The Haunting of Hill House – ■
2018年/アメリカ/全10話
監督・原案:マイク・フラナガン
原作:シャーリイ・ジャクスン
「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」
出演:
- ミキール・ハースマン(スティーブン・クレイン)
- パクストン・シングルトン(スティーブン・クレイン)
- カーラ・グギノ(オリビア・クレイン)
- ティモシー・ハットン(ヒュー・クレイン)
- ヘンリー・トーマス(ヒュー・クレイン)
- エリザベス・リーサー(シャーリー・クレイン)
- ルル・ウィルソン(シャーリー・クレイン)
- オリヴァー・ジャクソン=コーエン(ルーク・クレイン)
- ジュリアン・ヒリアード(ルーク・クレイン)
- ケイト・シーゲル(テオドラ・”テオ”・クレイン)
- マッケナ・グレイス(テオドラ・”テオ”・クレイン)
- ヴィクトリア・ぺドレッティ(ネル・クレイン)
- ヴァイオレット・マックグロー(ネル・クレイン)
各話タイトル:
- スティーブンが見る霊
- 棺の中
- 触れるだけで
- 双子だから
- 首折れ女
- 嵐の二夜
- 追悼
- ウィットネスマーク
- 錯乱状態
- ひっそりと佇む静寂
■解説:
数々の怪奇現象を体験した家から引っ越した一家。だが、決して消えることのない凄惨な記憶が、過去と現在の狭間に揺れる家族の心と体をむしばんでいく…。Netflix:ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス
Contents
あらすじ
スランプに陥った怪奇小説家スティーブン・クレインは新しい作品のために怪奇現象を取材する毎日を送っていた。彼を有名にした一番のヒット作は実在の幽霊屋敷にまつわるある家族の物語。それは作家スティーブンの自叙伝でもあり家族の赤裸々なドキュメンタリーでもあった。
そんなある日、一番下の妹ネルから電話が入るが仕事中でとれず折り返すも留守電に。その電話からスティーブンを含む5人の兄弟姉妹たちにまたもや不可思議な出来事が起こり始める ─
感想と見どころ
そもそもクレイン一家がなぜ“ヘルハウス”と呼ばれている幽霊屋敷に引っ越してきたのか?それは追々詳しく分かってくるのだが、修復と設計のプロ夫婦が家を安く買い取りリノベーションを施して高く転売することを目論んだからなのだった。彼らはここが幽霊屋敷と知っていたのか?それは分からない。けれど例え知っていたとしても、そんなの気にしていなかったようだ。移り住んで2カ月でリノベーションを完成させる気だったようだから、例え幽霊が出たとしても少しの我慢だと思っていたに違いない。
彼らがこの家に引っ越してくる様子は実は最後の第10話で描かれる。このドラマは20数年前のこの引越の時から、子どもたちが大人になり問題を抱え悩み苦しみながら生きている現代の間を行ったり来たりしながら進められていく。幽霊屋敷でのことの顛末を全て把握している父親を除いて、5人の子どもたちはあの屋敷で起きたこと、その後自分に起き続ける現象、それによる精神的疲弊などに時に立ち向かうも翻弄され、不安定な毎日を送っている。
友達に、知り合いに、世間に言っていいことと悪いこと。これを言えば変な目で見られると思い込んでいること。けれど自分の中にしまい込むには大き過ぎて思わず大声で叫び出しそうになること。彼ら5人はそれをお互い相談することもなく各々で胸にしまってきた、しまい込んでしまおうとしてきた。それに失敗しクスリに逃げてしまったのがルークであり、家族に秘密のまま「本」という媒体に自ら吐露し吐き出したのが長兄のスティーブンだった。
少しの間暮らした幽霊屋敷の怪奇現象は人によって様々。夜中の物音や人の気配などは当たり前で、大人になってもその恐怖に苛まれ続けているルークが見たモノはひょろりと背の高いステッキを持つシルクハットの老人だ。床から少し浮いたまま宙を滑るように移動し自分を探しに来る様子は子どもじゃなくても息が止まるほどに恐ろしい(これが一番の管理人お気に入り)。ルークの双子の妹ネルを襲うのは髪の長い“首折れ女”。青白い顔、恨むような白い目、異常なほど首を片方に曲げ迫って来る。ネルは大人になっても度々それを目撃し苦しめられる。
他にも決して開かない赤いドアの部屋“レッド・ルーム”や元の持ち主ヒル家の病に伏す老婆などなど幽霊屋敷に出てくるほとんどのゴーストや怪奇現象は登場したのではないだろうか。けれどクレイン夫妻はなんとか子どもたちを落ち着かせ(実はその場限りではある)、リノベーションを進めていく。そうであったのに逃げるように子どもたちを車に乗せ屋敷を去って行った父親ヒューは何を見たのか?何が起きたのか?
引っ越してきた時にはごく普通の現代女性だった妻のオリビアは何故、この屋敷で暮らすようになってからはクラシックな服装を好むようになったのか?
これらは意外な人物により過去実際に起きた話として語られることになっている。歴史ある建物に絡みつくように隠されている物語。それらは、ここ「ヒルハウス」の住人だけが知り得、紡いでいくことが出来る物語なのだ。それを幽霊屋敷だからと安く購入し、現代風にアレンジして儲けようなどとする者にこの歴史を壊す資格など無い。この屋敷“ヒルハウス”は元のまま、そのままの姿で存在し自然に朽ち果てるのを待つのみ。それが屋敷とそこに憑りつく者たちの願いなのだ。
さいごに
両親に起きたこと、子どもたちが幼い頃体験した超常現象、大人になってさえも起き続ける不可思議な事象、精神的な苦しみ等々はその原因と結果が見事に回収され収まるところに収まっていく作りになっており、狂いの無い納得できる物語は秀逸と言える。いつまでも変わらないカーラ・グギノともども、見どころがたっぷりのお勧めホラーだ。
原作 シャーリイ・ジャクスン
アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ生まれの作家。日常と非日常の境界、日常生活のなかの人間心理の異質さを描く作風で知られる。
Wikipedia:シャーリイ・ジャクスン
主な著作
- 壁の向こうへ続く道(1948)
- 絞首人(1951)
- 処刑人(1951)
- 鳥の巣(1954)
- 日時計(1958)
- ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス(1959)
- 山荘綺談
- たたり
- 丘の屋敷
- ずっとお城で暮らしてる(1962) 他短編多数
「山荘綺談」は『たたり』(1963/監督ロバート・ワイズ)、『ホーンティング』(1999/監督ヤン・デ・ボン)、「ずっとお城で暮らしてる」は『ずっとお城で暮らしてる』(2018/監督ステイシー・パッソン)として映画化されている。
『ずっとお城で暮らしてる』 (2019)
タイトルだけで選んでみたシリーズ。「不思議な国のアリス」的なファンタジーかと思ってたら違ってた(また)。代々受け継がれてきた大きな屋敷に暮らす姉妹が、世間知…
『たたり』と言えば上記1963年の作品は観たことがないままに観た大好きなホラー映画『TATARI タタリ』(1999/監督ウィリアム・マローン)がある。こちらは『たたり』とは全く関係なくて『地獄へつゞく部屋』(1959/監督ウィリアム・キャッスル)のリメイク作品だ。私の好きな「廃病院、マッド・サイエンティスト、死霊、閉じ込められる」などが満載の脱出ホラー劇であります。A24と同じくお気に入りの「ダーク・キャッスル・エンターテインメント」が制作してる作品で、他にはあの楽しいホラー・コメディ『13ゴースト』や『ゴーストシップ』『ゴシカ』『蝋人形の館』などがあるよ。当時、どれも好きだったな~
『13ゴースト』(2001) - Thir13en Ghosts –
登場する13人のゴースト達の造形がツボにはまるこの作品大好きなんですよね。それぞれに理由があって現世に生きる人間達を憎悪し、恨み、攻撃してくる凶暴なゴースト達…