タイトルだけで選んでみたシリーズ。「不思議な国のアリス」的なファンタジーかと思ってたら違ってた(また)。代々受け継がれてきた大きな屋敷に暮らす姉妹が、世間知らずさゆえに巻き込まれた大きなトラブル。でも単純な被害者とは言えない二人のあどけなさと恐ろしさ。よく考えるとやっぱりアリスか…
■ ずっとお城で暮らしてる
– We Have Always Lived in the Castle – ■
2019年/アメリカ/96分
監督:ステイシー・パッソン
脚本:マーク・クルーガー
原作:シャーリー・ジャクソン
「ずっとお城で暮らしてる」
製作:ジャレッド・イアン・ゴールドマン他
撮影:ピアーズ・マクグレイル
音楽:アンドリュー・ヒューイット
出演:
タイッサ・ファーミガ(メリキャット)
アレクサンドラ・ダダリオ(コンスタンス)
クリスピン・グローバー(伯父ジュリアン)
セバスチャン・スタン(チャールズ)
■解説:
シャリー・ジャクソンの同名小説を映画化したサスペンススリラー。
■あらすじ:
18歳のメリキャットは、田舎に建つ大きな屋敷で、姉コンスタンスや体の不自由な伯父ジュリアンと暮らしている。姉妹の両親は6年前に毒殺されてしまった。彼女たちは村の住人から忌み嫌われており、メリキャットは1人で魔法などの妄想をして現実逃避することが多くなっていた。ある日、姉妹の従兄チャールズが屋敷を訪れ、しばらく滞在することになるが ─映画.com
Contents
丘に建つブラックウッドの屋敷
地方の丘の上に建つお城のような邸宅。そこにひっそりと暮らす若い姉妹と伯父。それは何故かというと、6年前に二人の両親を含む家族が毒殺されたからだ。それも容疑者は姉妹の姉で、育ちの良さから収監されることなく裁判後に屋敷に戻ってきた。
このブラックウッド家はそれまでも裕福なことを妬まれ、村人たちから良く思われていなかったのに、守るべき両親が他界してからというもの忌み嫌われるようになり、週に一度の買い物の時に大人からは無視され、子どもたちからはからかわれる始末。
それでも妹のメリキャットは姉のために毎週火曜日に村へ買い物に行く。背中を丸め、足早に歩く彼女に襲い掛かる村人たちの冷たい視線。ひそひそ声やからかいが背後から容赦なく追いかけてくる。
買い物に出るのはいつもメリキャットで、この村人の仕打ちを知るのも彼女のみ。メリキャットは人の「邪悪さ」を骨身に染みて感じていた。反対に人は「善意」でできていると信じる姉。そんな姉に村の人の話をしても信じてくれないか、がっかりするかなのでメリキャットはこのことを姉には話さない。
その代わりのストレス発散方法は、憎い相手に不幸がふりかかる魔法がきくように、相手の物を念じながら土に埋めていく。そんなことをまだやっている幼いメリキャット。埋めたブツはどんどん増える一方だった。
そんなある日、従妹のチャールズという男が突然訪ねてくる。善意の塊、姉のコンスタンスは歓待したが、メリキャットは彼から立ち上る胡散臭さに戸惑いを隠せない。亡くなった父の部屋を使い、父の服を着、姉コンスタンスの名を大きな声で呼び、小間使いのように使うチャールズ。
姉と伯父との静かな毎日が大きく破壊されていく。土に埋める物がますます増えていく。
火事
そしてとうとう、メリキャットは爆発した。
姉を取られた寂しさと、胡散臭いチャールズへの怒りが頂点に達した。だからと言って、魔法や超能力を使って屋敷を吹き飛ばしチャールズを懲らしめたのではない。チャールズの煙草の不始末を装って、ゴミ箱に火をつけたのだ ─
実はここからが、恐ろしい。
豪奢な館が火に包まれたからなのか、燃え盛る炎をまじかで見たからなのか、村の人々の邪悪さも爆発する。今まで我慢してきたこと、羨んできたこと、妬んできたことがそのまま行動となって現れる。
これより下はネタバレあり
未見の方はご注意を
と言っても、このシーン今までにも見たことがある。
日頃の不満や鬱憤を払いに徒党となって村人たちが押し寄せる先と言えば、、フランケンシュタイン城(『フランケンシュタイン』)や野獣の城(『美女と野獣』)、ヴェルサイユ宮殿(フランス革命)などがあった。
今回、火の手が上がったブラックウッドの屋敷にもあっという間に村人たちが大勢見物に集まって、屋敷の中の家具や調度品を略奪していく。隠れていた姉妹も外に連れ出され、あわや暴行を受けそうになるが、肝心のチャールズは屋敷の金庫をなんとか開けようとしていたものの、無理と分かるやとっとと逃げてその場にいない。
暴動とまではいかずに案外すぐに落ち着いたので姉妹は助かったが、時々起きる暴動の始まりを見た気がした。
その後も半焼半壊の屋敷に住み続ける姉妹の元に、村人たちは申し訳なかったと玄関先に次々と料理を持ってきた。子どもたちは相変わらずからかいに来てメリキャットが追い返していたが、玄関前の料理には手も付けない。姉妹二人して冷ややかに眺めるのみだ。今までの恨みがあるからなのだろうとも思えるが、ここで、やはり二人には特権意識的なものがあったのか、と少し感じてしまった。
そしてラスト近く。
ここにきて初めて二人と家族の過去に関する秘密の会話がなされる。姉妹は今まで、なるべく6年前までの話はしないようにしてきた。だから観ているこちら側にほとんど分からなかったのだが…。
姉妹の秘密
姉は父親に虐待されていた(内容は分からない)。それを見ていた妹は父親や家族に怒りを感じていた。そしてある時、爆発し、ディナーの席に置かれていた砂糖入れに毒薬を混ぜ込んだのだ。自分はまだ幼く部屋にいた。姉は砂糖を使わないのを知っていた。そのディナーで唯一生き残れたのは、障害が残った伯父ジュリアンのみ。その後、姉が罪を被り裁判となったが、結局はお咎めなしに。
この秘密がわかるまでは、世間知らずの姉を妹が守っている、という図式のみで物語が進んできていた。何しろ、ナレーションは妹メリキャットだし。けれども実は姉は世間知らずのふりをしているだけなのか?と思えてきた。チャールズと結婚し、伯父と妹を見捨ててイタリアに行こうとしていたのは、計算ずくなのでは?チャールズが胡散臭いのも分かっていての寸劇なのでは?と。この屋敷に囚われたまま自分の美しさを腐らせたくないと思っているのでは。父親の虐待話も事実は分からない。妹は姉の話を聞いただけだ。
今後も妹は姉を守るために命も惜しまないだろう。けれど、本当にそれは報われるのだろうか …?
世間知らずなのは半ば魔法を信じている妹だけなのでは?