A24製作・配給だからきっと面白いに違いない、きっとだ!と信じていたアレックス・ガーランド監督『MEN 同じ顔の男たち』。やっぱり間違っていなかった。途中A24らしさを出しながらラストへ突き進む道筋は一筋縄でいかない系の物語であり、色々と考えさせられるオチが待っている。
■ MEN 同じ顔の男たち – Men – ■
2022年/イギリス・アメリカ/100分
監督:アレックス・ガーランド
脚本:アレックス・ガーランド
製作:アンドリュー・マクドナルド他
撮影:ロブ・ハーディ
音楽:ベン・ソーリズブリー他
出演:
ジェシー・バックリー(ハーパー)
ロリー・キニア(ジェフリー)
パーパ・エッシードゥ(ジェームズ)
ゲイル・ランキン(ライリー)
■解説:
「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手がけ、「ロスト・ドーター」のジェシー・バックリー主演で描くサスペンススリラー。映画.com
アレックス・ガーランド監督作という事で、過去作でもあったような生々しさを伴う大自然を背景に描かれる本作『MEN 同じ顔の男たち』。特にこの作品は「男性 vs 女性」が原点の物語で、お互い逃げることができない生物としての宿命のようなものが感じられる。
主人公はロンドンで暮らす女性ハーパー。物語は目の前で夫を亡くした彼女が傷心を癒すために滞在した、地方の豪奢なカントリーハウス「コットソン・マナー」で巻き起こってしまった一連の不可思議な現象を描いていく。
都会ロンドンから高速道路を走り草原を抜け、森をバックにしたがえた築数百年のお屋敷へ。古いながらも管理の行き届いた建物、バラの咲く庭、いかにもな田舎の管理人ジェフリー、少し先にはパブがある。都会とは決定的に違う空気感と自分だけの貴重な時間。彼女はこの世界観をとても気に入る。
けれどこれはA24製作、そして監督はアレックス・ガーランド。
いつも自然が人間の味方とは限らない。そもそも自然は人の仲間ではない。そしてこの作品のこの村には同じ顔の男がたくさん登場することが分かっている。いや、同じ顔の男しか登場しないことが分かっている。これではっと思い出したのが『マトリックス リローデッド』のエージェント・スミス。だからこれがSF系の物語だと思い込んでいたのかもしれなくて、冒頭の自然の中で和む主人公に、いつどうやって無機質な何かが襲い来るのかと考えながら観ていた。
が、
田舎のおじさん管理人の次に登場したのは自然に溶け込んだかのように苔にまみれた(実際は汚れていただけのようだが)緑のおじさんだった。森から屋敷までハーパーの後を付いてきたかのように現れる緑のおじさん。裸体で家を覗いていたのだがら彼女じゃなくても恐怖する。この事だけで“ストーカー”だと警察に説明する彼女はいかにも都会の女性だが、気持ちも分からないでない。
だが彼女を恐怖させるのはこの事だけではない。彼女を追い詰めることになったそもそものきっかけはロンドンにあった。それを少しでも忘れるために、これからをやり直すために、前向きになれるように訪れた地方の村コットソン。なのに些細なことが忘れたい記憶を彼女に思い出させる。まるで今、目の前で起きているかのように何度も反芻させるのだ、恐怖の記憶を。いや恐怖ではない。
“怒り”の記憶だ。
観る前は全く同じ顔をしたエージェント・スミスが何人も何人も出てくるのかと思っていたが、本作の「同じ顔をした男たち」は年齢も職業も髪型も様々な男たちからなっている。まるでよく似た親子、兄弟のようだが、その彼ら全員が親切、慇懃であるものの結局はハーパーに意見し、彼女の心を追い詰める。だがそれはジェフリーが予言した通り、この屋敷に着いた時に庭の木に熟していたりんごをかじった彼女の、既に決まっていた運命であると言える。例えそれが彼女の思い込みであったとしても。
全てを夫のせいにして怒りを持ってこの村にやって来たハーパー。
教会に座っていた少年に悪態をつかれた後、司祭に「夫に謝罪する時間を与えたか?」と痛いところをつかれた彼女は司祭に悪態をつく。そこからは村の人々の行動は彼女を苛立たせ誰も信用できない。彼らは全て彼女を苦しめ怒らせる者たち。そこに違いは無いのだ。全て同じ、個性の無い“自分を怒らせ苛立たせる者”。こうなったら彼らに見た目の違いは一切必要ない。被害者意識が彼女の孤独をより一層ひどくさせ、唯一、ここで自分の心を穏やかにしてくれた自然でさえ彼女の敵となる。
彼らの片手は夫と同じく二つに割れ、大怪我の足を引きずってでも彼女に追いすがる。
けれど彼女はどう?ロンドンから到着した時の都会らしいトレンチコートとパンツの姿から、胸の谷間もあらわなピンクのドレスを着ている。この姿で男性全体を毛嫌いしたかのような態度をとるのはどうなのだろうか?彼女は自分の本心にも気が付いていない。
自分のことも正しく理解していない女性と同じ顔の男たちは決して交わることはない。何度考え直そうともがいたところで分かり合えるはずもない。それは他人の庭のりんごを勝手にかじった時に決まっていたのだ。ゆえにそのままのラストを迎えることとなる。何度生まれ変わっても彼はハーパーにとって不要な人物なのだ。
ところで、最後。
訪れたライリーはどう感じたのだろうか?自分を見つけ微笑む友人を見て。
私には精神が不安定な
殺人鬼にしか見えなったけど
監督アレックス・ガーランド
イングランドの小説家、脚本家、映画プロデューサー、映画監督である。ダニー・ボイル監督とのコラボレーションで知られている。
Wikipedia
■主な作品
- ザ・ビーチ(2000/原作)
- 28日後…(2002/脚本)
- テッセラクト(2003/原作)
- 28週後…(2007/製作総指揮)
- サンシャイン 2057(2007/脚本)
- わたしを離さないで(2010/脚本・製作総指揮)
- ジャッジ・ドレッド(2012/脚本・製作)
- ビッグゲーム 大統領と少年ハンター(2014/製作総指揮)
- エクス・マキナ(2015/監督・脚本)
- アナイアレイション -全滅領域-(2018/監督・脚本)
- MEN 同じ顔の男たち(2022/監督・脚本)
『わたしを離さないで』(2010) - Never Let Me Go –
この命は、誰かのために。 この心は、わたしのために。 ■ わたしを離さないで – Never Let Me Go – ■ 2010年/イギリス、アメリカ/105分 監督:マーク・ロマネク 原作:…
『ザ・ビーチ』 (2000) - The Beach
もうすぐ公開のシャマラン監督『オールド』予告編を見て、あっと思い出したのが本作『ザ・ビーチ』。もしかして同じ場所?って思ったけどそれは違ってた(‘ω’) ディカプリオ的にはあの『タイタニック』の少し後の作品となる。印象的な音楽はMoby「Porcelain」。