内なる罪『ロスト・ボディ ~消失~』(2020)

誰も気が付かず、何も言われないとしても自分は騙せない。成功した男が出会った女性の目的はいったい何なのか?昨日の『ナイトメア・アリー』に引き続きまたもやサイコスリラー映画の登場。規模は小さくこじんまりしているけれど、主人公の行き着く先は同じかも…(ー_ー) 最後にネタバレ付き

■ ロスト・ボディ ~消失~  – Cosmetica del enemigo – ■

Cosmetica-de- enemigo

2020年/スペイン・ドイツ・フランス/88分
監督:キケ・マイーヨ
製作:ボルフガンク・ミューラー他
原作:アメリ・ノートン

出演:
トマシュ・コット
アシーナ・ストラテス
マルタ・ニエト
ドミニク・ピノン

■解説:
「EVA エヴァ」で注目を集めたスペインのキケ・マイーヨ監督が、ベルギーの作家アメリ・ノートンのベストセラー小説を映画化したサイコサスペンス。

映画.com


ロスト・ボディ』っていう2012年のスペイン映画があるのだけど、これはそのタイトル通り“消えた死体”の物語。で、今回の『ロスト・ボディ ~消失~』はどうなのかって言うと、空港でしつこく喋りかけてくる奇妙な女性と成功した建築家がどう関わってくるのかでラスト近くまで進んでいくから、全く「ロスト・ボディ」についてはほとんど謎のまま。ラストに起きる怒涛の展開でネタあかしされていくという、ある意味正当なサスペンス物語。

Contents

あらすじ

成功した建築家ジェレミーはパリでの講演を終えてワルシャワに戻るため空港を目指す途中で、タクシーが掴まらず困っている女性を同乗させてやる。折しも大雨の中、道は渋滞し、飛行機に乗り遅れた二人は空港のロビーで再対面。おしゃべりな彼女テセル・テクスターがジェレミーに親しげに話しかける。
その内容は、彼女の不幸な子ども時代に始まり、家を飛び出した話、墓地で出会った素敵な女性に声をかけ襲った話にまで展開していく。面倒に思いながら相槌を打っていたジェレミーだったが、思うようにならないその墓地の女性を殺してしまった話になった時、ジェレミーはテセルの語る物語から離れられなくなる ─

Cosmetica-de- enemigo

感想

全く知らない国籍さえ違う赤の他人との雑談。興味のある内容であれば知らない世界を垣間見ることが出来て楽しいだろう。だが、あまりの個人的な内容、それも複雑な不幸話しを聞かされても対応に困る。それが若い女性ならなおさらだ。

テセルの話の内容は全く相槌にも困るものだった。トレーラーハウスで母親とその男との生活。小汚く太った食べるばかりの男、子どもへの厳しいバツ、男にだらしない母親、そんな家を若くで飛び出しパリに逃げた話。
ここまではまだよかったが、ここから先は知らない他人の個人的な趣味や素行が絡んでくる。ジェレミーじゃなくても全く聞きたくない。

けれどおしゃべり好きのテセルは話が上手だ。もうやめて欲しいと思ってもついつい話に引き込まれ、墓地の女性の話になったときには時既に遅し。テセルの犯罪現場を見せつけられたようなものだ。その墓地から続く犯罪を告白されてジェレミーはどう思ったか?

彼女との関わりを無くすべくその場を離れようとする?警察への出頭を促す?これはどちらも成功した社会人なら普通の対応だろう。彼女の話に興味を持ち、続きを聞き始める?これも中にはあるかもしれない。逃げ出したくても興味本位が買ってしまう人の性の一つでもある。

けれどジェレミーは違った。「いったい君は何者か?」と攻撃的に怒り出した。なぜ?

ここから温厚で落ち着いた大人の成功者であったはずのジェレミーが、何故か声を荒らげ暴力も厭わない男へと変貌。訳の分からない話で自分を混乱させるテセルに対して攻撃的になっていく。テセルはもしいるとしたらジェレミーの娘ほどの年なのに、そんな小娘相手にいったい何が彼を激怒させるのか ─

ここからはラストまで怒涛の展開が続き、秘密が暴かれていくわけですが、流石にこれは想像し難い結末ではあるけれど、途中途中のジェレミーの様子と周囲に起きる何か奇妙な現象を見逃さなければ、後になって“なるほどね”ってなるに違いない。外見通りおしゃべりがひどくがさつなテセルをジェレミーと一緒にうざったくただ眺めていたんでは楽しめないよ。
どちらにせよ、新しい視点からの真実の掘り起こし展開は、こちらはとても楽しめました。

ちょっとネタバレ

未見の方はご注意を

犯罪を犯した街パリに出向いたことで、忘れていた(忘れようとしていた)過去が、深層心理の中で蘇ったジェレミー。それはもちろん当たり前の心理状態だ。大きな犯罪を犯したのだから。
彼は認めないかもしれないが、遺体を隠すことで無かったことにした(ロスト・ボディ)事実は、パリの街で違う形になって蘇る。それは妻のお腹にいたであろう、産まれなかった自分の子どもの姿をとった。娘となって現れた罪の塊は彼の犯罪のすべてを、どうしてそんなひどい人間になったのかまでを合わせて彼に事細かに語りかける。
「殺していない、いなくなっただけ」と自分に思い込ませて生きてきた彼が自分の犯罪を再度、追体験することになったのだから、今後まともな精神状態でいられるはずもない。

オープニングとエンドロールは、全くそのままの秘密の演出でしたね。ちょっと濃度が薄い感じだけどね(゚∀゚)

Cosmetica-de- enemigo

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