『箪笥』〈たんす〉(2003) - A Tale of Two Sisters –

父親と継母、そして2人の姉妹。不協和音を奏でる屋敷の中で、4人が紡ぎ出したものとはー

■ 箪笥〈たんす〉 ■

A Tale of Two Sisters_00_1
2003年/韓国/115分
監督:キム・ジウン
出演
イム・スジョン (スミ)
ムン・グニョン (スヨン)
ヨム・ジョンア (ウンジュ)
キム・ガプス  (ムヒョン)

解説:
韓国の古典怪談である『薔花紅蓮伝』の6度目の映画化。2009年に『ゲスト』という題名でハリウッドでリメイクされた。

あらすじ:
A Tale of Two Sisters_05仲のいい姉妹、スミとスヨン。
母親を亡くし、しばらく静養していたが、ようやく家に戻ることが出来た2人。しかしそこは、かつての我が家ではなく、父親の後妻である継母ウンジュが取り仕切る屋敷となっていた。
継母ウンジュに反抗し、敵意を隠そうともしない姉スミ。事あるごとにウンジュにお仕置きをされ、怯えている妹スヨン。そして何も口を出さず、たんたんと毎日を過ごす父親ムヒョン。幸せとはほど遠い、家族とは名ばかりの4人が住む屋敷。
そんなある夜、スヨンが部屋のドアを開ける不気味な手を目撃した事を皮切りに、恐ろしい現象が姉妹を襲い始める-


A Tale of Two Sisters_04郊外の湖畔に建つレトロな屋敷。そこがスミとスヨンが暮らす家だ。
しかし母親が病に倒れ伏せりがちになり、屋敷はどんどん陰鬱な影に覆われていく。医者である父親は妻のために看護師を付け看病していたが、その甲斐も無く母親は亡くなった。
気丈な姉スミと大人しい妹スヨン、2人を残して-。


A Tale of Two Sisters_11本作は、そんな2人が久しぶりに我が家に戻って来るところから始まる。
久しぶりの我が家は、母親が生きていた頃とは全く違っており、現在この家を他の誰かが取り仕切っていることが伺える。
今の女主人は若い継母ウンジュ。
笑顔で2人を出迎えるウンジュだったが、その表情には氷のような冷たさが宿る。ウンジュは2人の母親の看護師であった。
ウンジュのことをよく思わないスミは、その敵対心を隠そうともせず継母に反抗する。横で見ている妹はあたふたして2人の顔色を窺うばかり。父親は妻と娘の間に入ろうともせず、言葉少なに毎日を過ごすだけ。
そんな父親に不満一杯のスミは、ついきつい口調で父親に対するが、それは愛情の裏返しであった。

また、この屋敷が以前と違うのは、調度品やカーテンばかりでは無い。
陽光降り注ぐ屋外とは対照的に、屋敷の中は暗く、長い影があちこちに伸びている。

A Tale of Two Sisters_16そして書くつもりで持ってきた日記のセットが既にスミの机に置かれてあったり、クローゼットには同じ服が何十着もかけられている。父親は妻のウンジュに触れようとせず冷たく接し、皆に隠れるように女性と思われる相手に親しげに電話で連絡している。
家族が集う食事は、母親が生きていた頃の暖かいものでは無く、会話も無い。まるで拷問のようだ。

そんなギクシャクした家族が暮らす屋敷で、ある夜、スヨンが自分の部屋の扉を音も無く開ける女の指を目撃する。恐がり姉の部屋へ逃げ込んだスヨンだったが、これ以降、不気味な事がこの屋敷で頻繁に起きるようになる。
スミは自分の部屋で女の幽霊を目撃し、ウンジュはキッチンで少女の霊を見てしまう。皆が次第に情緒不安定になっていき、会話もかみ合わず、それぞれが持つ不満や怒りが頂点へと達する-。


A Tale of Two Sisters_06本作は、このあたりまではホラーちっくなミステリーとして進行し、
 誰が誰をいじめているのか?
 欺いているのか?
 陥れようとしているのか?
 何かの復讐なのか?
 サイコは誰だ?
と緊張感のある場面がどんどん続いていく。
自然が一杯で陽光溢れる屋外と、人のどろどろした感情が渦巻く屋敷の中との対比も素晴らしく、それはそのまま純朴で大人しい妹スヨンと、激しい気性を持つ姉スミを表しているようだ。

A Tale of Two Sisters_33屋敷は今や継母ウンジュが支配しているようだが、渦巻く怨念のような激しい感情は、果たして誰のものなのか?
爆発寸前の感情を持ちながら、スミと父親、スミと継母、父親と継母には距離感があり、決して触れ合おうとはしない。スミがそれを許しているのは妹スヨンだけだ。では何がスミをそうさせるのか。
それらは、物語最後に語られ、これまでにあった恐ろしい不可思議な出来事の全てが説明される。

韓国ホラーはたくさん製作されているが、一番のお気に入りは本作『箪笥』。
どぎついカラーやシーンも無く、音楽に乗せ流れるように進む序盤シーンは市川崑監督『犬神家の一族(1976)』(原作:横溝正史)を彷彿とさせ、美しい。『犬神家の一族』が息子を愛する母親の物語であったように、本作『箪笥』は母親を亡くした姉妹の悲しみと、妹を愛する姉の話と見せかけて、実は父親を愛する娘の物語だ。ではその愛情が、どういった結末をもたらしたのか?
それは観てのお楽しみ。

ではまた

ハリウッドリメイク版

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コメント

コメント一覧 (4件)

  • いつもありがとうございます。
    思い出して頂いて光栄です。
     
    今年の夏は「ホラー特集」を放送していたところがあって、割とたくさんの
    ホラー映画を楽しめましたが、この『箪笥』が1等賞でした。
    じめじめした恐怖感と人間の狂気で、ゾッとさせてもらいました。
    しろくろshowさんの記事を楽しみにしています。
    (ネタバレ出来ない作品は大変ですよね)
     
    『アジョシ』かなぶんさんに続いてしろくろshowさんもお勧めなんですね。
    食わず嫌いせずに観てみようかなー..。

  • こんばんは、遅まきながらですがおじゃまいたします。
     
    実は僕も夕べようやく見たのですが、思っていた以上に良かったので「そういえばmomorexさんが少し前に書いてたな」と思いだし、こちらの方にやって参りました(ーー;)
     
    久しぶりにホラー系で本気で面白いと思いましたねえ・・・(ウンジュの存在感が効いてたように感じました)
     
    かなぶんさんがコメントしておられる「アジョシ」も少し前に見てめっちゃハマったのですが、韓国映画で2本も続けて当たりに出くわすとは自分でもビックリしています(ほんと滅多に見ないので)
     
    「箪笥」はそのうち自分のブログにも記事をアップしようと思っていますが、ネタバレせずに感想書くの難しい映画でしたね(^_^;)今からどう書こうか悩みちう・・・

  • コメントありがとうございます。
     
    この『箪笥』はオカルトものや、サイコものがお好きなら超お勧めです!
    この記事では、内容の半分も書いていないので、ご安心を。
     
    >韓国はホラーとかバイオレンスとか、たまに凄いのが来ますね~
    同感です。『殺人の追憶』でしたっけ。あれも面白かったです。
    また遊びにいらしてくださいね。私もお邪魔させて頂きます。

  •  momorex様
     コメント失礼します。
     
     この作品、タイトル位しか知らなかったんですが、記事を読んだら、興味が湧いてきましたよ!超自然的なホラーか、サイコものか、どちらなのか気になりますね~。
     韓国はホラーとかバイオレンスとか、たまに凄いのが来ますね~。「アジョシ」とか…。
     
     また遊びに来ます!

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