『トールマン』(2012) - The Tall Man –

The Tall Man_04sあの『マーターズ』監督P・ロジェの最新作。普通はここで終わるよね?と思わせるような何段階にも分かれた舞台設定に驚かされ、驚愕のラストに度肝を抜かれた『マーターズ』だったが、本作では“まさか、ここで終わらないよね?”と謎が謎を呼ぶ物語に。一言だけ言っておきましょう。これはホラーではありません。
 

The Tall Man_02
■トールマン – The Tall Man -■
2012年/アメリカ・カナダ・フランス/106分
監督・脚本:パスカル・ロジェ
製作:ジーン=チャールズ・レヴィ 他
製作総指揮:
撮影:カマル・ダーカウイ
音楽:トッド・ブライアントン
出演:
ジェシカ・ビール(ジュリア)
ジョデル・フェルランド(ジェニー)
スティーヴン・マクハティ(ドッド捜査官)
サマンサ・フェリス(トレイシー)
ウィリアム・B・デーヴィス(チェスナット)
ジェイコブ・デイヴィーズ(デヴィッド)
 

解説:
町から子どもがいなくなる……。謎の男《トールマン》が子どもを隠すという噂のある田舎町で、消えたわが子を捜す母親の奔走を描く。ショッキングホラー「マーターズ」で一躍注目を浴びたフランス出身の気鋭監督、P・ロジェが放った新たな戦慄スリラー。(WOWOW)

あらすじ:
鉱山が閉鎖され、すっかり寂れてしまった町コールド・ロック。ここでは最近、立て続けに幼い子供が失踪する事件が続いていた。目撃証言などからフードを被った男《トールマン》の仕業だと噂されていたが、その正体は分からずじまいで警察もお手上げ状態だった。そしてとうとう、この町の看護師ジュリアの息子が誘拐される。必死に犯人の車を追いかけた彼女だったが-
 


てっきり《ブギーマン》系のホラーだと思い込んでいた(結構こういうのが多い)管理人。なかなかレンタルできなくて悲しい思いをしていたところに、あのWOWOW様がサスペンス月間特集として放送。あまりの嬉しさに何故、8月のホラー特集では無いのかということに考えは及ばなかったが..。
 
Martyrs_Movie2008パスカル・ロジェ監督といえば『マーターズ』。次々と折り重なるように展開していくストーリーに、まるで3本ほどの映画を観たような満足感とラストの衝撃で、忘れることができない1本となった。
そして本作『トールマン』。次々と思ってもみない方向に展開していく物語性は同じだが、ラストの衝撃度は低い。ラスボスの破壊力もそうでもなかったが、不条理なモノに対する怒りを感じたのは同じだった。そんなモノに巻き込まれてしまった子供達。しかし本作の場合は、それが不幸だったのか、といえば一概にはそうとも言えず、考えさせられることになる(『マーターズ』のラスボスは「絶対許せん!」レベルだったからね)。
 

The Tall Man_17第一部
寂れた町コールド・ロック。
その名前からして寒々しいが、鉱山の町として華やいでいた活気は今は無い。人々はどんどん町を離れ、それでも残っているのは廃屋のような家やトレーラーに住むわずかな人々。そんな町で看護師を務めるジュリア。以前は医師である夫の助手であったが、夫が急逝。その後も町に残った。町の人々とは顔なじみであり、信頼もある。町外れの邸宅に幼い息子とベビーシッターの3人暮らし。生きがいは仕事であり、愛する息子の存在だった。

The Tall Man_13しかしこの町では最近、立て続けに幼い子供が誘拐されるという事件が起きていた。その数15人以上。警察の捜査もむなしく、子供の行方も犯人も分からないまま。「黒いフードを被った男が子供を抱えて逃げ去った」などのまことしやかな噂も流れ、この町を包むように存在する深い森を人々は恐れた。
そしてある日の夜、家の中の物音で目が覚めたジュリアは、今まさに息子デヴィッドを抱えて車で走り去ろうとしている人物を目撃。必死になってその車を追う彼女。一旦は車に乗り込みハンドルを奪おうとするも、車は横転。まんまと息子を連れて逃げられてしまう。
怪我を負った彼女は通りがかった警察車両に乗せられて行きつけのダイナーにいったん避難。しかし、いつもとは違うよそよそしい態度のダイナーにいる町の人々。自分の息子の写真を飾った祭壇のようなものを発見してしまった彼女は、こっそりダイナーから抜け出すが―。

 
ここまでが第一部。
寂れた町ながらも平和に暮らしていた看護師ジュリアが息子を誘拐され、逃げさる車を猛ダッシュで追いかける。そりゃあ、母親だからそうだろうとは思うんだけど、走るジュリアの顔が怖すぎる.. 分かるんだけど、それまでの柔和な看護師の顔が一変、鬼の形相で全力疾走。その顔をあまり長く映すものだから、そう言えば、、
 
 
 
 
【ここからはネタバレが】未見の方はご注意を
 オチを知ってから観る場合、面白さは1/10くらいになってしまいます
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そう言えばデヴィッドは息子なのだろうか?だって一度も「ママ」って呼んでない。それに一緒に住むベビーシッターは一体何者なのか。ジュリアの妹なのか?友達なのか?このあたりの説明が一切無い。冒頭ではジュリアは一人暮らしの看護師さんな雰囲気を醸し出していたから、よけいにちょっと不思議に。
あ、違う。今思い出したがお産の時に「あなたには子供がいないでしょ?」とトレーシーに言われていたっけ。だから一人暮らしだと思ったんだ。
 
The Tall Man_16そうこうしているうちに、ジュリアはダイナーを抜け出し、まんまと町民達の秘密の隠れ家的な場所へ。ここからストーリーは大きく蛇行し第二部となる。
ここではデヴィッドはジョンソンさんの息子で、ジュリアが誘拐したことが判明する。もちろん他の行方不明の子供達についても警察に追求されるジュリア。彼女は誘拐は認めたが、子供達が生きているのか死んでいるのか、死んでいるのならその遺体はどこにあるのかを決して話そうとしない。
ここにきてジュリアはサイコキラーとなったが、どこか腑に落ちない。
 
そしてもう一つ、その存在の意味が分かりにくいトレイシーの娘ジェニー。母親と姉にまで手を出した母親の恋人が我慢できないティーンエイジャー。何かのショックかストレスで失語症にかかっている彼女は、家を出たくてしょうがない。ジュリアが子供誘拐に関わっていると知って、自分を誘拐するように頼むほどだ。
ジュリア逮捕後、子供達の行方は分からないままだが、一時平和になったかに見えたコールド・ロック。しかし唐突にジェニーの姿が消えた。
 
ジュリア逮捕後の最終章
ジェニーを思いっきり誘拐するフードを被った男の存在で、これは組織犯罪だということが判明(と言っても町民や警察には謎のまま)。そしてそのフードの男は想像したとおり、ジュリアの夫、もしくは夫役だった医師。ではなぜそんなことを?
ジュリアの部屋に飾られていたアフリカ難民キャンプの子供達。帰る家も親も無く、海外からの支援で生きている彼ら。親の身勝手で不幸になった彼ら。きちんとした食べ物や教育さえ受けられない彼ら。そんな大人をジュリアは許せなかった。いくら体制に訴えかけてもどうにもならない現実に嫌気がさしていた。そしてそう思ったのはジュリアだけではなかったのだ。
不幸な子供が不幸な大人になり、不幸な子供を作る悪循環を断ち切るために作られたある組織。寂れた田舎町に住み着いては不幸な子供達を誘拐、きちんと育てることができる人に仲介する。
なんて独りよがりな・・
 
これが分かった時、どう思いました?
私は咄嗟には怒りしか感じなかった。
大きな家で、裕福で、上品で、確かな教育を受けさせることができ、何でも与えることができる
そんな人だけが親になる資格があるのか?そんな家でなければ子供を持つことが許されないのか?なんて身勝手で一方向な上から目線の考え方なんだろうか。
The Tall Man_25親から虐待を受けるような環境の子供が保護され、裕福な里親に渡されるのならまだ分かる。この町ではそうだったのか?少なくともデヴィッドは違っていた。デヴィッドが誘拐されてから、その母親は生ける屍になってしまった。ジェニーにしても十分な家庭環境とは言いがたくても、母親は充分ジェニーを愛していた。ジェニーの不満はティーンエイジャー特有のものであったかもしれないのに。
 
最後にドカンと不条理をたたきつけた本作。
裕福な女性の元に届けられたジェニーは色々と計算して逃げ出さないことに決めた。彼女は、本当に“幸せ”なのだろうか。ジェニーは頭の良い子なのかもしれないが、彼女のこの決心に少しゾッと感じたです。
ではまた