『ババドック 暗闇の魔物』 (2014) - The Babadook

「早く寝ないと〇〇がやって来て連れていかれてしまうよ」系な子供向けホラーかと思いきや、実はその魔物ババドックは親の心に巣食っていたというお話。孤立するのはだめだね、やっぱり…

■ ババドック 暗闇の魔物 - The Babadook – ■
2014年/オーストラリア/94分
監督:ジェニファー・ケント
脚本:ジェニファー・ケント
製作:クリスティーナ・セイトン他
製作総指揮:ジャン・チャップマン他
撮影:ラデック・ラドチュック
音楽:ジェド・カーゼル

出演:
エッシー・デイヴィス(アメリア)
ノア・ワイズマン(サミュエル)
ダニエル・ヘンシュオール(ロビー)
ヘイリー・マケルヒニー
ティファニー・リンドール=ナイト
バーバラ・ウェスト
ベンジャミン・ウィンスピアー

■解説:
1冊の絵本によって恐怖の底に突き落とされる母子を描き、シッチェス映画祭をはじめ世界各地の映画祭で絶賛されたオーストラリア製ホラー。「シャーロットのおくりもの」のエシー・デイビスが、精神的に追いつめられていく母親役を熱演した。

■あらすじ:
夫を事故で亡くしたシングルマザーのアメリアは、学校で問題ばかり起こす息子サミュエルの扱いに悩まされていた。ある晩、サミュエルがアメリアの知らない絵本を持ってきて読んでほしいとせがむ。それは「ミスター・ババドック」というタイトルの不気味な絵本で、物語は途中で終わっていた。サミュエルが異様に怖がったことから絵本を破り捨てるアメリアだったが、捨てたはずの絵本がいつの間にか戻ってきてしまう。それ以来、彼女の周囲で不可解な出来事が次々と起きるようになり -

映画.com

息子の出産の日、病院に向かう車が事故を起こし夫を亡くしたアメリア。息子サミュエルは無事に産まれたものの、7年経つ今でも事故のショックと夫を忘れられず、彼女は何度も何度も追体験しては眠れない夜に苦しんでいた。とは言え、夫の忘れ形見サミュエルを育てていかなくてはならない彼女は、夫との思い出が詰まっている家で、シングルマザーとして働きながら懸命に子育てをしていた。

夫との思い出が詰まっている自宅 -

本来であれば、温かい木造の家族の家だが、二人には広すぎる。仕事が終わって息子と家に帰り食事が終われば既に夜。まだ幼い息子を寝かしつけ、ようやく持てた自分の時間にテレビをつけてはみるものの、見るものは何もない。家の中の電気さえ点けずじまいで真っ暗なまま、ベッドに入るが眠れない。
そんな時に聞こえてくるのだ。息子の叫び声が -

ベッドの下を怖がり、タンスの中を怖がり、一つ一つ何も潜んでいないことを一緒に確認して、安心したところを再度寝かしつける。良き母アメリアは毎日、儀式のように繰り返す。家は世界で一番安心な場所。家の中には何も怖いものはいない、隠れていない、入って来るはずがない。安心しておやすみ。隣で寝てあげるから -

だが、サミュエルに手がかかるのはそれだけではなかった。学校でも問題行動が多く、友達に危害を加えかねないと注意され監視を付けるとまで言われたアメリアは、勢いで学校をやめさせてしまう。だがこの事が市の児童課に目を付けられることとなり、余計にアメリアを追い詰めることに。

そんなある日、いつものようにベッドで絵本を読んでやろうとすると「これを読んで」とサミュエルが持ってきた見慣れない一冊の絵本。タイトルは”ミスター・ババドック”。表紙をめくると同時に奇妙で恐ろしい感じのする絵が飛び込んできた。

Babadook

バ・バ・バ ドック・ドック・ドック
黒い帽子に黒いコート
おかしな姿に見えるだろうが、
夜、彼の姿を見かけたら一睡もできなくなるよ
名前と姿を知った者は、逃げられなくなる
本当の姿を知ってしまったら、欲してやまなくなるよ
“死”を

とても、子供向けとは思えないその内容に、慌ててサミュエルの手の届かない戸棚の上に隠すアメリア。だが、ここから前にも増して眠れなくなったアメリアは、学校に通わないサミュエルとの時間も長くなり、精神的に追い詰められていく。
安心なはずの家の中に何者かの歩く音が聞こえ始め、黒い部屋の片隅から何者かの姿が浮かび上がる。その姿が、あの絵本にあったババドックに見え、恐怖のあまり絵本を破り捨てた彼女。サミュエルの奇行にババドックの影。逃げ場のない彼女に追い打ちをかけるような出来事が続くある朝、破り捨てたはずの絵本が綺麗に修繕され玄関に置かれていたのを発見したアメリアは、恐怖に顔をゆがませる -


人は誰しも本来の”自分”と、こうあるべき”自分”を毎日演じ続けていると言える。
優しく頼りになる夫に守られて、ごく平凡な毎日とやがて産まれるだろう子供との幸せな日々を想像していたアメリア。だが現実は、息子の誕生日に夫が無惨な事故死。息子を産んだその日が愛する人を失くした日になってしまった。
ショックと悲しみ。苦痛と悲しみ。幸せと悲しみ。孤独と悲しみ。孤独 -

7年経ってアメリアに残ったものは「孤独」のみ。子育てはしているものの、日ごと孤独がのしかかり、自分の妹にも隠せなくなってきている。何よりも、息子サミュエルがそれを感じ取っている。そして「孤独」と対に育った感情は「怒り」となって蓄積される。
その黒い穴に忍び込み、最初は息を潜め様子を伺っていたもの。いよいよ、アメリアのストレスが爆発しそうになったと同時に堂々と姿を現し、アメリア自身に語り掛けてきたもの。

Babadook

否定すればするほど大きくなる
お前の中に入って私は成長する
そして、その後どうなると思う?

アメリアはこの後、自身のババドックとの戦いに打ち勝ち、息子を守ることが出来た。だが一体どれだけの人が彼女と同じように戦うことが出来るだろうか?この世には戦わずに受け入れるほうが容易いことも多いのだ。

そしてこのお話には続きがある。
一見、打ち負かされたように見えたババドック。だが、それは地下室に密かに隠された、アメリアの手によって -


世界中の民話や伝承、果てはホラー映画に至るまで、人をかどわかし連れ去る魔物はたくさんの形をとって語り継がれている。そのほとんどはクローゼットにひっそり隠れて夜を待つ、または窓からこっそり忍び込む。相手の人間は老若男女関係ない。
子どもの内は、ただただその存在に怯えるだけだろうが、大人になると違ってくる。小さな嘘や何かやましい事が罪悪感という魔物になってベッドで眠ろうとする時にこっそりと近づいてくるのだ。

あなたにも覚えはありませんか…?

 

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