B.クローネンバーグ『ポゼッサー』 (2020)

デヴィッド・クローネンバーグの息子ブランドン・クローネンバーグ監督作。前作『アンチヴァイラル』からの長編2作目となる。無機質な背景と生々しい“有機物質”が隣り合わせに描写される雰囲気は前作と同じ造りで、今回は飛び散る“血液”が有機物質となる。不思議な世界観も前作と同じ。またもや観る人を選ぶ系作品(‘ω’)

■ ポゼッサー　 – Possessor – ■

■解説：
鬼才デビッド・クローネンバーグを父に持つブランドン・クローネンバーグ監督の長編第2作。第三者の脳に入り込む遠隔殺人システムを使う殺人者と、人格を乗っ取られた男との生死をかけた攻防を、冷徹で研ぎ澄まされた映像や過激な描写の数々とともに描くSFサスペンスノワール。

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あらすじ：

感想

前作『アンチヴァイラル』では白く清潔で無機質な世界でやり取りされる“セレブのウィルス”を取り扱ったB.クローネンバーグ監督。8年の時を経て長編2作目である本作『ポゼッサー』（意味：所有者）では、無表情な主人公が無機質な部屋に横たわりながら他者の身体を乗っ取り殺人を犯しては真っ赤な大量の“血液”を浴びる。

標的の殺害方法は他にいくらでもあるのに刃物を好んで使い、何度も何度もまるで相手を憎んでいるかのように刺し続け血液を豪華な報酬のように浴びるターシャ。だというのに、乗っ取った身体から離脱し自分の力で自分の身体に戻ることが出来る唯一の方法「自死」に対しては、臆病なほどに手が震えてどうあっても銃の引き金が引けない。離脱はいつも犯罪現場に駆け付けた警官の発砲によるものであった。

その事以外はいつも見事な仕事ぶりであった彼女が、今回窮地に陥る。殺人任務の遂行途中で乗っ取った男の意識が覚醒し制御不能となったのだ。一つの身体に二つの意識。目覚めた男テイトは、逆にターシャの意識を共有し、彼女の家族が暮らす自宅にまで訪れる。

今回の標的はいつもテイトを下に見て馬鹿にするIT企業社長のジョンと、テイトの恋人であるジョンの娘。殺害の理由はテイトには関係ない企業間の問題であったものの、乗っ取りの対象に選ばれたテイトにはジョンを殺したくなるような理由があったからに他ならない。

蔑まれても大人しくジョンに対応していたテイト。愛してはいたものの住む世界、考え方にどこか隔たりがある恋人。彼は疲れていたはずだ、そんな者たちとの毎日に。社長の娘が恋人であることへのやっかみが、違った意味で彼を傷つけていたはずだ。今のままでいいはずなのに、

ぶち壊したくなる衝動を抱えていたテイト。

ではターシャはどうだったか。
一度、任務で家を離れると長い間戻らない妻に、幼い息子もいるのだから仕事を辞めたらどうかと言ってくる夫。それはもちろんその通りなのだ。家族を優先させるべきなのだ。他人の意識を乗っ取るこの仕事はあまりに過酷なのだから。けれども辞められない。この「殺人」という任務を止めることが出来ない。それは彼女には根っからの殺人者の気質があるから。連続殺人鬼と言ってもいい。殺人の実感を感じるために自分の手に持った刃物で標的を刺す。一度では足りない。ずぶりと身体に入っていく感触を何度も何度も指先から受け取る。飛び散る血液や身体の組織が彼女をさらに興奮させる。こんなこと、家で夫や子ども相手に食事を作っていたのでは決して感じられない。

彼女にとって邪魔な者は“家族”だった。

深層心理に潜む二人の思考がラストにそのまま結びついていく。
誰が誰を殺したのかは、もはや関係なく、誰の希望通りの結果になったのかに注目すれば、それで分かる結末となっている。

今回のことで二人は自分の欲しいものがよく分かっただろう。これからは自分の思い通りに生きていけばいい ─

って思わず声をかけてしまった管理人momorexでした(‘ω’)

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