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最近、気になる女の子が出来た14歳男子が謎の男マッドと知り合い、色々な愛の形を知ることで少し大人に成長する物語『MUD -マッド-』。・・・とは知らずに観始めたこの映画。そんな事もあってか、反対にどっぷり話に浸かって感動さえしてしまった。監督は『テイク・シェルター』のジェフ・ニコルズ。とてもまともな役でマイケル・シャノンも出ているヨ。〈未体験ゾーンの映画たち2014〉

MUD -マッド- - Mud –

Mud

2012年/アメリカ/130分
監督・脚本:ジェフ・ニコルズ
製作:リサ・マリア・ファルコーネ 他
製作総指揮:トム・ヘラー 他
撮影:アダム・ストーン
音楽:デヴィッド・ウィンゴ

出演:
マシュー・マコノヒー(マッド)
タイ・シェリダン(エリス)
ジェイコブ・ロフランド(ネックボーン)
リース・ウィザースプーン(ジュニパー)
サム・シェパード(トム・ブランケンシップ)
レイ・マッキノン(エリス父)
サラ・ポールソン(エリス母)
マイケル・シャノン(ネックボーン叔父)
ジョー・ドン・ベイカー(キング)


解説:
長編2作目の「テイク・シェルター」が高い評価を受けた注目の新鋭ジェフ・ニコルズ監督が、少年のひと夏の冒険と成長をビターに描いた青春サスペンス・ドラマ。謎めいた危険な男と出会った14歳の少年2人が、彼の逃亡を手助けようとする中で、単純には割り切れない大人の世界を垣間見ていくさまをミステリアスかつほろ苦いタッチで綴る。

あらすじ:
南部のアーカンソーに暮らす14歳の少年エリス。ある日彼は、親友のネックボーンとミシシッピ川に浮かぶ島へと探検に繰り出す。そして2人は、洪水で木の上に打ち上げられたボートに寝泊まりしている怪しげな男マッドと遭遇する。マッドは愛する女性ジュニパーのために殺人を犯して追われる身で、この島でジュニパーと落ち合い、一緒に逃亡する準備をしていると告白する。エリスはその話に引き込まれ、愛する2人の逃亡を成功させようとマッドに協力するのだったが ―

(allcinema)


Mud

まずこの作品は、主人公の少年エリスが正義感が強く、それを表現する力を持ち、両親を大事にし、人に優しい性格で、だからこそ大親友がいて、最近気になる女の子が出来たという、色々な偶然が重なってこそ出来上がった物語だ。彼の家がボートハウスという設定も物語に社会的な深みを与えている。

父親は魚を捕っては卸す仕事(漁師とも違って、とても規模は小さい)で基本的には貧しく、母親は生活に疲れ満足しておらず離婚を持ちかけている状態。それでも両親の息子に対する愛情は深く、それが分かるだけにエリスは少しもたげる両親への不満をあまり外には出さない。元々が相手の気持ちを察することが上手な子だ。でも大人しいわけではない。好奇心や冒険心、好きな子に告白する勇気、少し喧嘩っぱやく自分の正義感に基づく行動においては相手を殴ることも厭わない。

Mud

親友のネックボーンは両親がおらず叔父に育てられている。叔父はミシシッピの川底をさらって得た貝や廃品を売って生計を立てている。決して裕福ではないけれど、大事な肉親である甥っ子を愛し、面倒を見ている。
この叔父が川底に潜る時に使う空気用ホースのついたヘルメットが古い映画に出てくるような時代物(思い出したのが『冒険者たち(1967)』)。
使い終わったそれを丹念に整備するネックボーンは機械に強い。おそらくもらったか拾ったかしたバイクを動くまでに修理する事もできた。そのバイクが彼とエリスの移動手段になっている。

そんな2人がある晴れた日、前々からの計画を実行する。
エリスの父親の大事なボートを使ってミシシッピ川を下り、川の中州にある無人島へと探検に出たのだ。そこには以前に起きた洪水の時から木に引っ掛かったままになっているヨットがあるという噂だった。
だが、2人がそこに見つけたものは、ヨットをねぐらに島に潜む男マッドだった。

金と引き替えに食糧をマッドに運ぶ事にしたエリス。
ネックボーンは怪しいからやめようと言ったが、マッドが何故、この島に隠れているのかの理由を聞いたエリスは感銘を受ける。それは最近、恋する気持ちを知ったからであり、同じように成就する事を願う心であり、何よりエリスが気になる女の子の彼氏になれた(と思い込んだ)という気持ちの余裕からであったかもしれない。
だから、島から逃げ出すんだというマッドの計画にも協力した。彼女のために罪を犯し、彼女を連れて違う世界に逃げていく。14歳男子には本か映画の中の、夢のようなお話であった。それが目の前で起きているのだ。

Mud

“愛”には様々な形がある。
友人同士の強い繋がり。親への尊敬。親や家族の無償の愛。10代はじめの「好きだ。いつも一緒にいたい」という、取りあえず自分のものにしたい幼い気持ち。身体を求め合う若い情愛。結婚することで神と法の下に宣誓する愛。
エリスが知っていたのはここまでだった。
だが彼はマッドと知り合った事で、愛し合っているからといって必ずしも一緒にいて、幸せな結婚へと進むわけではないんだ、という事を知る。両親の離婚話により、お互いを思いやる気持ちがあっても一緒に生活できない夫婦もあるという事も知る。他にも血の繋がりはなくても、きびしく叱り、叱りつつも陰で協力する親のような気持ちと友情が織り交ぜられた愛情。気のある素振りを見せていたのに、急に心変わりする理解できない女の子の気持ちも。
大事なことは、困った時に何も言わずに助け合える人間の結びつき。そこには計算は無い。

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今回のマシュー・マコノヒーいいですねー。前は軽い感じであまり好きじゃなかったんだけど『キラー・スナイパー』くらいからの、ちょっと複雑な役どころに魅力を感じる。
本作は他にもこれまた複雑でありながら、ある意味よくいる役どころのリース・ウィザースプーンもいい。すっぴんで、悪く言えばあばずれな女性。
エリスの両親も大声を上げるわけでも無いのに、とても気持ちが伝わってくる。ラスト近くの「母さんを頼むぞ。これから母さんもつらい時期になるだろうから」のエリス父親の台詞に何故かいたく感動いたしました
忘れちゃいけないのが、元軍のスナイパー役サム・シェパード。この人も今まであまり好きじゃなかったんだけど、今回ファンになってしまった。

この皆が次の新しい世界に躊躇無く飛び込んでいくシーンも、静かでありながらとても力強いものが伝わってくる。強いて言うなら、あれかな。飛行機が飛び立った時、大阪や神戸の街を見下ろしながら、悩み事や小さなゴタゴタなんかどうでもよくなる、些細な事なんだって思う開放感でしょうか あー、飛行機乗ってどこか行きたい

悪役も出てくるし、ラスト近くにはアクションもあったりして、『テイク・シェルター』に比べて、とても分かりやすい話になっていると思う。残念ながら例の【TSUTAYAだけ】だけどもね・・・

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