『DAU. ナターシャ』(2020) - DAU. Natasha

かつてのソ連を丁寧に再現した広大なセットと役者、15年の歳月を使って作り出された、歴史に埋もれたごく普通の人々の物語『DAU. ナターシャ』。悩みを持ちながらも与えられたものの中で選択を繰り返し、しなやかに生きていく主人公ナターシャに習うことは多い。

DAU. ナターシャ

■ DAU. ナターシャ  – DAU. Natasha – ■
2020年/ドイツ・ウクライナ・イギリス・ロシア合作/139分
監督:イリヤ・フルジャノフスキー
   エカテリーナ・エルテリ
脚本:イリヤ・フルジャノフスキー他
製作:セルゲイ・アドニエフ他
製作総指揮:アレクサンドラ・チモフェーエワ他
撮影:ユルゲン・ユルゲス

出演:
ナターリヤ・ベレジナヤ(ナターシャ)
ウラジーミル・アジッポ(尋問官アジッポ )
オリガ・シカバルニャ(オーリャ)
リュック・ビジェ( リュック )
アレクセイ・ブリノフ( ブリノフ 教授)

■解説:
ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーとエカテリーナ・エルテリが共同監督を務め、“ソ連全体主義”の社会を前代未聞のスケールで完全再現し、独裁政権による圧政の実態と、その圧倒的な力に翻弄されながらも逞しく生きる人々を描いた作品。オーディション人数約40万人、衣装4万着、1万2000平方メートルのセット、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40カ月、そして莫大な費用と15年の歳月をかけ、美しくも猥雑なソ連の秘密研究都市を徹底的に再現。キャストたちは当時のままに再建された都市で約2年間にわたって実際に生活した。


■あらすじ:
ソ連某地にある秘密研究所では、科学者たちが軍事目的の研究を続けていた。施設に併設された食堂で働くウェイトレスのナターシャは、研究所に滞在するフランス人科学者リュックと惹かれ合う。しかし彼女は当局にスパイ容疑をかけられ、KGB職員から厳しく追及される ─

映画.com


1952年。政府の施設に併設された食堂でウェイトレスとして働くナターシャと同僚オーリャ。彼女たちの毎日は食堂と自宅の往復がほとんどで、たまにお客である政府研究所関係者たちとの飲み会で羽目を外す程度。
ナターシャは愛する人がいたが、妻子持ちであることから何も望まず関係を終わらせたところの美しい中年女性。今は孤独で仕事とお酒の毎日だ。オーリャはまだ若く美しく何の心配もなく、毎日を生きていれば先に幸福が待っているだろう、ぐらいに何となく考えている。仕事に対する責任感もまだなく、そのことでナターシャに注意されるが、若さゆえの傲慢な態度で改める気はない。

DAU. ナターシャ

はっきり何でも言い合い、つかみ合いの喧嘩になることもある二人の関係は、ほぼ姉妹か親子のようだ。つかみ合いが始まった時(それも長い)には、ロシアの女性って普通にこんな感じなのかな・・?ってちょっとこちらがうろたえたほど。

彼女たちの職場である食堂は、道に面してはいるけれどビルの半地下にあり、外が大きく見える窓がない。小さな食堂に二人の女性、いつも同じ顔触れの客は政府職員、店を閉めて帰宅する頃には外は真っ暗。羽目を外した飲み会でさえメンバーは同じで夜、誰かのアパートで。

2時間以上もの作品の中で、二人に太陽の光が一度もささない。最初はセットだからかな?って思ったけれど、食堂の半地下の窓から外を歩く人の足元には陽がさしている。そんな毎日の二人には、愛し落ち着ける家庭が無い。そりゃ、よくも悪くも家族以上の関わりになるのかな、と思う。お酒も豪快に飲み、酔っぱらうことも平気な二人だが、ナターシャは強い。どんなに飲んでもしっかりしている。

そんなある日、研究施設を訪れていたフランスの科学者と一夜を共にしたナターシャ。オーリャには「これきり。一度だけよ」と話していたが、翌日、職員たちと一緒に食堂に食事に来た科学者。ナターシャの顔には、平静を装いながらも、“何か”を待っている様子が見え隠れする。その夜、オーリャが先に帰り誰もいなくなった食堂に一人座り込み、今後を思って泣いて打ちひしがれるナターシャ。彼女には愛する人も、愛してかまわない人も無く、将来には不安が広がるばかり。足元は頼りなく、崩れていくばかりなのだ。

そんな夜に、いきなり彼女は連行される。


DAU. ナターシャ

ここまでで全体の2/3。ここまでは、ごく普通の真面目な女性のウェイトレス物語くらいな感じできていたのが、この「連行」でナターシャだけでなく、こちらも平手打ちを一発食らった気分になる。

そうだ、これは1950年代のソヴィエト連邦の話だった。

ソヴィエト連邦 について、そんなに詳しいわけではないけれど、それでも「社会主義」「スターリン」「KGB」→ 自由がない・怖い (-“-) くらいの知識はある。ナターシャだって分かっていたはず。ソ連全体主義の真っただ中で生きてきた彼女だから。

スターリニズム

スターリニズムまたはスターリン主義は、1924年から1953年までソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)の最高指導者を務めたヨシフ・スターリンの発想と実践の総体で、指導者に対する個人崇拝、軍事力や工作活動による暴力的な対外政策、秘密警察の支配を背景とした恐怖政治や大規模な粛清などを特徴とする全体主義を指す。また、それに通じる思想・体制である。スターリン自身はマルクス・レーニン主義と呼んだ。

Wikipedia

そういえば、こんな映画(『DAU. ナターシャ』)が公開されると知った時、ソ連の内情を映像にして“大丈夫…?”と感じたのを覚えている。どういうプロパガンダなんだろう?って思ったりもした(懐疑心)。けれど、その国には多くの人々が暮らし、日々生活を送っているのだ。そんな多くの中の一人ナターシャ。家族を持たないままに中年になり、先の心配が目に見えてきた女性は、世界中どこにでもいるごく普通の生きている人だ。

だが、食堂で一人泣いていた彼女とは打って変わり、連行されてからのナターシャの強さには感服する。慣れているのだろうか?見聞きして対処法を知っている?一人で生きてきた強さが彼女を支えた?などと色々考えるうち、第三者として観ている私は「実際はこんなものじゃなかっただろう。」「最初から内通者なんて思ってないから、命令をきかせるための脅しなんだろうな」「私ならどうなるだろう?」などに考えが至る。

足元が崩れそうになっていたナターシャ。彼女は、今起きた、この非人道的な事でさえ利用して、明日から生きていくための支えにする。ナターシャと尋問官は心が通じ合ったのでもなんでもない。このソヴィエト連邦で明日を生き抜くためにお互いを利用したにすぎない。
今の日本に生まれ育ったことを本当に感謝しなくてはいけない(-“-)


さて、この『DAU.』プロジェクトによる作品公開は今後も続く。本作『DAU. ナターシャ』の続編『DAU. 退行』は2021年8月28日から順に公開されているところ。内容は1960年代後半の秘密研究所を舞台にしたもので、全9章369分からなる超大作だ。『DAU. ナターシャ』は序章にしかすぎないらしい。

予告を見るとナターシャを尋問した尋問官アジッポが出ているよ。
劇場に行く勇気は無いので、大人しくレンタルが始まるのを待とうと思う。最近、長ーい作品を観たい病が出てきていたのでちょうどいいかな。
ではまた

長ーい映画作品

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