なんでしょう、この悲しい物語は…。またライアン・ゴズリングに騙された気がする。家族に恵まれず、不幸な子供時代を送ったであろう主人公ルークが、自分の息子と息子を産んだ女性を大事に思いたい気持ちはよく分かる。けれども彼女の今の生活を無視したやり方に大人になりきれていない、自己中心的な所が垣間見える。他にもやりようがあるだろうに、不器用すぎて泣けてくるわ・・・
■プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 - The Place Beyond the Pines -■
2012年/アメリカ/140分
監督・脚本:デレク・シアンフランス
製作:リネット・ハウエル 他
製作総指揮:マット・ベレンソン 他
撮影:ショーン・ボビット
音楽:マイク・パットン
出演:
ライアン・ゴズリング(ルーク)
ブラッドレイ・クーパー(エイヴリー)
エヴァ・メンデス(ロミーナ)
レイ・リオッタ(デルカ)
ベン・メンデルソーン(ロビン)
ローズ・バーン(ジェニファー)
マハーシャラ・アリ(コフィ)
デイン・デハーン(ジェイソン)
エモリー・コーエン(AJ)
■解説:
「ブルーバレンタイン」でコンビを組んだデレク・シアンフランス監督とライアン・ゴズリングの主演で贈るクライム・ドラマ。ある罪を巡る父親同士の因果が、その息子たちへと引き継がれて展開していくさまを、それぞれに視点を変えた3つの物語で描き出していく。共演はブラッドリー・クーパー、エヴァ・メンデス、レイ・リオッタ。(allcinema)
■あらすじ:
曲芸バイクショー出演で各地を転々として暮らす天才ライダー、ルーク。ある町でかつての恋人ロミーナと再開、彼女が自分の子供を産んで育てていることを知る。彼女と息子を養うため、曲芸ショーを辞めて仕事を探すがうまくいかず、銀行強盗に手を染めるようになる。がある時、強盗後の逃走に失敗し、たまたま現場近くにいた新人警官エイヴリーと銃を持って対峙することに ―
オープニングがいいですね。
筋肉隆々の精悍なる体躯に所狭しと描かれたタトゥ。出番のアナウンスと共にライダースジャケットを羽織り舞台までゆっくり歩いて行く背中を追うカメラ。曲芸バイクショーの花形“ハンサム”ルークには大勢のファンがいて、歩く道々声をかけてくる。けれども彼の歩調は変わらない。
これが彼の生き方なのだろうか。目標に据えたものしか目に入らない。まさしくスピードに乗って一点を目指して走るバイクのようだ。
だから驚いた。自分の息子の洗礼式に涙を流す彼を見て。
母親と人々と神に愛されている息子を見て感動したのか。自分には与えられなかったものがここにあると気付いて?愛すべき、守るべき、小さな命がここにあることを知って?
彼の目標はここで切り換えられた。バイクから小さな息子とその母親に。
だが彼はやり方を間違える。母親ロミーナには、他の男の子供ジェイソンを受け入れた新しい恋人がいる。ロミーナと息子が暮らす家も恋人コフィのところだ。だがルークはそんなことお構いなしに、ロミーナにつきまとい家に押しかける。「俺が面倒みるから。家も買ってやるよ」と。
この作品のいいところは、ドラマチックではない点。
こんな状況であれば映画的にはロミーナは今の恋人を捨てルークを選ぶ。そして何やかんやありながらのハッピーエンド。だがこの作品は違っていた。ロミーナは迷いながらも現恋人を選び、でもルークは諦めず金を稼ぐためにバイク乗りから銀行強盗へ。この辺りも決してドラマチックには描かれない。流れに任せ、目の前の事を彼が選んだだけだ。それがたまたま成功してしまう。
だが、町を騒がせていた銀行強盗は最後に失敗する。
逃げ込んだ他人の家で、もはや関係修復不可能になっていたロミーナに電話をかける。「頼むから一つだけ聞いてくれ。俺の事を息子には話すな。絶対に」
暖かい家庭を作るはずだった彼は、ここに来てようやくやり方を間違えたことに気付く。その結果、自分の行動を恥じたために息子の前から消えなくてはならなくなった。踏み込んでくる警察官の足音と怒声が聞こえる。ロミーナとはまだ電話が繋がっている。彼はこの時、どう考えたのだろうか。観念して逮捕される事を待ったのか。それとも、この世から消えようとしたのか。
恐らく考えている暇は無かっただろう。息子に合わせる顔が無い、と悔やんだ以外は ―
このルーク編で全体の1/3。
ここからは最後にルークを追い詰めることになった警官エイヴリーの話とルークとエイヴリーの同い年の息子ジェイソンとAJの話が続く。この作品はあまりドラマチックではないと書いたが、一つだけあった。因縁のあるルークとエイヴリーの息子が知り合ってしまった事だ。けれども、よくある展開「お前の父親が俺の父親を・・・」は最後まで無い。
ルークの息子ジェイソンは父親と同じ直球型だ。真っ直ぐにエイヴリーに怒りの矛先を向けた。そしてエイヴリーはそうされたことで15年もの間、喉につかえていた言葉を口にすることが出来た。だからと言って彼がその事で救われるわけではないだろうが、一つのけじめは付けられただろう。
ルーク編の事ばかりですごく偏った内容になってしまったけれど、これは最後までルークの事が頭から離れなかったせいです。孤独で哀れな最期を遂げてしまった彼のことが。
彼は結局、息子とはほとんど一緒にいられなかったけれど、彼の放浪癖というかバイク魂のDNAはきっちり息子に受け継がれていた。ただ違うのは、息子ジェイソンは母親と義理の父親の愛をしっかり受けて育ったこと。だから彼はバイクで放浪する事で人生を消費したとしても、父親のような悲しい最期は迎えないだろう。自分がそうされたように、人を愛し守ることをそのDNAに追加したに違いない。
父親ルークが手に入れられなかったものを
コメント
コメント一覧 (7件)
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 (The Place Beyond the Pines)
監督 デレク・シアンフランス 主演 ライアン・ゴズリング 2012年 アメリカ映画 140分 ドラマ 採点★★★ そんな所が特に目に付いてしまうだけなんでしょうけど、子供ってのは…
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命@ヒューマントラストシネマ有楽町
観てないんですよね。恋愛モノなのかな、っと思ったので「観たいリスト」から外しておりました。
なるほど、プライベートビデオっぽい感じなんですね。
確かにそれと比べると、きっとこちらは出来すぎたお話に感じますよね。
『ブルーバレンタイン』を観ていない私には「あー、こういう人いるよなー」って妙にどの登場人物も鼻につくことがありませんでした。あのAJにしても、いますよね、あんなとんがった高校生^^
それにしてもバイクっていいですよねー。
昔、一人で山中を走っていて警察に呼び止められた事を思い出しました^^; 50ccですけど
(二輪進入禁止だったんです)
同じ監督・主演コンビの『ブルーバレンタイン』がボクはダメだったので、
この作品もあまり期待はしていなかったんですけど、
格段によくなってましたよね!
おそらく世評は『ブルーバレンタイン』のほうが高いと思うんですけど、
あれはどうにもプライベートビデオくさくて好きになれませんでした。
リアルはリアルなんですけどね。
その点この作品は劇映画として格段に洗練されており、
とても観やすくなっていたと思います。
ただ『ブルーバレンタイン』でのリアリズムな印象が強すぎたせいか、
momorexさんとは反対にボクは話が出来すぎていると感じました。
でも今回momorexさんの記事を読んで、
「これは『ブルーバレンタイン』の反動でそう感じただけかもしれない」
と思い、もういっぺん観たくなってきましたね。
おっしゃるとおりライアン・ゴズリングはずるいですよね!
映画の3分の1しか出ていないくせに、
やっぱりこの映画は彼のものです!
そうなんですよー。
ルークの純粋で単純で不器用な犯罪者ぶりに、何とも言えない同情心が沸き起こって心から離れませんでした。
これを「酔う」って言うんですね。
ホントそんな感じで、他のパートに移った後もお酒が残って酔い覚めワルかったです(;ω;)
ゴスリングはいつもズルイです^^
前半のルークパートが心に居座って、
そのあとのエイブリー、ジェイソンのパートになっても
忘れられない印象の残る作品でした
そう、オープニングの長回しがとてもいいんですよね
私もぐっときました
俳優に酔うという表現も変だけど、ゴズリングに酔わされた、そんな気がします
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命
ライアン・ゴズリング、ブラッドリー・クーパー、エヴァ・メンデス、デイン・デハーン共演。「ブルーバレンタイン」の監督さん。
逃れられない「宿命」に取り込まれていくような、親の罪が子の世代にまで引き継がれるという血の因果を巡る運命の物語。
バイクスタントの男と一人の警官、そして彼らの息子たち。父親たちのドラマのほうが濃密だからこそ、歳月を経た息子たちの運命がまた活きてくるんですね。
ルーク…