チェコの民話「オテサーネク(食人木)」を下敷きに、とても子供向けの童話とは思えないようなどろどろ、ねっとりしたダーク・ファンタジー。登場する少女視点で描かれているというのに、この生々しさは・・!PG-12指定作品です。間違ってもお子様と鑑賞しないように。
■オテサーネク 妄想の子供 – Otesánek -■
2000年/チェコ・イギリス/132分
監督・原案・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル
製作:ヤロミール・カリスタ 他
撮影:ユライ・ガルヴァーネク
出演:
ヴェロニカ・ジルコヴァ(ボジェナ・ホラーク)
ヤン・ハルトゥル(カレル・ホラーク)
ヤロスラヴァ・クレチュメロヴァ(シュタードレル夫人)
パヴェル・ノヴィー(シュタードレル氏)
クリスティーナ・アダムコヴァ(アルジュビェトカ)
ダグマル・ストリブルナ(アパートの管理人)
ズデニェク・コザーク(ジュラーベク)
グスタフ・ヴォンドラチェク(郵便配達人)
イトカ・スムトゥナー(福祉事務所の職員)
■解説:
実写とアニメを組み合わせて、シュールでグロテスク、なおかつどこかユーモラスな独自の映像世界を探求し続けるアート・アニメ界の奇才、シュヴァンクマイエル監督。チェコの民話を下敷きに生み出された本作は、そんな彼ならではの映像魔術が全編に炸裂した、会心の長編ダークファンタジー。子宝に恵まれない夫婦の手で、赤ん坊代わりに溺愛して育てられた木の切り株が、いつしかあらゆるものを貪欲に飲みこむ化け物へと変貌するのをはじめ、そのさまを間近で見守る少女の存在感もインパクトがあって見応え満点。■あらすじ:
なかなか子宝に恵まれず、寂しい思いをしていたホラーク夫妻。ある日ホラークが、偶然地面から掘り出した、どこか人間の形によく似た木の切り株を夫人にプレゼントすると、夫人は早速それをわが子に見たててオティークと名付け、周囲の人々の奇異なまなざしをよそに、溺愛して養育するようになる。みるみるうちに成長したオティークは、食欲を異常に発達させて、飼い猫から人間まであらゆるものをむさぼり食うようになり- (WOWOW)
英題:Little Otik
子宝に恵まれない夫婦が偶然掘り出した木の切り株。その形が赤ちゃんに似ていたことから起こってしまった悲劇がこの作品。こう書くと気の毒な夫婦の妄想話のようにみえる。実際、切り株を手に入れた奥さんが「私の赤ちゃん!」と喜び、実際に生まれたことにするために9ヶ月間、お腹にクッションを入れて妊娠を装うまでは、そうだった。しかし!架空出産を経た切り株は、動きだし、泣き、ミルクを飲むようになる。妄想が現実となり大喜びする妻に引きずられるように協力する夫。近所の人は不妊に悩んでいた夫婦を知っているだけに祝福してくれる。しかしただ一人、隣の娘アルジュビェトカだけは、何かおかしいことに気付く。
で、どうなるの?ということだが、物語はほぼ民話のように進められる。
が、どう考えても子供向けには思えないある種、気持ち悪いカットの数々。不妊で悩んでいる時期に、スイカから赤ちゃんが生まれる妄想や、通りで魚のように売られている赤ちゃんの妄想が入るのは分かる。しかーし、少女視点になってからはさまる「性の目覚め」的カットが、やけに生々しい。
ボタンに針を通す場面や、少女の父親が食べたチョコからしたたり落ちる液体や、同じアパートに住むおじいさんのイヤらしすぎる視線などなど..。
第一、切り株ベビーの「可愛く無さ」と言ったら!泣き声は可愛らしい赤ちゃんのものなのに、見てくれはぷっくりすべすべには程遠くてがさがさしてるし、動きも人間というより昆虫みたい。
まぁ、この昆虫の触手のような動きが古いアニメみたいで、この作品が民話を元にしていることを思い出させてくれるけど、この観終わった後の気持ち悪さはなんだろう。グロシーンはほとんど無く、赤い血さえちょっと出てきただけなのに。この切り株ベビーの大食漢ぶりが吐き気を催すのか。そう言えば、食事に出るスープがあまりにも不味そうで、そのせいかな。
とにかく本作のタイトルは『グロテスク』というのが合っていると思う。
この何とも風変わりな気持ち悪い世界を描く監督ヤン・シュヴァンクマイエル。この監督の初の長編作品に『アリス(1988)』がある。原作は「不思議に国のアリス」でWikiによると大胆に脚色しているらしい..。これも録画してあるので、観てみようと思う。ちょっと怖いけど・・
監督ヤン・シュヴァンクマイエル
チェコスロバキア・プラハ生まれのシュルレアリストの芸術家、アニメーション作家・映像作家、映画監督。
1934年にプラハで、陳列窓の装飾家である父と裁縫婦の母に生まれた。1954年にプラハの工芸高等学校を卒業し(高校在学中にシュルレアリスムに触れた)、チェコ国立芸術アカデミー演劇学部人形劇科に入学した。ここでいくつかの演劇作品に関わった。1964年にクラートキー・フィルム・プラハで最初の映画作品『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を発表。以後、多くの短篇映画作品や『アリス』『ファウスト』などの長編作品を製作している。■作風
作品では「食べる」という行為を頻繁に扱うが、作中に登場する食べ物は不味そうに見えたり、執拗なまでに不快感を催すような描写がされたりする。こうした描写の理由のひとつとして、本人が「子供の頃から食べるということが好きではなかったからだ」と発言している。
「食」に関わるもの以外では、性的(エロティック)なメタファーが多く用いられるほか、両開きのタンス・引き出し付きの木の机・動く肉片や衣装など、複数の映像作品に繰り返し登場するモチーフが目立つ。人間の運命や行動が何ものかに「不正操作」されている、という自身のイメージを投射した作品も数多い。
政治的な主張が含まれている作品も多く、それらは検閲を回避するために非常に歪曲的な表現となっている。実写、アニメ共にストップモーション・アニメーションを多用し、CGなどは一切利用しないアナログ主義である。
■主な作品(長編)
・アリス(1988年)
・ファウスト (1994年)
・悦楽共犯者 (1996年)
・オテサーネク 妄想の子供 (2000年)
・ ルナシー (2005年)
・サヴァイヴィング・ライフ ‐夢は第二の人生‐ (2010年)
・昆虫(原題) (2015年公開予定)
(Wiki:ヤン・シュヴァンクマイエル)
コメント
コメント一覧 (3件)
makiさん、こんばんはー
民話を元にしているというのに、この監督のカテゴリーは「グロテスク・ファンタジー」ですね。
この後、『アリス』も観たんですが、動く絵本なのにどこか気持ち悪い、というか、やっぱり
「グロテスク・ファンタジー」でした。
>口元が動くでしょ、咀嚼音がしますでしょ
わかります、わかります!なんか生々しいんですよね。
ホントに独特の世界観ですねー。
ヤン・シュヴァンクマイエルさんですから、
どこか妄執的というか、
私はこの作品では「食べる」というもののグロテスクさを感じました
木がアップになって口元が動くでしょ、咀嚼音がしますでしょ
それがね、とても気持ち悪いんですよ
「アリス」も不思議世界で面白かったですね
のび太くんじゃないけれど、机に吸い込まれますよ(笑)
オテサーネク
チェコの食人木の民話「オテサーネク」を下敷きに描かれた作品です。なんていうか色々な意味でグロテスクで不気味。
木の赤子が様々なものを食べ尽くす物語。すべて見届けていた近所の少女の顔立ちからして不気味です。
母性というのは幼い少女でも持っているものなのですね(人形相手に遊ぶシーンでよくわかる)。本来であれば美しく素晴らしいことであるはずの「母性」の闇部分というのか自分とは別の生物に対する無…