ビル・パクストン監督作。互いに寄り添う家族の物語で始まりながら、狂ったとしか思えない父親の突然の凶行になすすべも無い少年を取り巻く地獄。父親は単なるサイコなのか、それとも超常現象が本当に起きたのか。次々続くサスペンスで盛り上げ、最後に全てを明かして観る者をきちんと着地させるストーリー。マシュー・マコノヒー出演の作品ではこれが一番好きかも。
■フレイルティー/妄執 – Frailty -■
2001年/アメリカ/100分
監督:ビル・パクストン
脚本:ブレント・ヘンリー
製作:フデヴィッド・カーシュナー 他
製作総指揮:トム・オーテンバーグ 他
撮影:ビル・バトラー
音楽:ブライアン・タイラー
出演:
ビル・パクストン(フェントンの父)
マシュー・マコノヒー(フェントン)
マット・オリアリー(フェントン子供時代)
ジェレミー・サンプター(アダム子供時代)
パワーズ・ブース(ドイル捜査官)
ルーク・アスキュー(スモール保安官)
■解説:
「ツイスター」「シンプル・プラン」の俳優ビル・パクストンが初めてメガホンをとったサスペンス・ホラー。低予算で製作され、目に見えない心理的な恐怖を描いた本作は、2001年にアメリカの小さな映画祭に出品されて評判となり、やがて大物映画監督たちの賞賛も集めて次第に公開規模を拡大していった。 (allcinema)
Contents
■あらすじ:
全米を震撼させているテキサスの連続殺人“神の手殺人事件”。難航している捜査を担当するFBIドイルのもとへ、ある嵐の夜、犯人を知っているという男フェントン・ミークスが訪ねてくる。犯人は弟だと言うフェントンに、どうせいつもの勘違いだろうと最初は適当に話を聞いていたドイルだったが、フェントン兄弟の少年時代に、兄弟の父親が“神の手”と称し連続殺人を行っていたというくだりになって、この男の話にドイルは興味を持つが-
Frailty :もろさ、はかなさ、弱さ、誘惑に陥りやすいこと
妄執(もうしゅう):妄想がこうじて、ある特定の考えに囚われてしまう事
ある嵐の夜、テキサス州ダラスFBI支局を訪れたフェントン・ミークスと名乗る男。ぼそぼそしゃべるこの男は世間を騒がしている連続殺人“神の手殺人事件”の犯人は弟アダムで、“悪魔がそこら中にいる”と謎めいた言葉を残し自殺を遂げたと言う。捜査担当のドイルは、何故弟が犯人なのかと問うと、男は彼ら兄弟の少年時代まで遡る恐ろしい話を始めた。
1979年。弟アダム出産時に亡くなった母親に変わり、弟の面倒をみてきた3歳違いの兄フェントン。信仰篤く愛情深い父親と一緒にバラ園の裏にある家で暮らしていた。仲のよい家族だったが、ある夜、眠っていた兄弟の部屋に「神の啓示があった」と言って父親が飛び込んでくる。
その内容は、父親の前に天使が舞い降りて「この世に悪魔達が放たれた。それを1匹ずつ滅ぼすのがミークス家の天命だ。いつ、誰を、何を使って滅ぼすのかは、いずれわかるだろう」と告げられたと言うのだ。どうせ何かの冗談だろうと特に気にしていなかったフェントンだったが、神の導きにより手に入れたと称する「斧、手袋、鉄パイプ」と「7人の悪魔の名簿」を持ち帰った父親に驚くフェントン。
それでも悪い冗談だと考えていたが、ある夜、見知らぬ女性を拉致し、「これが悪魔だ」と言って斧で殺すところを見せられたフェントンは父親は狂ったのだと恐怖する。弟アダムも全てを見せられていたが、まだ小さく純粋なアダムは父親の言う全てを鵜呑みに信じていた。
父親と弟を思い保安官のところへ相談しに行こうとするフェントンだったが、なかなか決心できない。そこへ第2の悪魔狩りが。今度は拉致するところから、兄弟揃って狂ったとしか思えない父親と行動することに。手袋をはめ、鉄パイプで殴り倒し、斧で惨殺する。全ての道具に意味があり、手袋を外して素手で悪魔の額を触ると、この悪魔が行った身も凍る所行が手から伝わると言う。死体は1人目と同じくバラバラにしてバラ園へ埋める。その全ての犯罪に手を貸すことになってしまったフェントンは、この家から弟を連れて逃げることを考え始めるが-。
こうして始まった男フェントン・ミークスの話。父親がこれらのことを“神の手”によるものだと言っていたことを聞いたドイル捜査官は、がぜんこの男の話に興味を持ち、自殺した弟アダムを埋めたバラ園へ同行することを決める。
さて、このドイル捜査官。腹黒そうな見た目でいかにも悪者っぽい。次に出てくる大人のフェントンがぼそぼそと話すその内容は、あまりにも現実離れしている恐ろしいもので、これが作り話だというなら狂っているとしか言いようがない。
少年時代の話になって登場する家族3人は、バラ園の裏のかわいい家に住む仲のいい家族。だが奇妙なことを言い出し、それを実行した父親はサイコそのものだ。どこまでも続く地獄のような日々に苦しむ兄の気持ちは、弟には分からず、無邪気に父親を信じ、被害者達を悪魔だと思い込んでいる。これらのことは神による天命なのだと。
自分を連れて家を逃げ出をうとしている兄を父親にばらしてしまった弟アダム。このことから兄フェントンは、父親から虐待とも言える恐ろしい目にあわされてしまう。兄と弟。父親と息子。信頼と不信、不安と恐怖の真っ只中で苦しむフェントンに思わず同情してしまう。
父親はサイコになってしまったのか、それとも本当に天命を受けたのか。
それらのシーンを観ているだけでは、どちらにも解釈出来るようにうまく描写されている。例えば最初に天使が現れたという場面では、トロフィーの天使が光り始めるが、それはライトが当たっただけとも見える。次の道具が見つかる場面もよく出来ていて、7人の悪魔を教えられる場面などは、「父親はとうとう狂った」と思ってしまうほどだ。
フェントンの苦しみをよそに、父親と弟は着々と悪魔を滅ぼしていく。そしてとうとうフェントン自身も父親の天命を信じ理解し、一緒に行動することを決めるが-
正直で柔和な父親の凶行、おもしろがっている風にも見える幼い弟、二転三転するストーリー、必ず意味のある無駄のない登場人物。そして最後には全てを受け入れ、ほっと胸をなで下ろす自分を発見できる。
本作は管理人momorexおすすめのサスペンス・ホラーです。邦題もなかなかいいですね。
ではまた