『サイコ リバース』(2010) - Peacock –

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邦題からイメージするのとは大分違う悲しいサスペンス・ミステリー。幼い頃から母親に虐待を受けてもう1人の自分を作った青年ジョン。題材は多重人格者だけど決して派手な移り変わりや、やり取りは無い。自分の中の悪魔に、あくまでも静かに対峙していく様子に思わず同情してしまう、悲しい物語だ。

■サイコ リバース - Peacock -■ 2010年/アメリカ/90分

Peacock

監督:マイケル・ランダー
脚本:マイケル・ランダー、ライアン・ロイ
製作:バリー・メンデル
撮影:フィリップ・ルースロ
音楽:ブライアン・レイツェル
出演:
キリアン・マーフィ(ジョン/エマ)
エレン・ペイジ(マギー)
スーザン・サランドン(ファニー)
ビル・プルマン
キース・キャラダイン
ジョシュ・ルーカス
グレアム・ベッケル

解説:
「インセプション」のキリアン・マーフィが多重人格者を怪演するサイコスリラー。「JUNO」のエレン・ペイジ、オスカー女優スーザン・サランドンら実力派キャストが脇を固める。

あらすじ:
ネブラスカ州の小さな町で暮らす銀行員ジョンには、女装して家事をこなす“エマ”というもうひとつの人格があった。ある日、自宅の裏庭に列車が突っ込む事故が起きたことから、エマはジョンの妻として世間の注目を浴びることになり-
 (映画.com)


ちょっと変わった役どころの多いキリアン・マーフィ。邦題に「サイコ」なんて付けば当然、「あ、サイコな役なんだー」と思う。が、これは違った。

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時が止まったような田舎町で暮らすジョンは地元の銀行に勤めている。いつもオドオドと落ち着き無い仕草で、人と関わることが苦手な彼は、地下の狭い部屋で書類整理に明け暮れる毎日。それでも彼はその仕事が生きがいであり、文句も言わずにきちんと毎日、出勤している。

1年程前に同居していた母親が亡くなり、今は一人暮らし。家は職場と同じようにきちんと片付けられ、規則正しい生活を送っていた。

ある朝、轟音と共にジョンの家の横を通る列車が脱線、家の塀や庭を破壊して玄関先で止まるという事故が起こった。その時に庭で洗濯物を干していたのがエマだった。
綺麗で上品なエマ。

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彼女はジョンが作り出したもう1人の自分、多重人格の片割れだった。
幼少期から母親に虐待され、私物化されてきた彼は、母親の死と同時に自分の中に“エマ”という女性を作り出した。

エマは愛情深く掃除、洗濯、料理などをこなし、出社時間になるとジョンに変わる。エマの時間は短く秘密の存在だったため、外出することは出来ず、外の様子はきっちりと閉められたカーテンの隙間から覗くことくらいでしか伺えない。隣の家の子供達を微笑ましく眺める彼女。家事をすることだけで精一杯の彼女には、自由な時間など無かった。

そこに起きた列車事故は彼女の存在を世間に知らしめた。当然、ジョンが多重人格だなどとは考えられないから、エマはジョンの妻だと認知された。いきなり世間の目にさらされたエマ。最初はジョンと同じく、おどおどとしていた彼女だったが、町の人に触れあうたびに少しずつ変化が起きる。
家政婦の存在でしか無かった影の自分が、他人に頼りにされ社会の一員だと認識した時、彼女は人の役に立ちたいと思い始めたのだ。元来優しい彼女は、そのために行動し始める。
しかし身体はジョンと共有しており、エマの時間が長くなればジョンの時間は短くなる。意見の食い違いも出てくる。そしてある日、毎日を規則正しく過ごし、潔癖症で融通の利かないジョンよりも利口だった彼女はある事を思いつく―


Peacock

途中からはエマが中心人物のようにも見えるが、ジョンの悲しい過去が画面全体を覆っている。
父親はなく、唯一の家族である母親に虐待を受け萎縮して成長した彼。宝物箱に隠していたチョコバーと野球カードは、大人になった今でも同じ場所に隠され、こっそりと楽しんでいる。会社帰りに寄る池(湖?)は自由に遊べなかった子供の頃、他の子供達が遊んでいるのを寂しく見つめていた場所なのかな。

時代は現代というより1960年代前後かな。のどかな町の住人が、ちょっと変わったジョンの家族を遠目にでも見守ってきたことが唯一の救いになっている。ジョンやエマに暖かく接する町長夫人ファニーや、保安官の存在が嬉しい。

Peacock

母親が死亡したと同時にジョンが作り出した女性エマは、ジョンの理想の女性像なのか、それとも母親代わりなのか。こんなことを考えるとまた悲しくなるが、亡くなって以後、閉ざされたままの母親の部屋に飾られた子供の頃のジョンの写真がある。
正装してお利口にテーブルに着くこの子供には、子供らしさが無く、とても愛らしいとは言えない何かが漂う。これは母親の理想とした子供の形であり、それを呪いと共に封じ込めたように見える。

そして勝手に行動し始めたエマに恐怖を感じ、阻止しようとしたジョン。その理由は、本作を観てぜひ感じ取って欲しい。これがエマの最後の行動に通じるものだから。・・不幸だ・・

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • キリアン・マーフィ良かったですねー。
    上から目線の役が多くて実はあまり好きじゃなかったんですが、
    おどおどジョンと優しいエマで、見直しました。びっくりした。
     
    >エマはジョンの母親としての理想像
    あー、そうですよね。母親を理想像で生まれ変わらせたんですね。
    それにしても可哀想なお話でした。エマに同情してしまいます..
     
    リンクのこと、いきなりですみませんでした[絵文字:i-179]
    とっくに張らせて頂いていると思い込んでいたのです..。
    こちらこそ、よろしくお願いいたします!

  • エマになりきったキリアンの演技が見事でした
    仕草、表情が女性のそれでしたよね
    またmomorexさんがジョンの写真のところで言及されているとおり、
    これは抑圧された「子供」のお話
    なかなか深い作品でしたよね
    私はエマはジョンの母親としての理想像なのだと思いました。
    だからこそ、思い出した母親に、エマの母性が拒否反応を起こしたのかな、とも。
     
    リンクありがとうございました
    私のほうからもリンクさせていただきました
    これからも宜しくお願い致しますね^^

  • サイコ リバース

    キリアン・マーフィ、エレン・ペイジさんが出演しています。多重人格ものですね。
    女装しても違和感が全然なかったキリアン・マーフィさん居てこそ成り立つ作品かも…。虐待されてきたせいで、女性の意識エマと本来の男性の意識とが両立しているジョン、でもある朝起こった脱線事故でエマを皆にみられてしまうんですね。
    朝の支度までがエマの領域だったのが、脱線事故のせいで次第にエマで居る時間が増えていく…ジョ…

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