『ミヒャエル』(2011) – Michael –

最近もアメリカで10年以上にもわたり監禁されていた女性3人のニュースがあったばかり。欧米では子供の行方不明者数が年間数千人という国もある。本作はウィーンを舞台に少年を誘拐したある男の毎日を淡々と紹介している。「ミヒャエル(Michael)」とはこの男の名前で、旧約聖書に登場する大天使ミカエルに由来したよく付けられるもの。その意味は「神に似たるものは誰か」。なんともすごい皮肉..
 

Michael_Movie2011
■ミヒャエル – Michael -■
2011年/オーストリア/96分

監督:マルクス・シュラインツァー
脚本:マルクス・シュラインツァー
製作:ニコラウス・ゲイハルター 他
製作総指揮:ミヒャエル・キッツベルガー
撮影:ゲラルト・ケルクレッツ
出演:
ミヒャエル・フイト(ミヒャエル)

ダヴィド・ラウヘンベルガー(少年)
クリスティーネ・カイン
ウーズラ・シュトラウス

解説:
35歳の男ミヒャエルと、ミヒャエルに誘拐され軟禁されている10歳の少年の共同生活をつづったドラマ。2人の間の奇妙でゆがんだ関係を描き出していく。2011年・第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された。監督は、ミヒャエル・ハネケ作品でキャスティングディレクターを務めたこともあるマルクス・シュライバー。カンヌ、ベルリン、ベネチアの3大映画祭受賞作を中心に日本未公開だった作品を一挙上映する「三大映画祭週間2012」で公開。(映画.com)

あらすじ:
ウィーンで保険会社に勤める男ミヒャエル。どこにでもいるこの大人しく控えめな35歳の男は、自宅に10歳の少年を軟禁していた。夕食時以外は基本的に軟禁部屋に閉じ込められている少年。しかしある日、薬局に出かけたミヒャエルが交通事故に遭ってしまい自宅に戻ることが出来なくなってしまう-

 


Michael_Movie2011どこからどう見ても人に害を与えるような人物に見えない男ミヒャエル。家は綺麗に片付けられており、仕事は真面目で昇進することも決まっている。大人しく控えめで、少し口べたなところを除けば、結婚相手に申し分無いとも言えなくはない35歳。

ミヒャエル-。自身の頭に天使の輪を持つこの男には秘密があった。
この男の住む小さな家には地下があり、素敵な水色のドアが付いた部屋がいくつかある。その中の一つのドアには外からしか開けることが出来ない閂がしつらえられていて、中にはこの男の宝物“少年ウォルフガング”が住んでいる。
窓は無い地下室だが、水道にトイレ、ベッドに小さなテーブル、棚には食べ物が置かれ、できる限り快適に過ごせるようになっている空間。仕事から帰るのを待ち一緒に摂る夕食。まるで父子家庭のようだが、この少年はミヒャエルに誘拐され、ここに軟禁されている。
いったい何のために?
 
Michael_Movie2011仕事帰りに買い物をし、夕食が出来ると少年を呼び一緒に食事。その後、一緒にテレビを見て9時には寝ろよ、と言うミヒャエルのあまりの普通さに、そうであって欲しくないと願ったが、、、
目的は性的虐待だった。
ちょっとショックだった..。
 
ミヒャエルは小児性愛者だ。とはいえ、普段の生活からは全く想像できない。一緒にスキーへ行く友人もいるし、ちょっと彼に気のあるような同僚の女性もいる。別に暮らしている母親や姉夫婦もいたって普通。近所の人と通りすがりに会話さえするミヒャエル。
だから、見つからない。バレない。
 
少年の世話はきちんとする。食べるもの、着るもの、時たま遊び相手にもなる。クリスマスには一緒にツリーを飾りケーキを食べる。完璧な管理者のようだが、時折、子供のような遊びを少年にしかけるミヒャエルは、やはりどこかおかしい、と言うより幼い。イタズラで部屋を雪まみれにされた少年の方が、どこか大人びて見える。
しかし虐待は続くのだ。
 
Michael_Movie2011本作はそんな2人の毎日を淡々と静かに、規則的に、まるで家族ドラマか何かのように描かれていく。しかし、時々はさまるドアの閂や虐待を受けているらしい様子(あくまでも、そのもののシーンは無い)。観ている側の想像に任せた、見せないシーンが非常に怖くショックを受け、かつ気持ち悪い。ミヒャエルがまるで教会の神父様のように見えるだけに、よけいに気分が悪い。

そしてミヒャエルが事故に遭って緊急入院し数日帰ることが出来なくなった時、彼自身も想像しただろうが、観ているこちらも最悪の状況があの地下室で待っているのではないかと考えてしまうサスペンスな展開。決して映像にはせず、残虐シーンは想像させるという手法。
ほーっと静かに見せながらも、こちらを疲れさせる作品だ。
 
一番ビックリしたのは、テレビニュースで「行方不明の子供たち」特集を見てしまったミヒャエルの反応だ。「子供がいなくなって悲しい日々を送っている。帰って来て欲しい」と願う親の姿に、驚き、怒りの表情さえ見せるミヒャエル。
子供を誘拐する小児性愛者の心情は分からないが、この彼の反応から説明出来ることがある。
それは「決して自分は間違ったことをしていない」という考え方だ。
その子供がここにいるのは正しいことで、親の元にいるよりも幸せなことだ、と思っていることだ。ペットでもない、よその子供でもない、家族に近い存在であり、それは自分の少年時代の投影なのかとも思えたが、どうだろうか..。
 
ドイツでは年間1000人の子供が行方不明になっているということだ。
ではまた

 

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • ミヒャエル

    異常性愛者と彼の自宅に軟禁された少年の姿を描いたドラマ。
    久々にぞっとする作品だった。ミヒャエルというのは少年を軟禁して暮らしている男の名前。一見善良な市民で、平凡な会

  • コメントありがとうございます!
     
    >私と同じ名前なので注目している作品
    あー、本当ですね[絵文字:i-228]
    マイケル、ミッシェル、ミヒャエル、ミカエル・・・
    「神に似たるものは誰か」こんな意味があることは今回初めて知りました。
     
    >「コレクター」
    ありましたねー!これはどちらかと言うと『羊たちの沈黙』と同じようなサイコな
    犯人のイメージがあります。
    だから観る側も最初からそういう犯人なんだと構えて観るのですが、、
    本作『ミヒャエル』は晴雨堂ミカエルさんが仰る通り、あまりに普通な人物を
    すごく穏やかに描いていくものですから、かえってこちらの方が怖かったです。

  •  私と同じ名前なので注目している作品です。
     
     むかし、ほぼ同様の展開の「コレクター」て映画がありましたね。主人公は昆虫採集が趣味の生真面目な若い銀行員。地下の秘密部屋に拉致した女性を住まわせる。部屋はできる限り女性の趣味に沿った家具や衣服や書籍を揃え快適に過ごせるようにしているが、食べ物は主人公が調理して持ってくる。
     
     ラストは主人公が負傷して部屋に行けず女性は衰弱死。主人公はもう少し従順になりそうな女を標的にまた狩りを始める。
     
     これが少年少女に向かったら、本作になります。
     
     「コレクター」の主人公は、いささか内向的すぎ、職場では同僚たちからからかわれていましたし、大金を当てて仕事を辞めているので、浮世離れ感があるキャラですが、本作は完全に平凡で善良な市民、というのが味噌ですね。

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